♯2 希望side
野試合が始まる。また中庭には全校生徒がわっと押しかけ、そのど真ん中にはまたあのM.Cがマイクを横に持って喋っている。
「全校のfreak boys and girls!今日もまたハリーさんの本日のおすすめを巡って激しいバトルが繰り広げられるぜ!さぁ今回のバンドは……」
二組とも3ピースのようだ、一組目は見たところ、パンクバンドのようだ、髪を赤くしたパンクヘアーに、金髪、ドレッドといった高校生らしからぬ風貌。もう一組は……
「変わったバンドだろ?」
おれの隣には昨日、野試合で勝者になったイケメンの1個上の灰谷センパイがいた。おれの肩にぽんと手を置いて、こっちを見て小さくウインクした。
「ありゃ、【真珠郎】だ」
3人組のうち、フロントマンらしき制服姿は、〇ーラームーンのお面、脇には戦隊ヒーローのお面にペ〇ちゃんのお面……ふざけてるのだろうか?
「お面って……」
「あれに騙されちゃいけねぇよ」
先攻はパンクバンド、【BULLET】だ。やはりメロコアバンドだけあって、勢いが半端じゃない。軽くモッシュができている。ジャンプを絡めながらスラッシュビートのパンクをガシガシと掻き鳴らす。
「格好いいじゃないすか」
「あぁ、勢いだけで押してないな。メロディもいいし、歌も悪くない」
灰谷センパイはだがなぁ……と告げると腕を組んで横目で見た。
「今回ばかりは相手がよくなかったなぁ」
「そんなに凄いんですか?」
演奏が終わった。フロントマンのBa.Vo担当のパンクヘアーが後ろに下がると、歓声が上がる。
「次は【真珠郎】だ!」
こちらは相対して少し陰な雰囲気が漂うバンド。ゆっくりとした足取りで現れると、ぺこりと頭を下げた。
「今日やってくれる曲は?」
「新曲の【可惜夜】を……」
「ん?聴いたことないナンバーだ!こいつは楽しみだぜ!それじゃ、スタンバイしてくれ!」
騎々センパイ(〇ーラームーン)のギターは相当使い込んだように見えるリッケンバッカー。ペ〇ちゃんはベースだ。ミュージックマンのスティングレイ。レッチリみたいなローポジじゃなく、ハイポジで構えてる。
「おっ」
フォルムとは相対するディストーションギターのリフが鳴り響いた。騎々センパイはどうやらピックを使わないらしい。指で爪弾くようにリッケンバッカーを掻き毟る。
「いつもはドロッとした曲なんだけどな」
騎々センパイがマイクに向かった瞬間、一同の空気が一気にその声に引き寄せられた。高校生とは思えない艶やかな声。同性だが、色気が半端じゃない。誰に近いかな……
「あの歌唱力、やばいだろ」
「……はい、凄い」
「あの騎々が、もし人見知りが酷くなければ、俺らはアイツらには到底敵わない」
「人見知り?」
「あいつは、あれがなきゃダメなんだよ。お面」
確かに、端から見たら縁日のお面を被ったバンドは笑ってしまうが、この【真珠郎】はそれも感じさせないくらいのパワーがある。しかもリズムキープもかなりいい。決して簡単じゃ無いリズムのはずなのに……
「決まりだな」
灰谷センパイはそう言ってどこかに行ってしまった。
もとい、何故おれに声をかけてくれたのか。よく分からなかったが……
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