♯5-2

 いちごは開いた口が塞がらなかった。え?真露のバンド……うちら?まだバンド名も決まってないのに!

 寂哉においては心臓が早鐘を乱打している。何の準備もしていないどころか、バンド名すら考えられてない。

 希望もいつもはクールな表情を、あっけにとられたようなあんぐりとした顔で崩している。

 一方の沙月は、何も表情が変わらない。度胸の表れだろうか、はたまた、何も考えていないのか。


「うそうそうそうそ……訊いてた?真露……」


 舞奈が真露に訊いた。


「いや、アタシも初耳だった、けど……なんとなくそんな気はしてた」

「うわ~ぉ、すげ」


 目を真ん丸にし、庸平が寂哉に言った。


「初ライブがまさかのコンテストなんて、やるじゃん」

「ちょ、僕も一切飲み込めてないんだよ。何がなんだか……」

「とにかく寂哉、バンド名、今決めようぜ」


 息を荒くしながら寂哉は頭を抱え込んだ。


「さぁて、【shining quarter】の伽天から指名だ!そのバンド名は!?」


 教頭の石動が言う。寂哉はすっくと立ち上がって言った。


「代理の……【shining quarter】だからっ……

だ、だ、【ダイニングクォーター】!」


 ぴたりと空気が止まったような時間。周囲からはざわざわというざわめきが聞こえる。


「そりゃ……ないっちゃない?か……伽天センパイ……」

「いや、いいと思うぞ」

「いいんか~い!」


「それじゃ決まりだ!皆準備はいいか!?」



 トップバッターを飾るのは【GIZA-GIZA】だ。ベースとギターはチューニングを合わせ、忙しなくフレーズを何度も確認する。

 ドラムの佐須はくるくるとスティックを廻しながら首を鳴らす。ボーカルの段武は座り込んでリリックを何度も反芻する。

――MAGIC SPELL

これが佐須がコンテストの為に温め、じっくりと練ってきた曲。段武の書いたリリックもかなり攻めている。


「佐須よ、準備はいいか?」

「センパイ、俺っちなら全然無問題っすよ。負ける気はないですよ」

「自信満々だな」

「俺っち、いつもそんな気分っすよ」


 いつものように赤いベースボールキャップのつばを後ろにすると、段武はタンクトップ姿になり、ぼきぼきと拳を鳴らし出す。


「早く行きましょうよ、センパイ方。俺っち、興奮してしょうがないんすから」


――歓声の中、バンドメンバーがステージに上がる。佐須はドラムセットに座るとちょこんと一度降り、高さを調節してまた座る。戦闘服のような位置づけだろうか。サスペンダー。


「っしゃあ!てめぇら覚悟しやがれ!motherfxxker!bring it on!」


ぶわっと湧いたような歓声。


「まずはBASTARDIZATIONだ!」


思い切り歪ませたディストーションギターの音が鳴り響く。マイクを掴んだ段武はお立ち台に足を乗せるとリズミカルなラップで生徒を煽る。


「なかなか、インパクトのあるバンドですね」


冠城が隣に座っているレミーに言った。


「ドラムのちっけぇのが曲を作るみたいなんだが、なかなかのセンスだろ?」

「さすが、学園って感じですね」


――まぁ、あの伝説の事件に比べたらやや劣るが……


「よっしゃ次が新曲だ!かかってこい!」


わっと湧く歓声。


「next song is 【MAGIC SPELL】!hands up and scream!!」


暴れるような高速ドラム、観客はあっという間にモッシュピットに呑み込まれた。


「緊張しかなかて……」


 いちごは震えながら言った。


「馬鹿、僕だってそうだよ。なぁ希望」

「まぁ、武者震いってやつかな」

「よく言うよ……」


緊張しながらも、一同は静かに闘志を燃やしていた。


「なんも、耳に入ってこねぇや」

「とにかく、ベストを尽くそうよ。ね?沙月……?」


 沙月は何かをぶつぶつ呟く。


「どげんしたと?」

「……ふふっ」


 笑った。沙月が妖しげに。

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