♯2 真露side

 校舎の屋上。昔からここが1番落ち着く場所だったなぁ。なんて少しセンチメンタルな気分になりながら寝そべる。中学のときなんかは、ここで専ら曲を書いていたような気がする。やっすいアコギを持ってジャランジャラン鳴らしながら、ぎこちないメロディラインを口ずさんで……


「お前、相変わらずここで曲書いてるのかよ」


 伽天センパイだ。パン1じゃないセンパイはなんだか違和感がある。でも、パン1じゃないセンパイはなんだか格好いい。


「ここが1番、落ち着きますから」

「なぁ、お前さ」

「?」

「また、一緒にやらねぇ?オレと灰谷と、お前でさ」

「冗談よしてくださいってば」


 アタシはアコギを抱えたまま答えた。


「センパイには【shining quarter】があるじゃないですか?」

「バンドの掛け持ちなんか、やるだろ」

「灰谷センパイと、伽天センパイが組めば無双状態ですよ。アタシなんか……」

「あんま自分、過小評価すんなよ」

「それに、アタシ仲間いますし……」


 伽天センパイははははと笑い出した。


「だな」

「……やけにすぐに引き下がるんですね」

「なんだ?その気はあるってことか?」

「……いや」


 伽天センパイは立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだ。


「お前のシェクターがまた聴けたらいいや」

「どうも」

「頑張れよ」


 アタシは出て行く伽天センパイを目で追うと、アコギを置いてイヤホンを耳に突っ込んだ。なんだか今は曲が浮かびそうにない。だから、少し音楽を聴こうと思う。何がいいかな……レッチリって気分。【UNDER THE BRIDGE】なんか聴きたいな。



 階段を降りると、教室に戻る。なんだかリアルに戻ったような気分。いちごがこっちに向かってきた。


「真露ちゃん、曲でも作りよったと?」

「あ?あぁ、なんで?」

「ギター持ってるけん。ギター持っておやつは食べんやろ?」

「あは、あははは」


 面白い事言うんだね。アタシはつい笑っちゃった。


「さっきの野試合、凄かったね」

「うん」


 騎々センパイのバンドか、確かに上手いもんね。高校生レベルじゃない。まぁ、殆どのバンドのレベルは高いからね……

 

「あのさ、真露ちゃん」

「どした?」

「あの本日のおすすめパンって、食べたことあると?」


 ドキッとした。真っ先に灰谷センパイの顔が浮かんじゃうな。


「まぁね」

「え~!すごかぁ!じゃ昔、野試合に勝ったと?」


 言葉を濁す。


「あれはね、ホントに美味しいよ。エビチリバーガー」

「どんな味?」

「ピリッ、カリッ、じゅわっ、ふわっ、て感じかな」

「うわぁ、さっきご飯食べたばっかとに、お腹すいてくるごたぁ」


 いつかいちご達にも食べさせてあげたいな。あの最高のエビチリバーガー。やばっ、曲作らなきゃ。メロディ忘れないうちに……



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