Act.81 姉妹の絆繋ぐ精霊の導き

 幼い頃の妹は、魔法だの術師などに夢を懐き、わたくしも手を焼いていたのを覚えています。


 実質わたくしは、お父様にお母様が魔導術で何かしらの偉業をなした現場など目撃していません。それを、おおやけでひけらかす様な両親でなかった事もあって、両親が魔導を用い民を救済していた現実を知らずにいたのでした。


 けれどその魔導に対する認識が180度ひっくり返ったのは、わたくしがゴルデラン首相国への商人家業で赴いた際の出来事。魔導の可能性と、その恐ろしさを全て理解する事件がきっかけとなるのです。


「我が国の王宮お付きとして、商人業に於ける免状を欲すると言う事だな?パフィリア・クロードリア嬢。」


「はい。私は幼い頃から、商人家業で生計を立てる事を目的とし、様々な知識と目利きを経て商品利用目的を導き出し――」

「それをこの商人の夢の都である、ゴルデラン国で活かせる日々を待ち望んでおりました。」


「ふむ……左様か。」


 当時すでに双子であるお子を亡くされ、ルビーアイ猊下までもが病床に伏せる中での訪問。故に、わたくしに着いてゴルデランへ訪れた仲間の商人は、謁見を中断するべきと注してくれたのを覚えています。


 けれど……だからこそ謁見すべきと、単身首相へのお目通りを強行したのです。


 ゴルデラン政府からは、すでに数年の滞在による商人家業で信頼も得た所。その中で、自身も幾度か双子である両殿下と接する機会があったのです。姉と弟の仲睦まじい姿。その身が余命数年と言われようと、懸命に生を謳歌する御二方を目にしたわたくしは、その殿下らへ何とかお力添えができないかとの決断だのです。


 その甲斐あって、首相よりたまわったのは武装商戦長の任。そもそもゴルデランへと入国するまで、砂漠を超える必要もあった事から、自分や仲間の身を守るために自衛の手段も備えていた所。けれど、昔のミーシャもそうであつた様に魔導の面ではからきしであった事から、引っさげての入国。


 ゴルデラン首相がその点に着目したからこその、武装商戦長の位でもあったのです。


 そんな、全てが何とか運んでいた矢先、それは訪れたのです。

 双子の殿下が余命を待たずに亡くなったあと、ルビーアイ猊下を想うゴルデラン首相が取った策。それがなんと、禁忌の魔導による疑似魔導生命体〈ホムンクルス〉として、彼らを再生させると言う常軌を逸するもの。

 そこで二人の殿下は、姉弟として新たな生を受ける事となりました。


 けれどそれが、とも言える事態への序章である事など、その時は誰も知る由もなかった。ホムンクルスとして生まれたエレフィズ王女殿下とリオンズ王子殿下が、国家へ反旗を翻して身をくらますと言う惨劇など、誰も想像だにしなかった。


 その惨劇に関わった魔導こそ、私の知る最初の知識であったのです。


「惨劇を生む魔導の姿を知った私は、妹がいかに危ういモノへ手を伸ばそうとしているかを知った。けど時を置いて得た情報の中には、信じ難きモノがあったのを覚えてる。あれは今のフィズとオズを発見し、監視のため近寄るか否かの頃――」

「遠く漏れ聞こえたのは、かのアグネス王国を牛耳るモンテスタ・ブラウロス導師失脚の噂。そしてそれを成し得たのが、精霊と手を取り合い精霊魔法を極めんとする、落ち零れから這い上がった小さな賢者であったとの噂。ふふっ。」


 これは運命とでも言うのでしょう。今私は、双子の王国殿下らを救うための武装をここに所持し、――

 モンテスタ・ブラウロスと言う、魔導で悪逆の限りを尽くした者を打ちのめした小さな賢者……現アグネス王国宮廷術師会代表をたまわる、ミシャリア・クロードリアが合流を見たのです。



 全てが脳内で一つに繋がった瞬間、わたくしは覚悟を決める事としたのです。



∫∫∫∫∫∫



 憤怒さえ宿した私は、問答無用とばかりに両腕の修練装備エクスペリメンター制限を無制限開放します。


 どの道、眼前のフィズは愚かアンギルモアスまでも相手取る戦い。部隊が分断された状況で取り得る最善策は、自身への精霊共振装填を基軸とした真っ向勝負の他は無かったのです。


超振動ビブラス小宇宙開放クオスマイクス霊量子力回路接続イスタールゲイト短術詠唱ショーティア——』


『量子の大海、霊なる者達を呼び込み、我はそれを宿す! 複列送電精霊共振装填マルティファート・スピリティ・レゾニア・ドライブ還霊リバースっ!! 』


 そしてこちらに残っていた精霊達でも、グラサンとシェンの組み合わせはお初でもあり、そこから生み出される物理事象効果を刹那で検証。同時に、それを顕現させるための術式バリエーションも構築して行きます。


