♯3-2

「そりゃそうだよ。だって俺っち、音楽の神なんだもんさ」


 何をいきなり言い出すかと思えば、噴飯ものの一言に寂哉はファミレスで飲んでいたコーラを前に座る庸平に噴射するところだった。


「勘弁してくれ、こいつ、こういう奴なんだから」

「【馬刺】のメンバーも、俺っちをドラムにしたくてかなり頼まれたからなぁ。その代わり条件つけたんだよ。作詞作曲とバンド名を俺っちにやらせろって。ノエル・ギャラガーみたいっしょ?俺っちってば」

「佐洲くんは、ML学園ではバンドやってないの?」

「やってるよ。1個上の先輩と、【GIZA-GIZA】っていうバンドをね」

「それも、佐洲のつけた名前?」

「いや、俺っちそんなセンスない名前つけないもん」


――【馬刺】よりはいくらかましだろと思いながら寂哉は苦笑いを浮かべた。


「ところで、寂哉くんだっけ?」

「うん」

「明日、俺っち野試合やるからさ」


 うまそうにイタリア風プリンを食べながら佐洲は言った。


「俺っちのバンドの曲、もちろん俺っちが作るんだよね」

「なら【馬刺】と似た感じのバンド?」

「いや、歌詞は俺っちじゃないのよ。まぁ見てみてよ。度肝抜いてやるからさ」


 佐洲はイタリア風プリンのカラメルの部分を丁寧にスプーンですくいながらちびちびと舐める。その姿には残念ながら凄腕ドラマーの片鱗はない。



「さっ、曲できたよ!」


 いちご達は真露のLINEで呼び出され、共同の音楽スタジオに集まった。実質初めてバンドの集合だ。


「どんな曲なの?」

「いや、楽しみかねぇ」


 寂哉といちごが訊く。練習用のSGを持った真露がアンプにシールドを刺す。ギターを低いポジションに提げた真露はやはり格好いい。


「Drivin'」


 発音よく言うと、真露がギターフレーズを鳴らし始めた。希望はそれを見ながらルートをじっくりと聴いている。

 沙月はドラムセットから離れたところで椅子の座る部分にドラムスティックを当てている。


「どうよ」

「格好いいと思うよ!」

「真露ちゃんすごかぁ!」

「まぁまぁじゃん」


 希望はプレシジョンベースにピックをあてて探るようにフレーズを鳴らす。


「こんな感じかな?」

「お、もうプレイできる?」

「ルートが分かればね。あとはどう動くか……」

「で、曲の感想は?」

「最高」


 寂哉は自分のレスポールにクロスをかけながら訊いた。


「真露さ、佐洲って知ってる?」

「あぁ、佐洲四郎でしょ?」

 

 あぁ、あのっていう感じのノリだ。


「変な奴ね。お坊ちゃんみたいな感じの」

「あいつ、両親が音楽教師なんだよね」

「自分を音楽の神だとか言ってる」

「まぁ、天才っちゃ天才の部類かもしんないけど……」

「兎に角、良い奴だよ」


 真露と沙月の話を聞く限り、そんな風には全く聞こえないが……


「【GIZA-GIZA】は?」

「あっ、段武さんのバンドだ」

段武凛雅だんぶりんが。ボーカル」

「ボーカルってか、ラッパーね」

「めちゃくちゃリズム感がいい」

「いつも赤いベースボールキャップ被った」

「フレッド・ダーストみたい」

「広島カープのキャップだっけ?」

「あのキャップ、絶対に取らない」

「ハゲ隠してるって説もある」

「兎に角、良い人だよ」


 全く入ってこなかった。


「そんバンドが、どうかしたと?」

「あぁ、同居人の緒崙に連れられて、佐洲のバンドの演奏聴きに行ったんだよ」

「【GIZA-GIZA】やったっけ?」

「いや、別の人とやってる【馬刺】って」

「だっさ!!!!」

「どうせあの坊ちゃんがつけた名前でしょ?」

「……酷い言い様だな」

「んでさ、明日の野試合出るって言うんだよ」

「【馬刺】が?」

「なわけないじゃん!【GIZA-GIZA】がだよ」

「だよねぇ、でも相手が【shining quarter】じゃなきゃ、勝つんじゃない?」

「巧いの?」

「ML学園の人は皆巧いけど、このバンドは兎に角ノれる」


 真っ先にベースボールキャップを被ってるタトゥーがガンガン入ったリンプビズキットのフレッド・ダーストの姿が浮かぶ。


「聴いてみればわかるよ」

「それにしても、【shining quarter】、どんだけだろう……」

「ま、今のMVMが卒業したら、次は【shining quarter】だろね」

「今のMVMって、まさか……」

「そうだよ」


 真露がSGに肘を置いて言う。


「瑠璃原泉センパイのバンドよ」

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