♯5-3
「おい、ちょっとマジで言ってんのか?軌騎」
百合根はコンテストを前にギターのチューニングをする軌騎に言った。軌騎はリッケンバッカーのギターをピックを使わず指で鳴らしながら気のない返事をした。
「あぁ、そうとも」
「【GIZA-GIZA】も2曲いったぞ?なんでおれらは1曲なんだよ?」
「私には、やるべき事がある。それに安心してくれ百合根、野々村。次の曲はかなり自信作だ」
ライブ仕様にしている戦隊ヒーローのお面を額に携えながら、ジャズベースのチューニングを合わせた野々村。
――こいつ、変わってるからなぁ。
初めから分かっていた。お面を着けないと演奏もMCもできない超人見知り。しかし逆にお面を着けた軌騎はギターテクといい歌といい、高校生離れしたスキルをもっている。
「さて、行こうか。今回の計画は必ず成功させる。横溝先生の名にかけてな」
横溝正史を崇拝してるのはお前だけだよという言葉を飲み込み、野々村と百合根はステージに向かった。
既にステージには歓声があがり、プロジェクターには【真珠郎】の名前がでかでかと乗っている。軌騎はアンプのスイッチを入れると、足下のエフェクターを踏み、ディストーションに切り替える。
「【真珠郎】罷り通る」
わっと沸く歓声。掌でギターを抑え、音を止めてマイクに向かって言った。
「悪魔が来たりて笛を吹く」
曲名を発表すると、百合根のバスドラが鳴り響く。指でギターを爪弾きながらおどろおどろしいフレーズを鳴らす軌騎。
「キワモノのバンドですねぇ」
「あのボーカルは上手いんだよ。うちでも屈指の腕前だからな」
自在に指板に指を当てながら高速のフレーズを鳴らす野々村と軌騎。ノリこそやや【GIZA-GIZA】ほどのものはないが、その演奏スキルで生徒を間違いなく魅了している。
――曲が終わると、軌騎はギターを抱えたままアンプのスイッチを切った。マイクに向かって言う。
「諸君に、明らかにしなければならない事がある」
ざわつく講堂。冠城とレミーも顔を見合わせた。
「以前、この学園で曲の盗難事件があった。私はその事件を暴く為、推理を巡らせていた。そして、今それを明らかにしようと思う」
「はっ?」
「相変わらず軌騎センパイ、ぶっ飛んでるなぁ。セーラー〇ーンのお面で」
百合根はスネアを鳴らす。
「いらない、百合根」
「細かい、軌騎」
「恐らく犯人は、今回のコンテストでそれを自分の曲として披露するだろう。それはそうだ、皆その曲名を知らないのだからな」
「……」
「そして、その曲名は……!」
はらり
力を入れすぎた軌騎の声の圧力と荒い鼻息のせいで、軌騎のお面のゴムが切れた。極度の人見知りの軌騎ははわはわと狼狽えた。
「おい!なんなんだよ!」
「すっ、すいませんっ!お騒がせ!」
「いい、もう帰るぞ軌騎!」
軌騎を引っ張るようにして野々村と百合根はステージから引っ込んだ。
「……ったく、しゃあねぇ奴だな」
2人は顔を見合わせて笑い合った。軌騎は赤面したままダッシュで去って行った。
「にしても、次はうちらなんよね?」
「そうなんだよなぁ……」
寂哉は人という文字を何度も掌に書いては飲み込んでいる。
「真露、用意は?」
「これ見て、出来てないように見える?」
紫色のシェクターをぶら下げた真露。かつて【shining quarter】のギターを担当していただけあって、佇まいが神憑っている。
「いちごは?」
「やるしかない、もんねぇ」
「そうこなくちゃな。沙月……」
舞奈がいちごに言った一言を不意に思い出した。
「沙月、ライブになると発作が出るから」
「どうすりゃいいと?」
「笑って、頷いておけばいいよ」
沙月は屈伸運動をして、ドラムスティックをくるくると廻した。
「あたしに、ついてくればいいからね」
「……へ?」
「行くよ」
真露がいちごと寂哉と希望に言った。
「だって。ほら、行くよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます