第3話『仕組まれた試合』


 トロイメア家を勘当されてから二年の月日が経った。

 相変わらず、俺は生きていた。

 あの声が俺を生かそうとするのだ。


 家を勘当されてから、俺はアスレイク領にある冒険者学校の門を叩いた。

 俺のMPの性質上、田畑を耕すだけでは生きられない。常に減る以上、魔物を定期的に狩るのは必須事項だ。

 それに、俺のラスボス召喚士としての職業クラスを開花させたいという想いもあった。

 もしかしたら冒険者学校でなら俺の訳の分からないラスボス召喚について、何か分かるかもしれない。

 だが、学校に入って一年と少し経った今でも一向に芽が出ない。相変わらず毎日MPが5ずつ減るだけだ。


 しかも、この冒険者学校での俺の待遇は……最悪だった。


 最初は平和だったのだ。


 入った当初は弱小一年生と指を刺され笑われるだけで済んでいた。


 だけど、この冒険者学校に籍をおいて半年が経った頃――どこからか俺が元トロイメア家の長男だったというのがバレた。


 それからというもの、学校側の俺に対する対応は杜撰ずさんな物になり、とある上級生からは目の敵にされるようになってしまった。



「おい、元剣聖様。まーだ学校に居やがんのか? いい加減辞めちまえよ」


 それがこの男――ライルだ。

 金髪の、その爛々とした瞳が印象に残る巨漢。

 斧使いの最上級生だ。


 ライルは平民の出で、家名を持つ事を許されていない。

 かくいう俺も今はラース・トロイメアではなくただのラースだ。


「俺は辞めるわけにはいかないんだよ」


 ぶっきらぼうにライルに答える俺。


 この学校の地下には学校が所有するダンジョンが存在する。


 そこの魔物相手に訓練・実戦できるのがこの学校の魅力だ。


 浅い階層であれば教職員が助けてくれる所もいい。ある意味俺にとって最高の学校といえるだろう。


 学校側は俺を邪険に扱いつつも、浅い階層で死者が出ると困るのか、俺が危なくなったら助けてくれるしな。



「はっ――何も召喚できないクソ雑魚召喚士が。お前の顔を見てるとムカムカすんだよクソ貴族。とっとと消えろ」


「もう貴族じゃない――」


「はっ、関係ねぇよ。要はてめぇのそのすました貴族然とした態度が気にくわねぇんですよ元剣聖様よぉ」


 まったく、なんて言いがかりだ。

 理不尽にも程がある。


 と、そこでライルは何か思いついたと言わんばかりに頬を歪め、


「お、そうだ。おい、元剣聖様。ちょいと俺と試合してくれよ?」


「はぁ?」


 一体何を言ってるんだこいつは?

 ライルとこの俺が……試合?


 言うまでもないことかもしれないが、俺は二年生の中で最底辺の実力しか持ち合わせていない雑魚だ。

 逆にこのライルは戦い方こそ大雑把だが、三年生の中で強い部類の男だ。


 そんな俺たちが試合?

 情けない話だが、するだけ無駄だろう。

 これは、ただライルが気にくわない俺をボコボコにしたいだけだ。


 そんな試合、俺が受ける訳がない。


「悪いけど断らせてもらう」


 と断った時だった――


「ほっほっほ、試合かぁ。いいですねぇ。それ、やりなさい」


 青髪のだらしない腹をした中年が現れ、そんな事を言い出した。


 この学校の校長――クロノ・ディーメ。



 俺が元トロイメア家の長男だと分かってから事あるごとに退学をほのめかしてくる男。


 ライルと合わせて、この学校で俺が相手にしたくない男が二人揃ってしまった。

 正直、こうなったら嫌な予感しかしない。


「冒険者を志す者、決闘には慣れておくべきでしょう。例え相手が強大であろうと、そこに挑む姿を学校は評価しますよ?」


「いや、それは――」


 俺が何かしら反論しようとするも――


「言い訳無用です。そもそもラース君。君の成績はいかんせん悪すぎる。座学はともかく、実技が非常によろしくない。そんな事では学校としては困るんですよ。そんな成績の生徒を学校が輩出するなど、学校のレベルが低く見られてしまうじゃありませんか」


 そこで校長は何かを思いついたと言わんばかりに「そうだ」と前置きし、


「ラース君。上級生と試合する勇気すらないのであれば……君は退学です。試合さえすれば退学は無しとなりますが……どうなさいますか?」


「なっ――」


 なんだ? その条件は?

