♯5-5
「なんだこの曲……」
「凄い、凄すぎる……」
生徒が口々に言う。【charm】が演奏するデプレッションなる曲は明らかにレベルが違っていた。
そう、金色堂弥勒はあの日、生徒会行事の絡みで少し学校に残っていた。そこで不意に、学園長の部屋から聞こえてきたある曲に一気に心を奪われた。寝ても醒めてもその曲が頭から離れなかった弥勒は、遂に学園長のもとからそのデモ音源を盗み、進行、メロディ、音使いをコピーした。
「おい、止めさせなくていいのかよ?」
「学園長、いいじゃないすか。だって、規約には必ずしもオリジナルじゃなきゃいけないなんて謳ってない。あれはあいつらのカバーってことにしましょうよ」
「ハリー……いいのか……?」
「いいも何も、あれはもう【デプレッション】であって、オレの【デプレッション】じゃない。もとい、あれを表現できるのは、オレだけだよ」
「まさか……お前…」
「原曲はオレのココにばっちり入ってる」
ハリーさんは自分のこめかみを人差し指で叩く。
曲の演奏が終わると、一気に歓声が上がる。泉はマイクに向かって言った。
「皆ごめん、もうこれでおしまい!」
生徒がざわつき出した。
「弥勒。気持ちは凄く嬉しい。でもね、あたしはこんな事をしてまで勝ちたくないんだ」
「会長?何を……」
「デプレッション、弥勒の曲じゃない」
「はぁ?おい瑠璃原!どういうことだよ!」
「ごめん、羅紗。気付いてたのに言わなくて……」
「……ンだよそれ。知らなかったのはおれだけかよ。やめたやめた!」
羅紗はギターをスタンドに立てると、壁を殴ってステージから立ち去った。じんと痛む拳。
「自分は……会長に……」
「あれはお前らの曲だよ」
ハリーさんがステージの下から呼びかけた。
「それでいいじゃん。世の中にはさ、色んな曲がある。偶然被ったって不思議じゃないんだから」
「ハリーさん、まさかあの曲は……」
「細かいことはいいや。これで皆演奏が終わったよな?」
わっと生徒が湧いた。石動はひょこひょことステージに近付くと、マイクに向けて口を開く。
「い、色々ありましたが、これで全バンドの演奏が終了しました……」
いちご達は口々に言った。
「寂哉、楽しかったね?」
「あ、あぁ。確かに」
「緊張したけどな」
「悔いは、ないね」
「疲れたぁ、マンゴータルト食べたいなぁ」
「さて、今年のMVMを、学園長の白鳥沢……」
「レミーさんって言えよ!」
「失礼致しました!それでは学園長、今年のMVMは……!?」
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