こちら聖ML学園
回転饅頭
♯1 いちごside
――あの頃のうちは、生きる事を完全に諦めてた気がする。橋の欄干に手を掛けて、夕焼けの太陽でオレンジに染まってる川を見てると、なんだか生きることが虚しくなってきて、15年の人生にピリオドを打ちたくなってきた。
「おい、あんた何してんのよ?」
振り返ると、そこには制服姿の高校生みたいなお姉さんが立ってた。髪が腰くらいまであって綺麗な黒髪。御人形さんみたいな人。
「……ほっといてくださいよ」
「あたしに、話すだけ話してみなよ」
「やけん、ほっといてよ!」
「下らない事で死のうとすんじゃないよ!」
うちは振り返った。お姉さんは眉間に皺を寄せてこっちを真っ直ぐに見てる。猫みたいに大きな、羨ましくなるくらいに綺麗な瞳。
「うちの事、何も知らんでしょ?」
「どうせ、虐められてるんでしょ?」
「……!」
図星だ。うちは同じクラスの
「これからさ、あんたも彼氏ができたり結婚したり、楽しいこともきっとあんのに」
「証明できる?」
「あ?」
「それば証明できるとねって訊きようと!」
「可愛くないねぇ、だからあんた虐められんじゃないの?」
そりゃ、虐められてたら気持ちも捻くれてくる。
「あたしも、虐められてたんだよ」
「え?」
「今はML学園高等部にいる」
「そこって……」
話は訊いたことがある。入試問題の癖が凄い学校。ロックに詳しければ誰もが入ることができるという学校……
「あんた、歌は好き?」
「……まぁ」
「なら、目指してみるといいよ」
「無理に決まってるやん」
「あんた、行きたい学校あんの?」
「……別に」
「ならいいじゃん。おいでよ」
なんだか家においでっていうようなノリだ。
「あたしもね、自信がなかった。でもバンドやり始めて、バンドが楽しくてね。諦めるなら、やってみてからにしなよ」
綺麗事にしか聞こえない。でも何故かこの人に言われると、不思議な説得力を感じる。
「あたし、
「……
「いちごか、可愛い名前だね」
気付けばうちは橋の欄干から手を離して、地面にぺたりとしゃがみこんでいた。どこからか七つの子が聞こえる。もう6時だ。さっさと帰ろう。
なんだか、死ぬのが馬鹿らしくなった。
無性に、ロックが聴きたくなってきた。激しいやつ。
☆
……その学校をうちが受験するのに、なんの迷いもなかった。どうせこれまで第一志望だった学校は担任から無理だからやめとけって言われてたんだった。諦めるいい機会だったのかも。
それにしても、なんて問題だ!っていう試験問題ばかりだった。噂通り。ニルヴァーナの有名な代表曲を3曲答えよ?そんなの【スメルズライクアティーンスピリット】、【インブルーム】【ユーノウユーアーライト】、で決まり。ジョニー・ロットンがシド・ヴィシャスの死を知った時の一言を述べよ……あれは確か【ロックは死んだ】だったはず。
泉さんと別れてから、取り憑かれたようにうちはロックばっかり聴いていた。そのお陰でロックの知識はばっちりだった。有難うカート・コバーン。
合格発表の時、うちはすぐに合格者のところに自分の番号を見つけた。これからML学園高等部の学生としての生活が始まる。しかも初めての寮生活。どっちみちうちは料理も掃除も得意だ。
「あ?星鹿じゃね?」
声をかけてきたのは、うちより3センチくらい身長が高い、童顔の同級生。中学も一緒だった。勿論虐められていた事も知っている。名前は
「若杉も、ここ受けとったと?」
「まぁな、僕はまぁ、ここしか眼中になかったけどな」
目を細めて口を大きく開いて子供みたいに笑う若杉。
「バンド、やりたくてさ」
「好きやもんね。バンド」
「でも、お前とバンド、全く結びつかないんだけどよ」
泉さんとのことは、若杉は知らない。
「とりあえず、3年間よろしくな」
なんだかこそばゆい気分。中学のときはたいして目立ちもしなかったような奴なのに。
「若杉も寮生活?」
「ここ、全寮制だろ?参ったなぁ、僕料理も掃除もした事ないんだよなぁ」
「うちがやってあげようか?くくっ」
「馬鹿言うなよ。男子寮だぜ男子寮」
「冗談やけん、マジにすんなし」
顔を真っ赤にして下を向く若杉。何だか可愛く見える。
「とっ、とりあえず行くぞ。講堂だって。新入生は集まれって言ってたよ」
うちは講堂に向かう廊下を歩き出した。密かに泉さんに会えるかなって気にしながらゆっくり。泉さんに会ったら言いたい。
――泉さんの言う通り、うち、ML学園に入りましたよってね。
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