 そんなの、受けるしかないじゃないか。


「あっはっはっは。こいつはいいや。俺はどっちでも構わねぇぜ元剣聖様。負け犬みてぇに学校から逃げるように去るのもよし。元剣聖様に一手指南して頂くのもよしってやつだ」


 指南とはよく言う。

 ただ俺が気にくわないから叩きのめしたいだけだろうがっ!


 しかし、そう喚いても事態は好転しない。

 どのみち、俺の答えは限定されてるんだ。


「……分かりました。ライルと決闘……します」


 俺はそう答えた……というよりは言わされた。


 そんな俺の答えに気をよくした二人は



「おお、そうか。ではさっそく手配しよう。放課後、学校の闘技場に来てくれたまえ。君たちの試合、楽しみにしているよ」

「くっくっく。マジかよ闘技場かよ。こりゃいい。元剣聖様の雄姿、みんなに見物してもらえるってぇわけだ」


 なんて言い残し、去っていった。


 俺はただ一人、その場で


「ちくしょう――」


 そう、呻く事しかできなかった。


★ ★ ★


 ――闘技場・戦士控室(ラース側)


 俺は、これからライルと戦う。


 自前の武器の使用は今回認められていない。


 この戦士控室にある武具の中から選んで持っていくという仕組み。

 勿論、ここにある全ての武器は刃引きされていて、相手に致命傷を負わせないものしか置かれていない。


 だが――


「どれもこれもボロボロじゃないか」


 鎧も、剣も、斧も、どれもこれも錆びていたりとまともな物が何も置いていなかった。

 しかも、床には大量の荷物を移動させたような跡があった。おそらく、元々あった質の良い武器を誰かが粗悪品と入れ替えたのだろう。


 心当たりはいくらでもある。ライルの仲間がやった可能性もあるし、校長が噛んでいる可能性だってある。

 まったく……敵ばかりで嫌になるね。


 俺はその中で比較的まともな錆びた剣を持ち、闘技場へと出た――



★ ★ ★


 ――闘技場・戦士控室(ライル側)


「ライル君。調子はどうですか?」


「おぉ、校長。どうしたんだよこんな所まで来て」


「いえね。君にお願いがあって来たのですよ」


「お願い?」


「ええ。単刀直入に言いましょう。ラース君との試合ですが……事故を装って彼を殺害していただきたい」


「……へぇ、いいのかよ?」


「事故ならば仕方ないですからね。それに、さる方の依頼でもあります」


「ハッ――。とことん嫌われてるんだなぁ元剣聖様は。ざまぁねぇや」


「成功した場合の報酬は――」


「――要らねえよ」


「はい?」


「そのさるお方だってどうせ貴族だろ? そんな奴からの施しは要らねえよ。俺はな――貴族が大っ嫌いなんだよ。そんな奴の手駒らしく振る舞うのはごめんだ」


「し、しかし――」


「なぁに。安心しなよ校長。なにもらないって訳じゃねぇ。元貴族とはいえ貴族を叩ききれる機会なんてそうはないだろうからな。元剣聖様の殺害。きちんとやってやるよ」


「……感謝します」


「はは、別にいいっての。ああ、そうだ。俺があいつをった後、学校側からきちんとあれは不慮の事故でしたって広めといてくれよ? 殺人鬼だなんて広まったら冒険者として生きづらくなるだろうからな」


「ええ。お任せください。では――」


「おう」


 そう言ってライルは刃引きもされていない斧を担いで闘技場へと赴くのだった――





★ ★ ★


 ラース 13歳 男 レベル:12


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:68/68


 MP:1223/上限なし


 筋力:36


 耐性:43


 敏捷:41


 魔力:175


 魔耐:162


 技能:ラスボス召喚[詳細は別途記載]・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収


★ ★ ★

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