Act.82 姉妹共闘!絆の精霊共振装填!

 部隊分断の最中。強襲する超残念さんとオズの双子。そして禁呪とも言われる術式で操られるバ怪獣さんなアンギルモアスの突撃。そんな状況下で、私の術を目の当たりにした姉さんが、思わぬ問いを叩き付けて来たのです。


「なるほど、つまりそう言う事か! 全く……これは想定もしていなかったね! 私達は、どんなに道を違えども姉妹だったと言う訳だ!」


 精霊共振装填と言う、ザガディアスに未だ存在しない力発現を現実のものとした私。それを目撃した姉さんは、今まで精霊どころか魔導の存在さえ怪しんでいたはず。けど――


 その認識は、言う訳だ。


 旅の道中気になっていたのは、姉さんと接触した時点までさかのぼっても、不自然なまでに過度な重量を持つ積荷。あの操られるだけの小物冒険者らが、それを引くためだけに雇われたのかと思わせるほど量を持つそれは、それこそ姉さんの旅中に売り捌かれる商売上の雑貨品かとも思ってたんだけど。


 その実は、


 発されたとの言葉で、普通の商売に於いても高額で取引される逸品が関わるは周知の事実。しかも姉さんは、そこへ遠隔装置と付け加えてる。詰まりそれは、ただの霊銀製の武具の類にあらず。


 霊銀で何かしらの力を伝達される機構を有する、魔導機械技術の一端であると言う証なのです。


「ならば、こちらからそれに相応しい力の支援が要るね! グラサンっ!」


『いいぜ! 俺様を使え、賢者ミーシャ! たちまちはこの炎の精霊の加護が、あんたの姉さんを守る力と――』


「テメェらだけで楽しんでんじゃねぇぞ、ゴルァ!」


「……って、ここで登場かい!? 全く、私達のご遠慮頂きたいのだけどねっ!」


 姉さんの呼びかけに答えんとグラサンへ協力を申し出た矢先、ここでまさかの狂ミラさんのご登場。なんという事でしょう……二人に増殖したではありませんか。って、そんな事を言っている場合ではなく――

 自身でも想像だにしなかった、姉さんへ向けた精霊共振装填のために術式展開準備にかかる私。


 脳裏へ過ぎったあの狂ミラさんが吐き捨てたセリフ……彼女との遭遇時耳にした、姉さんの武装に対抗と言う言葉の羅列を思い出した私は、口角を上げて術式の新たな形態展開へと移るのです。


「いいかい、グラサン! これからもちいる術式は、今後部隊全体で戦う事になる際に必須と編み出したものだ! まずはグラサンと姉さんでの、実戦による実証試験になるけど――」


『はっ……今さらだぜ、賢者ミーシャ! やってくれ!』


 すでに頼もしき仲間であるグラサンの、威勢良き声が心を揺さぶります。この様な事態を想定し開発したのは、私の魔法力マジェクトロン増大と共に、精霊の了承の元展開を実現する新たな装填術式の段階。


 それを、ここで惜しむ事なく披露してやるとしようか。


超振動ビブラス小宇宙開放クオスマイクス霊量子力回路接続イスタールゲイト! 繋がる偉大な導きを、絆紡ぐ生命モノと共有せん――』

『我が内なる魔導を依り代とし、満ちる精霊の加護を行き渡らせよ! 精霊共振並行送電装填スピリティ・レゾニア・ジャンクシー・マルチライザ!!』


 それは共にある精霊が、霊銀へ霊量子体イスタール・バディごと宿り、且つ彼らが大気組成の一部であるからこそ叶う術式。昔の自分では到底追いつかない魔法力マジェクトロン消費量を必要とし、今の修練装備エクスペリメンター完全解除によって初めて成せる、

 あのリュード率いる、先見師団との戦いで得た教訓より生み出したそれを――


「なんだぁ!?今日はついてんな! ミラーたん、獲物がたくさんで迷っちゃう〜〜! なら、フィズもまとめて刈り取ってやるぜぇ!!」



 狂ミラさんの襲撃よりも早く、愛しき姉の元へとはしらせる事に成功したのです。



∫∫∫∫∫∫



 法規隊ディフェンサーと奴隷商人勢力が激突する中、その双方を獲物とする反双子勢力が到着を見る事となる。砦の局兵ガーター・ポーンを軽くあしらうターバン娘ミストラシアは、もはや己が秘密裏に暗躍する勢力である事を忘れた様に、双眸に映り込む獲物へ襲いかかるため剣を抜いていた。


 ホース・ザンバーをも上回る超重刀剣ヘヴィー・ザンバーを片手に、舞う二振りのシャムシールが空を切り、まずはと一番手近であった術式展開中の砂塵炎術師フィズに狙いを定めた。


