♯2 いちごside

――寮生活なんて、初めてだ。ここにいる皆そうなんだろうけどね。

 聖ML学園の女子寮はやはりロックを推奨してるだけあって、地下には音楽スタジオまであり、部屋は防音壁がしっかりしてある。多分部屋で曲を作ったりするのに都合がいいようになっているのかも。うちはなんと相部屋で、同居人は沙月だ。


「まさか、いちごちゃんと同じ部屋になるなんてあたし、思ってなかったよ」

「うちも!仲良うしようね!」


 沙月はほんわかした天然キャラ。うちと相部屋になる前はこの部屋に一人で住んでたみたい。部屋の隅には沙月の使ってるアコギが一本と、彼女のベッドの枕許には、何やらモコモコしたゆるキャラの縫いぐるみ。


「へ~、沙月ちゃんもギター弾くとね?」

「いや、あたしは弾かないの」

「え?じゃなんでここにギターあると?」

「護身用」

「武器やなかね!」


 沙月はそうだ~と言ってうちの手を握ってきた。意外に(ってのも失礼やけど)、綺麗な指をしている。


「地下のスタジオ行かない?」

「スタジオ?」

「うん、あたしよくそこでドラム練習するのよ。真露も誘ってさ、行こう行こう!」


 半ば強引に、うちは沙月に連れられて、地下のスタジオに向かう。本格的なブースの中にはドラムセットに、ギターとベースの大きなアンプ。真露はもう既にスタジオにいてスタンバイしていた。


「なんね、もう誘いよったと?」

「うん、てかしょっちゅうここで2人で遊んでるんだよ」


 スタジオで2人でセッションが遊びとは、なかなか贅沢な遊びだな。なんてうちは思ってしまう。まぁ、ここはそういう学校なんだな。

 真露はダークレッドのSGを提げている。アンガス・ヤングみたい。相当使い込んだギターなのだろう。くびれの部分の塗装はやや剥がれている。


「さて、ちょっとあっためますか」


 沙月はドラムセットの椅子に座る。スティックを握ると軽くくるりと回し、スネアを2回3回タララと鳴らした。


「うまいんだよ、沙月は」

「え~、意外さぁ」


 沙月がドラムを叩き出した。さすが中学持ち上がり組なだけあって、かなりの腕前。多分今叩いているのは【ホテル・カリフォルニア】。真露がギターをアンプに刺した。アンプからやや歪んだオーバードライブが鳴る。

 低く提げたギターにピックを当てると、真露は【ホテル・カリフォルニア】のラストのギターソロを弾き始めた。


「うわぁ……」


 うちはぽかんと口を開いたまま立ち尽くした。息もぴったり、一寸の狂いもない。ベースこそないが独特の世界観が広がってる。


「いちご、何なら歌える?」

「え?せやねぇ……」

「何でも大丈夫だよ!」

「……ベタやけど、アヴリル・ラヴィーンとか」

「【RockN roll】は?」

「あ、多分いけるかも」



 めっちゃテンション上がった。まさかバンドってここまで楽しいとは思ってなかった。


「いちごちゃん上手い!」

「やるね」

「うちが上手いんやったら、真露ちゃんと沙月ちゃんはすごかよ」

「いちごちゃん、他に楽器はやらないの?」

「ちょっとやったら、ギターとピアノ……」

「あ!部屋にあるギターあげるよ!」

「いや、あれって沙月ちゃんの……」

「護身用だけど、大丈夫、弦は張り替えてるから!チューニングもしてあるから!」

「護身用の扱いやないやないね!」


 うちはスタンドマイクを見ながら言った。


「バンドかぁ、なんかドキドキするねぇ」

「もちろん、オリジナルやるよ」

「え?マジで言いよる?」

「え?いちごちゃん、この学校じゃ当たり前だよ!」

「課題とかあると?」

「ある時もある。だから少し楽器はできたほうが有利かも」

「あ、でもね、弾けない人も何人かいるから気にしないで!」

「大丈夫、ちょっとなら……うん、いける」

「あとは、男子連中がやれるかだよなぁ」

「え?男子って誰と?」

「んとね、高入組の……髪結んだのと割と大人しめの、いちごちゃんと一緒に入ったの」


 沙月ちゃん、ふんわりしたキャラなのに、普通に人を【の】呼ばわりするのにじわる。うちは訊いた。


「えっと、若杉寂哉と布袋希望くん?」

「確かそう、だったはず」


 若杉は確かに良い奴。ザ・人畜無害みたいな奴だから、バンドメンバーにして全く問題はないんじゃないかな?

――上手い下手かは別として。


「ってことは、沙月ちゃん。泉さんも同じ寮におらすと?」

「泉さんって、まさか……」

「瑠璃原泉さん……」

「あんた、凄い人と友達なんだね……」


 沙月ちゃんと真露ちゃんはこっちを羨ましそうに見ている。

――あの人、そんな凄い人だったんだ……


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