『闇のお嬢とはお初だな! せいぜい俺様達で、賢者ミーシャを支援するぜ! ファッキン!』


『おっ!? シェンは装填自体がお初ですキ! そしてこの状態であれば、通常の声色による会話がなせるですキ! ではがんばりましょうですキ、サラディン殿!』


 物理事象に於ける炎に闇を基軸とした場合、相反する作用が働くのは周知の事実。光側に位置する炎に対する闇は、対消滅をたどるのが基本。それを攻撃に転換できるかは、未実証ゆえぶっつけ本番でもありました。


「リーサ様はそのまま動かずに! 私が共振装填展開しつつ、アンギルモアスに突撃をかます!」


「了解だよ、ミーシャ! オリアナちゃんも、オズ君をしっかり抑えて!」


「リーサ様の声援を受けたら、私もがんばらないと……ねっ! こん……にゃろっ!」


 二柱の精霊が修練装備エクスペリメンターへ纏われ、リーサ様の声援にオリアナが奮起し、オズが見事に抑え込まれる。されどアンギルモアスは突撃し、すでに眼前を脅かすまでの距離に。


 まさに電光石火の判断が要求される中、まずは二人の精霊による固定術式にて応戦する事としました。


「グラサン、火炎の壁を! シェンはありったけのシェイダル・バイトを、壁越しに叩き込め!」


『待ってましたっ! 久々の火焔大蛇瀑流ブレイジア・パイソンっ……持ってけっ、ファッキン!』


『炎の壁越しですキ!? それは名案ですキ! ではとっておきのバイトをぶっ込むですキ!』


 声に応じるグラサンとシェン。二人が気炎を纏うや修練装備エクスペリメンターから精霊力エレメンティウムほとばしり、私とリーサ様を守る炎蛇の壁が大橋をさえぎる様に立ち上がります。その火炎の絶壁を目にしたアンギルモアスが、、突撃する足を滑らせながら停止する――


 しかし今度は、先の目くらましの様にはいかないんだねこれが。


 目くらましは目くらましでも、。速度を殺さざるを得ない所へ、無数のシェイダル・バイトが襲来する手筈です。が、彼女を単騎で修練装備エクスペリメンターに装填、からの展開がお初であったのも関係し、炎壁に撃ちまれたのには怒りも吹き飛ぶほど驚いたのだけど。


「グギャオウッ!?」


「いいね! 炎壁で見え難いけど、手応えはある! て言うか、シェンの単騎装填中のシェイダル・バイト……ヤバイね!」


『……ヤバイですキ(汗)! 私も、こんな威力の攻撃放ったのは初めてですキ!』


 掴みは上々の攻撃。流石にさんも、まさかの炎壁の中からバカ威力な攻撃が飛ぶ事態で、突撃を躊躇しています。けれど後方では、フィズが術式展開のために今もスザク様を酷使せんとするのを目撃してしまいます。


「火炎と砂塵……これが私の砂塵炎の刃の本質だ! 賢者だかなんだか知らないが、このスザクを媒介するアタシの攻撃は止められねぇぞっ!」


「申し訳ないけど、! 私は精霊を従属などさせていない! ここにいる精霊は私の大切な家族……その家族をおとしめた件が新たに加わる罪の一つだ!」


 そして言うに事欠いた超残念さんは、まあ毎度叩き付けられるが定番の感もある精霊への侮辱。そこでさらに私の怒りは怒髪天を衝くどころか、ザガディアス界の天空を貫いてしまう勢いだ。


 けどそのフィズの後方に位置する姉さん……ゴルデラン首相国の武装商戦長を頂くと言うパフィリア姉さんが、この戦いへ一つの急展開を呼ぶ質問を投げかけて来たのです。


「ミーシャ! あなたは、その身に精霊を纏うというのですか!? そしてそれは、如何な手段で発動が叶うと!?」


 それは自身も想定さえしていなかった問い。けれど、この様な戦いの最中に交わす内容ではないのも事実。彼女が今までの、


 なればこそ、その問いへの返答は重要な意味を持つのです。そう問うて来たのが、だから。


「今は戦闘中なんだけどね! けど、姉さんがそれに興味をとか言うのは後回し……私の編み出した術式は、霊銀製の装備を纏う者へ精霊の加護を付与する物だよ! それもエンチャントレベルではない――」

「精霊が霊量子体イスタール・バディの姿ごと、私達へと力添え下さる奇跡の術式だ!」


 昔のままの姉ならば、魔導に対して否定の意見しか持ってはいない。けれどそこにいる姉は確実に、魔導の齎す力のあらゆる面を知った上で問うている。


 そう思考した私へ返された言葉は、これからの私達の関係へとても大きな進展を呼び込む物だったんだ。


「ならば私へ……、その精霊の加護を――」


「あっはははーーー! 獲物みーっけ! つか、オメェらだけで始めんじゃねぇぞゴルァっ!」



 それは背後より現れた一団……あのフィズを獲物とする、奴隷商人対立派狂ミラさんが加わる瞬間の出来事でした。

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