♯2 沙月side

――明らかに勝負は決まったようなもんじゃん、とあたしは初めから思ってた。きっと初めて【真珠郎】を見た人はそのフォルムに騙されるだろうなって。

 本日のおすすめパンはどうやらハリーさんがこだわりにこだわったメロンパンみたい。やばい、めちゃくちゃ美味しいだろうな……あれ。


「あ、沙月ちゃんじゃん」


 あたしに声をかけてきたのは、中学んときに一緒にやってた庸平。相変わらずなんだかふわふわした感じの雰囲気だ。前髪なんかピンと跳ねたまんまになってる。あたしのヘアピン貸してあげたい。


「美味しそうだよね、メロンパン」

「うん……」


 もうだめ、お腹空いてしょうがない。


「ねぇ、沙月ちゃんさ」

「なぁに?」

「お腹空いたよね。お昼ご飯、食べた?」

「……まだだよ」

「そっか。お昼休み終わっちゃう前に食べなきゃね。じゃ」


――そんだけか~い。庸平はそう言うとポケットから出したチョコレートバーを齧りだした。


「ねぇ、埜上さん」


 珍しい奴が声をかけてきた。若杉寂哉くんだ。


「さっきの緒崙くんって、どんな人?」

「……変な奴だよ」

「そりゃ、分かるけど……」

「悪い奴じゃないよ」

「まぁ、一緒の部屋だし」

「げ、あいつと部屋一緒なの?」


 若杉くんは戸惑った顔をした。


「あいつゲーマーだから、しょっちゅうガンシューティングやってるよ」

「んと、バンドでは?」

「ギターと作曲はうまいよ。なに?あいつと組みたいの?」

「いやっ……そんな訳じゃないんだけど」

「あ、そうだ若杉くん」


 あたしは訊いた


「バンドやらない?」

「マジ?」

「うん、いちごちゃんに真露ちゃんに、あたしかな」

「もれなく布袋くんがついてくるけど、いいかな?」

「異論なし」


 正直、顔だけ見たら好みだし。


「曲は真露ちゃんが作るみたい。アレンジは皆でやって、だから若杉くんには、バンド名決めて欲しいな」

「え?僕が?」

「そ、君が」


 ちょっと無茶だったかな?でもいいや、若杉くん、マジメそうだし。ちゃんとしてそうだから……


「わかった」

「よろしく」


 とりあえず、お腹すいた。ハリーさんが恋しい。あたしは購買に向かう。本日のおすすめパンを作って精魂尽き果てたハリーさんは、いつもガリガリなのに余計に痩せて見える。なくなっちゃいそうなくらい。


「ハリーさん、なんか残ってる?」

「あ~……ちょうどよかった。1個余っちゃったんだ。2バンドとも3ピースだったから」


 ラッキー!ハリーさんの特製メロンパンが食べられるなんて……!


「凄い!でもハリーさん食べないの?」

「オレは作ったらお腹いっぱいなんだよ。ほら、あげるよ。食ってみな。イくぞ」


 よく分からない決めゼリフと共にハリーさんは焼きたてのメロンパンをトスしてきた。


「あっ!あっつ!」

「熱い内に食べないとイけないぞ」

「ハリーさん、なんかやらしいんだけど。でもありがとう。いただきます」


 ハリーさん特製メロンパンは表面のビスケットに掛かった絶妙な量のグラニュー糖がやや溶けてるのが最高だった。齧るととろけそうなバターの香りにふっかふかの小麦の香りがするパン生地。生きててよかった。


「どうだ?」

「うん、いくいく!」

「なんかやらしいなぁ」

「ハリーさんが言わないでよ~!」


 なんかとっても、得した気分。バンドもほぼ決まったし。

 あ~、このパン、口ん中からなくならないでほしいんだけど……

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