♯4-5
「あっ!泉さんやん!」
いちごは廊下で鼻歌交じりで歩く生徒会長、瑠璃原泉を見かけると手を振って声をかけた。泉は馴染みの友達に久々に会ったような晴れやかな顔をしていちごに手を振る。
やや堅い顔をした真露と沙月はいちごにちらちらと目を向ける。
「泉さん!生徒会長やったとですね?」
「えっ、知らなかったの?」
「水くさいやなかですか!いや、同じ学校とに、なかなか会えんかったですねぇ。うち、御礼言いたくて捜しよったとですよ!」
「礼だなんて……」
いちごはぺっこりと頭を下げる。
「ML学園はどう?」
「最高です!大切なバンドもできたし」
「そっか、もう馬鹿な事なんて考えないことね」
「いちご……馬鹿な事って……」
「まぁ、よかやん!そげなこと」
泉は真露と沙月に言った。
「貴方達が、いちごちゃんとバンドを?」
「まぁ……」
「【シェクター姫】って呼ばれた元【shining quarter】のギターの椎名さん、ジャズドラムのカリスマの血を引いた天才ドラマーの埜上さんか……かなりの強者になるわねぇ」
「えっ、泉さん、真露ちゃんが元なんて?」
「あ、言わないほうがよかった?」
真露は恥ずかしそうに言った。
「隠してるつもりは全くなかったんだけどさ。実はそうなの」
「違和感ないのが真露らしいんだけど、にしてもいちご、知らなかった?」
「うち、高入組やけんねぇ」
「でも、【shining quarter】の凄さは?」
「一回観て、分かりましたよ」
「昔はね、【shining quarter】の曲は椎名さんが殆ど作ってたのよ」
「そうなん?」
「あはは、でもやっぱり人気あるのは灰谷先輩やら伽天先輩の曲なんだよね」
「【shining quarter】の息がかかった曲を演奏する、いちごちゃん達のバンド、楽しみだね」
泉はにっこり笑って背を向けた。
「くぅ~、頑張っていかんとね!」
「にしても、寂哉がバンド名なかなか浮かばないんだよねぇ」
「そうそう!とりあえず、この後どこ行こうか?久々にパフェ食べに行こうよ!」
☆
一方、弥勒と羅紗は購買の前にいた。ハリーさんは今朝拵えたばかりのバターロールを売っている。こだわりの逸品なのに、1個30円という爆安価額で売っている。
「どうだい?少年。今年のコンテストは……」
白いキャップを被ったハリーさんはにやつきながら2人を見て言った。
「やべぇ曲できたんですって。なぁ金色堂よ」
「まっ、まぁそうですねぇ」
「おっ、期待できるなぁ。そういやさ、さっき学校の前に記者がいたぜ。きっとお前らに目つけてんだよ」
弥勒と羅紗はバターロールに齧り付いた。思わずうまっ、と声をあげる。
「飛ぶだろ?」
「30円のクオリティじゃないですって」
「絶対商売する気ないでしょ?ハリーさん」
「いやいやいや、オレにとっちゃ、創作することは呼吸と一緒だからよ」
「かっけぇなぁ、ハリーさん」
「曲だってパンだってそう。言うなればオレは何かを作ることで自分を保ってんのかもな」
「えっ……」
「これ、名言だろ?さっきの記者に言えなかったんだよ。これ。コラム書けるだろ?」
苦笑いする弥勒に、がははと笑う羅紗。
「パクリとか、盗むとかはもっての外だぜ」
「ですよね~、ハリーさん」
羅紗はバターロールを完食するとハリーさんに言った。
「マジで美味いです。もう一個買いますよ」
「おう、30円!」
「なんだ?金色堂。いつもはガツガツしてんのに……」
弥勒は羅紗に言った。
「体調が優れないときだって、あるだろ」
「なんだよ、瑠璃原のことでも考えてんのか?」
「馬鹿っ!鳳!会長と言えって何回も……!」
「そこのでかい兄ちゃんは、なかなか真面目なんだな。ま、真面目すぎるのも損するぜ?リラックスしろよ」
弥勒は顔を真っ赤にして、口に捻じ込むようにほんのりフルーティーな香りのするバターロールを詰め込む。
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