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読者のことを考える──。それは作家として、読んでもらうことを考えたら、読者という存在を慮ることは必須なのではないかと私は思う。けれど、木葉ちゃんはそれを切り捨てた発言をした。私はそれを許せないという気持ちと、圧倒的力によって捻じ伏せられて、それ以上何も言わせないように締め付けられていた。
私は努力という言葉を恨んだ。こんなにも、何か起こそうと私は頑張っているのに、何も実を結ばない。いや、それすらも努力することでさえ、才能という二文字を含められないのではないかと思った。正しい努力ができていない。
淡々と道が拓けた彼女が恨めしい。周りが彼女を発見したおかげで、今の私はいると言っても過言ではないというのに。
才能。一言ではない片付けられない言葉。才能があるから読者なんていらない、考えなくてもいい。
私は敬愛するということの重さを実感した。救ってもらいたくて信仰していた神さまが突然、大雨を降らせて人類を滅亡させようとしていたら信仰心なんてたちまち無くなって、敵になってしまうように。私の心の中ではそれが起こっていた。濁流のように非情と正論が入り混じって、私の中の清流を濁そうとしていた。見れば、もうどっちがどっちかなんてわからない。
重い、重すぎる。今まで口にしてきた数々の言葉が、私には受け止め切れないほど重かった。その重さは恐怖に匹敵した。
一文字、二文字、と言葉を連ねて文章を書いていくうちに恐怖が張り付いた。文章を紡いで小説を書いていくたび、恐怖に染まっていった。そんなはずはない、と否定するために更に小説を書いた。私は凡才だと気付きたくなかったから。
少しして、小説が読めなくなった。読むことに正解を求めたからだった。正解の文章を読まないと私は本物になれないからだ。
正解を求めるのは小説を書くためだ。小説を書くために小説を読む。そのせいで、自分の心には微塵も響かない。小説は、なんてつまらないんだ──と思い始めていた。漫画の目が光るような絵、映画の迫力のある絵(カット)。漫画も映画も、言葉を使わずに人を感動させることができる。人の心を動かすのに、言葉なんていらない。それなのに、小説は言葉が全てなのだった。どれだけ不器用で身勝手で、出来ることの少ないコンテンツなんだ。
私は、──私に才能がなくても私を見ていて欲しい。秋風諷真に、秋風木葉に。そして西宮先輩に。
小説は読めない、けれど小説は書かなくちゃいけない。私は今まで以上に自分を削った。そうしないと文章が生まれなかった。
気づけばすぐに二ヶ月が経って、サークルの合宿が始まるというところだった。
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