「いろいろ順序がおかしくなっちゃって〜〜、ミラーたんもちょっと激オコだぞ〜〜!? てことで、まずはフィズ……テメェから始末してやんぜゴルァ!!」


「この大事な時に、あのロマネクタの刺客かよ!? テメェは黙って雇われやってやがれっ!」


「ねーちゃん……!? くそっ、ガンナーに気を取られて――」


 ここに来て勢力内の内紛が仇となり、双子の戦力が分断された状況でその姉が狙われた。すでに三つ巴どころの騒ぎではない事態。が――


 そんな状況を一変させる、真理の賢者ミシャリアの誇る術式が炸裂する事となる。


「今だ姉さん! そちらが持つ武装とやらを展開するんだ!」


 今までの彼女が展開して来た、装填術式の総決算とも言うべきそれが、あろう事か自身の姉を巻き込む様に拡張される。積層型魔量子立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダが、光帯こうたいはしらせるや爆双丘娘へ――

 パフィリア・クロードリアへと飛び、その身をまばゆく包み込む。


 その刹那の煌めきが、瞬く間に商戦長の翳す遠隔装置とやらへ吸い込まれ、魔導機械特有の魔導光が周囲を激しく照らし出した。


 しかしそれと同じタイミングで襲撃を敢行するターバン娘は、砂塵炎術師へ向け飛ぶ二振りのシャムシールを叩き付ける。刹那――


「……なっ!? テメェ、そりゃ……完成してやがったのか!?」


「お前……おい、バグスにペイズはどうなってやがる!」


 驚愕が、ターバン娘と砂塵炎術師の双方へと走り抜けた。

 守護聖獣の一欠であるスザク姫を救うため、炎術師と切り結ばざるを得ない真理の賢者。だが武装商戦長パフィリアは、その聖獣救出のためには術師が生きている必要がある旨を悟っていた。故に、砂塵炎術師を妹へ任せ、自分がターバン娘と対峙する方向で武装展開に踏み切った。


 展開と同時に起動した霊銀製装置が、荷車へ積まれていた総数二十の霊銀製機械刀剣へ精霊光を流入させる。そして、刀剣全てが炎の精霊光を撒き宙空を舞うや、大気を切り裂き飛来するターバン娘のシャムシールを叩き落としていた。


「未だ完全ではありませんので、二十の刀剣を操作するので精一杯でありますわ。わたくしが考案・制作に携わった、新開発武装を完全操作するには、膨大な精霊力エレメンティウムが必要――」

「けれど、今まで魔導をかたくなに拒んで来た私は、これを一時的な疑似魔導エネルギーにて運用する他なかった。」


 ターバン娘のシャムシールなど置き去りにする、二十に及ぶ刀剣が宙を舞い、精霊力エレメンティウムによる制御で滞空する。だがそれすらも、序章に過ぎぬ現実を武装商戦長が口にした。


「そんな中聞き及んだミシャリアの武勇……だますつもりはなかったのだけど、半信半疑であった事を謝りますわ、ミシャリア。そして今のあなたと共にあるなら、この武装さえも使い熟す事が叶う――」

「完成の暁には、浮遊遠隔機動武装……〈千裂飛空舞装刃サウザ・ブリッツ・ダンジグエッジ〉と言う私のとっておきを!」


 敵方二人を襲った驚愕は、すでに法規隊ディフェンサーにまで及んでいた。嫌な汗を吹き出しつつも、想像を遥かに上回る展開にお転婆姫リーサも驚きを零す。


「ミーシャ!? あなたのお姉さん、残念なんてとんでもない……千の霊銀製刀剣を自在に飛翔させる魔導機械制御なんて、王女様も聞いた事がないよ! きっとサイザーも、こんなの聞いたら興味津々ですっ飛んで来るんだから!」


「いや、うん。これには流石の私もびっくり仰天だよ(汗)。そして……姉さんはこの時点で、法規隊ディフェンサーに並ぶ頼もしき戦力である事が発覚したね!」


 驚愕の連続で双方の戦闘テンポさえも崩れ、しかしそれをいち早く立て直したのは真理の賢者であった。当然である……すでに対立が明白となった内紛状態の敵に対し、今まで違えていた道が一つとなった姉妹は全てに於いての利が揃っていた。奴隷商人側の家族である重雷霆の剣士オズも、白黒令嬢オリアナに抑え込まれ、予想だにしない不利に放り込まれる戦況。


 そこからこそが、魔導機械アーレス帝国実験部隊にして正統魔導アグネス王国の誇る宮廷術師会代表擁する、超法規特殊防衛隊ロウフルディフェンサーの真骨頂だった。


「いろいろはさて置くよ、姉さん! だから今は、私達姉妹でこの奴隷商人勢力を懲らしめてやろうじゃないか! 、ねっ!」


「ええ、よろしくってよ! わたくしの愛した素敵な妹ミシャリア……ようやく一つとなったこの因果の道の果て――共に戦いますわよっ!」


 精霊の加護を受けし姉妹は、口角を上げて夢にまで見た瞬間に酔いれる。一方――



 魔甲竜ヘルズゲイターを乗りこなす魔人ライダーシグナーと、法規隊ディフェンサー分隊の戦いも佳境であった。

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