♯5-4

 ガチガチの状態でステージに上がると、目の前は目眩がするくらいの人だかりになっている。まさか、いちごの初ライブがML学園のコンテスト、しかも超人気バンドの代理だなんて……

いちごはスタンドマイクを掴むと、ふぅと大きな深呼吸をした。


「いちごちゃん!リラックス!」

「寂哉!きばってけよ~!」

「希望くんかっこいい!」


 歓声を聴く度に、鼓動が早鐘を乱打する。真露が一歩前に踏み出すと、いちごの隣でシェクターのギターを鳴らした。


「うわっ!」


 超高速のピッキング、流れるようなスウィープ。高校生とは思えない目が回るようなギタープレイを披露する真露についていくように、沙月もパワフルなドラミングを叩き出す。


「ついてこれるなら、ついといで」


 いちごは勇気が出て来た。テンションがじわじわと上がってくる。曲名を叫ぶと、いちごはにっこりと笑った


「Driven!」


 寂哉のギターから始まる曲だ。客席が湧き上がる。


「あのバンド、ホントに初めてのライブですか?」

「だと、訊いたんだけど…」

「ボーカルの娘、存在感凄いですね」

「あぁ、皆が皆、主張が邪魔してないな。良い感じだな」


 レミーも冠城も笑いながら演奏を聴いている。


「乗ってきたね。いちごちゃん」

「会長、なかなかのバンドじゃないですか……」

「でしょ?うかうかしてらんないわね」


 曲が終わると、既に汗だくになっている。寂哉はふぅと息を吐き出す。

希望が寂哉の肩をぽんと叩いて言った。


「新曲、覚えてるか?」

「うん、大丈夫」

「なら安心だ。頑張ってこうぜ」

「次の曲!新曲です!」


――真露が温めていた曲。実は【shining quarter】時代に灰谷に聴かせた事がある曲

――クールじゃん、かっこいい!

その後、アタシはバンドを脱退しちゃったけど……


「影時雨!聴いてください!」


 大歓声の中、演奏が始まった。ハイテンションなドラムから安定感のあるベース、シャープな寂哉のギターにテクニカルな真露のリード、そしていちごのボーカル。


「やっぱ、タダ者じゃねぇバンドだったな」

「ん?」

「あ、冠城さんじゃないですか」


 ひょっこり現れたのは、ハリーさんだった。冠城を見て小さく頭を下げる。


「お前……」

「まぁいいじゃないすか。あ、あそこでベース弾いてるの、弟なんすよ。オレの」

「……やっぱりお前…」

「好きなんすよ。この学園。皆一生懸命ロックしてて。そんな中でオレもなんか作るのが楽しいし」

「……」

「ま、楽しんでって下さいよ。ほら、次は去年のMVMだったバンドですよ?」



 生徒会長の泉はワクワクしてたまらなかった。1年生ながらもこの学園を包み込むようなパワフルな演奏。無茶ぶりに近い状況でここまで楽しめる度胸。

――こうじゃなきゃ。


「瑠璃原、いけるか」

「アタシを誰だと思ってんの?」

「そうだな。おい、金色堂。どうした?」

「なっ、なんでもないよ」

「楽しんでいこう。皆」


 ステージに上がる【charm】。泉はマイクの前に立つと、にっこりと笑いながら言った。


「今回はね、凄い曲ができたんだよ。弥勒が作ってきたんだけど……」


 弥勒はドラムセットの前で首をコキリと鳴らした。


「まずはその曲を演って、最後に定番のを演ろうかと思うから。いいかな?」


わっと湧く歓声。羅紗はギターをじゃらんと鳴らす。


「じゃあ行くよ!」


 泉がベースの低音弦をグリッサンドして言う。


「デプレッション!」


 レミーが椅子をガタンと鳴らして立ち上がった。


「なっ……」

「どうしたんすか?学園長」


 ハリーさんがレミーの肩を叩いて言う。


「今だって、でっ……」

「いいから、聴きましょうよ。あいつらのを」

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