♯2 寂哉side

 僕にとっての初の寮生活。男子寮も相部屋になっている。同居人は同級生。既にもう家具が入ってるという事は、彼も中学持ち上がり組だろう。僕は同居人に挨拶をした。


「今日からここに入ることになりました、若杉寂哉です。あ、君は……」

「ちょい待って、話しかけないで」


 彼は一生懸命画面にガンコンを向けて縦横無尽に跳び回るクリーチャーに発砲している。見る限り、弾道は百発百中。あまりガンシューティングに詳しくは無いが、巧い。


「っしゃ。まぁこんなもんかな」


 ガンコンを置くと、彼は立ち上がった。長い前髪、小柄でユニセックスな感じ。やや中学生感が抜けない細い切れ長の目


「ボクね、緒崙庸平おろんようへい。新人君、君は?」

「あ、訊いてなかったんだ」

「そりゃそうだろ。ボクは絶対に負けられない戦いをしてたんだぞ」

「……若杉寂哉って言うんだ」

「そっかそっか、そいつは悪かったな。許せ少年よ」


――君と同級生だぞ。もとい君の方が年下に見える。

 庸平のベッド脇には彼のギターが置いてある。彼はギター担当なようだ。ストラトキャスタータイプの左利きギター。


「寂哉は何担当?」


 いきなり下の名前の呼び捨てときた。しかし不思議と厭な感じがしないのは柔らかな喋り方のせいだろうか。


「僕はギター」

「レスポか、何が好きなの?」

「SUM41とか……」

「なるほどね、ならさ、【オーバーマイヘッド】は弾ける?」

「まぁね」

「ちょっと弾いてみて、アンプなくていいから」


 僕は【オーバーマイヘッド】のバッキングをチャカチャカと鳴らした。


「なかなかだね」

「君は何が好きなんだ?」

「ガンシューティング」

「そりゃもう判ったけど、僕が訊きたいのは音楽で……」


 庸平はギターを抱えると、16ビートのカッティングをチャカチャカ鳴らし始めた。シティポップのようなお洒落な感じのフレーズだ


「誰の曲?」

「ボクの曲」

「えっ?」

「中学のときに作ったボクの曲だよ」


 ML学園恐るべし。中学の時から音楽センスが半端じゃない。


「明日、学校だろ?」

「君と一緒さ」

「……明日の野試合のセッティング、見た?」

「あるの?」

「あぁ、そこまでは訊いてないよな。明日のバンドはね、なかなかのキワモノなんだよ」

「そんなに?」


 庸平は言った。


「文学風和ロック3ピースバンド【真珠郎】。バンドのメンバーは皆お面を被って演奏するんだけど、まぁ観てみればわかるよ」

「へぇ、色んな人がいるんだねぇ」

「じゃ、ボクは夕食まで出掛けるからね」

「ん?どこに?」

「ゲーセン。絶対に負けられない戦いがそこにあるんだ」


 そう言うと、庸平はドアを開いて出て行った。



 翌日、また新しい一日が始まる。ロック一色の学校。教室に入ると既に星鹿いちごに、椎名真露、埜上沙月に、夜月舞奈がもういた。


「おはよう」

「あらぁ、若杉。寮生活はどげんね?」

「同居人がかなり変わっててさ……」

「へぇ、どげん人ね」

「ガンシューティングばっかやってる……」

「げ、緒崙庸平か」


 沙月と舞奈が同時に言った。


「知り合い?」

「知ってるも何も、幼馴染み。バンドまでやってたんだよ」

「え?」

「センスはとってもいいんだけど、ちょっと変わっててねぇ」


 庸平、舞奈、沙月……平行線のバンドになりそうだ……


「今日も、野試合があるみたいだってよ?」

「また、あの格好いい人が出るとかな?」

「いや、キワモノらしいよ」

「……若杉。ひょっとして、【真珠郎】?」

「知ってるの?」


 真露がにやっと笑った。


「まぁね、一度は聴いておくべきバンドだと思うよ。特にボーカルの騎々ききさんがかなり印象的だから」

「なんか、皆お面を被って演奏するんだって」

「観てみれば、わかるから!」


 僕は昼が楽しみになってきた。授業(大概はロックの歴史。数学はだいたい因数分解)中もそこ事で頭が一杯だ。


「さて、野試合が始まるよ!」

「おっ、待ってました!」

「騎々センパイかぁ!」


 僕らは廊下に駆け出すように出て行った。一つでも色んなバンドが観たい。ワクワクして仕方ない。

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