♯1 寂哉side

 なるほど、あのML学園高等部はその噂通り、周囲はまさにロック一色だ。中庭にはもうすでにでかいアンプとドラムセットが常備されている。校内のポスターも往年のロックスターのものばかり。講堂に向かうと、上半身裸のジム・モリソンがこちらを見ている。そうだ、これもテストに出たな。リザード・キング……

 まさか、同じ中学の星鹿いちごがいたなんて思わなかったな。あの性格ブスに虐められていたんだっけ。名前は、忘れちゃったけど。


「あっ……」


 ややかったるそうに歩く新1年生にぶつかってしまった。こっちをチラリと見たのは髪を後ろに結んだ端整な顔立ちの、僕よりちょっとだけ背が高い男。


「ご、ごめん」

「……や」


 いや、と言ったんだと思う。新入生についた名札には【布袋希望ほていのぞむ】と書いてある。

 講堂に入ると、新入生の数だけパイプ椅子が並べられ、校章がバーンとでかでかとステージ上に描かれている。右上には校歌の歌詞が彫られた木版が設けられている。全部英語。どこかで見たことがある……椅子に座ると、事もあろうに隣はその希望っていう生徒だ。

 こんなクセの強い学校だ。きっと学園長はパンチの効いた人に違いない。全員が揃ったすぐ後、教師らしき人が言った。


「次、学園長の挨拶。レミー学園長、宜しく」


 れ、レミー!?まさかの海外の人か!?と思っていると、檀上に上がってきたのはま~燕尾服がこれっぽっちも似合っていない、室内なのにテンガロンハット、金髪長髪にサングラスの…小肥りの日本人のおっさん。檀上に立って、マイクの位置を調整している。顔の位置で適正だったのに、頭くらいの位置までそれを引き上げた。


「あ~、あ~、新入生の皆、俺がこのML学園の学園長。レミーこと、白鳥沢権八郎しらとりざわごんぱちろうだ」


 めっちゃ古風!レミーでいいじゃん!寧ろ何でレミーなんだよ!僕はクスッと笑ってしまったが、希望はちっとも笑っていない。


「何でレミーなんだろうね?」

「見たまんまだろ?」


 シャープな返しだ。学園長はなおも続ける。


「皆、ロックは好きだよな?ここは、同じロックのスピリット、まぁ魂ってやつを持ってるいわば同士ってやつ?それが集まったとこだ。3年間、青春を遺憾なくロックにどっぷり浸ってくれ」


 …いまいち言っていることがよく分からなかったが、言って学園長は腰を叩きながら檀上から姿を消した。いや、腰痛いならマイク位置上げるなって話。

 話が終わった後、希望が話しかけてきた。


「見た感じだけどさ、パンク好きなん?」

「う、うん。SUM41とか。ギターやるんだ。君は?」

「ベース。おれもグリーンデイとか好き」


 静かに仁王立ちしてプレシジョンベースをピック弾きする姿が容易に想像できる。


「こ、ここってさ、バンド組むのが必須なんだよね?」

「あ?まぁな」

「よかったら、僕と組まない?」

「いいよ」


 まさかの即答。それだけ聞くと希望はちょ、トイレ行くわと言って去って行った。



 教室はさすがに普通だった。ここまでアンプやらドラムセットやらがあったりしたら、窮屈極まりない。僕は後列の席に座る。新入生の集会にいなかったメンバーは中学からの持ち上がり組だ。やや慣れた感じがする。中でもショートカットの赤みがかった髪のスラッとした、え?同い年?って思うくらい落ち着いた女子。

 見ると、彼女の隣に座ったのが星鹿いちごだ。並ぶと全く違うな。向こうはクールビューティ、こっちは垢抜けない天然ブラウンの髪の小娘って感じ。


「ふぅん、あの娘気になる?」


 隣に座ったのは、多分中学からの持ち上がり組の1人だろう。名札には夜月舞奈よるつきまなと書いてある。腰まである髪の、丸顔でニコニコした可愛らしい女子。


「あいつはやっべぇ奴よ」

「どんな風に?」

椎名真露しいなまつゆ、シェクターのギターを持たせたら右に出る者はいないよ」

「ほぉ」


 確かに漂う雰囲気が一線を画している気がする。どことなく雰囲気が希望に似ているかもしれない。

 と、思っているといきなり校内放送が流れ始めた。


【新入生の皆さん、只今から中庭で【STARSHAKER】と【shining quarter】による野試合が始まります。こぞってお集まり下さい。在校生の皆さんもお集まり下さい】


「へ?野試合?」

「来ればわかるよ」

「えっ、【shining quarter】!」

灰谷はいたにセンパイだ!」

伽天かてんセンパイもだぞ!」


 中学持ち上がり組はもうテンションがかなり上がっている。僕は舞奈についていくようにして廊下に出て行った。いちごも同じく、流されるように出て行った。

――やべぇ学校に来ちゃったかもしれない

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