第4話『迫る死――』
「それでは……始め――」
ライルとの試合が始まった。
俺とライルの力量差は歴然だ。
それはライルも承知しているはず。ただあいつは俺を痛めつけたいだけだ。
だからあいつは俺を出来るだけ痛めつけてやろうと、試合を長引かせるはず。
正直、大怪我だけは絶対に避けたい。
傷つくのが怖い。痛いのが怖い。そういう理由もないわけではないが、それ以上に大怪我を負いたくない理由が俺にはある。
大怪我でもして寝込めば、それだけ俺の魔物を狩るペースが落ちてしまう。
それだけは――避けたい。
だから、この試合での俺の目標は……なるべく後に引かない感じの怪我を負う事だ。
そう考え、回避を意識しながらライルに向き合うが――
「らぁぁぁぁっ」
「なっ――」
ライルは……刃引きもされていない斧を俺に向かって全力で振るってきた。
迫る死の予感。
回避を念頭に置いていた俺はかろうじてその一撃を躱す。
「ちっ、避けんなっ、おら」
「うごっ――」
斧の振り下ろしくらいで隙を見せるライルではなく、躱されたとみるやその巨漢で体当たりしてくる。
まともに喰らい、俺は地面に這いつくばる。
ここで――理解した。
ライルは……俺を殺すつもりだ。
本気で殺すつもりで斧を振るってきている。
『……び……さい……』
「嫌……だ」
死にたく……ない。
死んで……たまるかっ!
「うおぉぉぉぉぉぉ」
雄たけびを上げる。死んでたまるかと吠える。
死なない為に、顔を上げて前を見る。
ライルはそんな俺をニヤニヤと笑いながら見ていた。
「おうおう。必死だなぁ元剣聖様よぉ」
「く……そ――」
闘技場に居る教職員達を横目で見る。
誰もかれも、ライルが俺を本気で殺そうとしていたのを見ていない。
いや、見ていなかったかのように振る舞っている。
見物している生徒たちもライルを応援、もしくは俺を罵倒するだけだ。
そんな中、校長と目が合った。
奴は――俺を見て笑った。
「そこまで……俺を嫌うのか――」
俺がこの学校に……ライルに何をしたって言うんだ。
なんで……なんで俺だけがこんな目に――
「おいおい大丈夫か元剣聖様よぉ。あぁ、今は臆病な召喚士様だったか? なんなら召喚するまで待っててやろうか?」
「く……そぅ」
俺が何も召喚することが出来ない事を知っててライルは挑発している。
分かっているけど……それでも悔しくて仕方がなかった。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉ」
雄たけびを上げ、無骨に突っ込む。
それをライルは鼻で笑いながら見ていた。
俺はライルに向かって、剣を振るう。
刃引きされている錆びた剣を振るう。
「ハッ――」
それをライルは軽く斧で受けた。
斧と剣では剣の方が素早く動かしやすい。
だが、俺のステータスではそこまで早く動かせない。斧を扱うライルの方が早く動けているくらいだ。
「ははははははははははははははははははは」
「く、ぐぅ――」
剣と斧。
そんなまともでない剣戟が交わされる。
だが、威力も速さも上のライルの斧に、俺の剣が敵う道理はない。
ライルは……俺を殺す気で、それでいて遊んでもいた。
屈辱。
本当に……悔しい――
「おらぁっ――」
剣戟の中、ついにライルの斧が俺を捕らえる。
そしていともたやすく吹き飛んでいく……俺の左腕。
「ぐっあぁっ――」
痛い。
痛くて痛くて泣きそうだ。
それでも……それでも右手に握った剣だけは離さないっ!!
「らぁっ――」
そんな俺の目に映ったのは……斧を振りかぶっているライルの姿だった。
さっき振るったばかりだというのに、もう体勢を整えて斧を振るおうとしている。
やはり……身体能力。ステータスに差がありすぎる。
ライルのステータスを見た事なんてないが、魔力関係を除いて俺の数倍のステータスに違いない。
そんなライルの斧を、こんな崩れた体勢で避けれるわけがない。
受けきる事も絶対に不可能。力が敵わないのはもちろん、剣も粗末な物だから確実に剣ごと叩き割られる。
――死
今まで感じたことのないくらい近くに死を感じる。
ゆっくりと斧がこの身に迫る。
やけに……斧の動きが……全てがゆっくりに見える。
そんな中、俺は過去に想いを馳せていた。
ああ――これが……走馬灯というやつか。
死の間際に見る過去の情景。
学校では、学校の教職員や生徒たちから冷たい目で見られる日々。
家では、父に見放され、仲良くしたいと思っていた弟には憎まれ、蔑まされる。
剣を振り続けた幼少期。
走馬灯は更に過去、更に過去へと流れていく。
そして――様々なゲームをプレイしていた学生時代を思い出す。
ああ、あの頃、俺は主人公よりもラスボスの方に感情移入してたなぁ。
確固たる信念を持ち、世界を敵に回すラスボス達をカッコイイと思って――
ん?
これは……この記憶は……なんだ?
これはもしかして……前世の記憶?
いや、そもそもラスボスって――
そこまで思い出した時――――――声がハッキリ聞こえた。
『呼びなさい!! このルゼルス・オルフィカーナの名を!!』
聞き覚えのある声が脳裏に響く。
俺はその声に従い――
「来てくれ――ルゼルス・オルフィカーナァァ!!」
その名を叫んでいた。
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