Act.80 嘆きの五方守護聖獣

 ティー・ワンへ到着を見た私達は、さほど日を置かずに奴隷商人側勢力とぶつかる事になります。しかも相手側勢力が、策もへったくれもない暴走分裂状態で、且つ私達を分断する形で挑戦して来ると言うカオス。


 これは今までの冒険でも稀に見る事態だね。


 しかし、組織への対抗策を準備しての入国が功を奏し、暴走ついでに内部分裂かます組織さんへの対応は及第点。あとはどうやってそれらを討伐するかが重要でした。


「キシャーーーーーーーッッ!!」


「ま、待て待て待つんだ! あの巨体がこの大橋を渡ったら……おや? なるほど――」


「ミーシャ、あれ! あのアンギルモアス足元へ術式が施されてるよ! たぶんあの、オズって言う剣士の仕業……王女様はそう思うよ!」


「えっ? ジュウリョクなんとかって、そんなとんでも術式も持ち合わせてるの?」


「おっ? 久々の無知黒さんお目見えだね。」


「そうね久々……って、誰が無知黒じゃい!」


 眼前へ堂々と姿を現したのはあのアンギルモアス。奇しくも私達が討伐を先延ばしにした所を、都合よく超残念さんに利用された形だね。そして眼前の状況へ、あの超残念さん……フィズ・クルエルトだったか。彼女の扱う術式と弟の術式特性を照らし合わせた上で――


 王女様に同意しつつ、無知黒さんを弄っておこうか。


 と、そんな問答お構いなしのあちらさん……弟のオズが、気が付けば抜き放つ刀剣構えて飛んだのです。テンパロットと並ぶ速度で襲う襲撃は、並の冒険者ではまず対応不可能とも言えました。


 が――


「……っ!? まさか、俺の剣速に対応できる者がまだいたとは。そちらの部隊は、いったいどれほどの戦力を有しているんだ。」


「ちょっと危ないじゃないの! ウチのミーシャには、指一本触れさせる訳にはいかないんですからね!」


「オリアナちゃん、王女様は〜〜?」


「り、リーサ様もお守りしてますよ!? て言うか、守られる側ならもっと緊張感を持って下さい!」


 オズの振り抜いた雷速の剣閃。けれどそれにさえ対応したのは、無知黒さんが得意とするストレガ……通称ストライク・ガン・アーツが誇る近接格闘対応に改造された双銃の防御。


 本人も気付いてはいないけど、あの剣閃を防げると言う事は即ち、達人級の実力者相当だからね? まああのリュード・アンドラストを師匠に持ち、その師が振るうストレガと拮抗できた彼女なら、正直オズとやらの剣閃ならギリギリ凌げるとは踏んでいました。


 ところがこの子、それをも上回る実力を見せ付けてくれたのです。


 無知黒さんが剣閃を受け止めた際、すでに方側の銃はオズの懐へ突き付けられるや火を吹いており、それを交わすためオズが刹那で距離を置かざるをえない状況。よくあの突撃の中で、カウンターをお見舞いできたと感嘆さえ漏れるね。


 詰まる所、テンパロット相手には攻撃相性も良かった彼も、オリアナ相手ではかなり分が悪いと言う事実でした。銃が飛び道具な時点でアレな所に近接格闘さえ成すとか、剣士職側としては難敵現る、だろうね。オリアナの攻撃を見るなり警戒が上がった所を鑑みるに、虎の子の重力術式も展開に難があると考えた方がよさそうだ。


「テメェ、何やってんだオズ! ちゃんとそこのを足止めしろ! そんな奴がいたら、アタシの術式が展開できねぇだろうが!」


「分かってるからがなるな、ねーちゃん。ちゃんとこいつの動きは封じておく。」


「誰が鉄砲バカよ、誰が! 私のストレガをなめないでよねっ!」


 すると業を煮やした向こうの超残念姉さんが、それはもう激オコプンプン丸だね。どさくさで罵倒されたウチのガンナーさん、せっかく褒めたのに逆上して隙が出まくってるよ。あちらに結果オーライを提供してどうするんだこの子は。


 同時にデカイ方……しーちゃんとウィスパから聞いた超残念さんの、上位古代魔導ハイ・エンシェント・マギウス上の禁呪である群体操作でが勢いづきます。禁呪とやらの操作概念には、制限と言うものが無いのかい?全く。ところが――



 煮えたぎる憤怒を抱かせる事態は、その直後に私達を襲ったのです。



∫∫∫∫∫∫



 砂塵炎術師フィズ重雷帝の剣士オズが猛威を振るう。

 真理の賢者ミシャリアとしても、群体操作術式により動く二人の仲間に実の姉を抑えられる現状は、下手な動きを見せられぬ所でもあった。


 だが賢者少女にはすでに、己の姉がかの熱砂塵の楽園ゴルデランより出向した武装商戦長である事実を聞き及んでおり、身を拘束されど自衛の手段は心得ていると読んでいた。故に双子と相対した時点で、姉とアイコンタクトを交わしその旨を読み取っての今。


 詰まる所、その姉が何らかの策に打って出るのを組み込んだ上での双子対応である。


「シャギャーーッ! シャギャーーーーーッ!!」


「ちぃっ! 賢者ミーシャ、デカブツが来るぞ!」


『シェン達は、どう立ち回ればいいですキ!?』


「君達はまず、リーサ様の周囲を固めるんだ! 迂闊に姫が翔べばあの超残念さんも、得意の術式で撃ち落としにかかるかも知れないからね! オズはオリアナに任せて――」


 巨大なる体躯で迫りくる怪獣系異獣アンギルモアスを前に、動きの一つ一つを先読みしつつ策を叩き出す真理の賢者。だが――


 その計算高い智謀へ、


「オズはそのまま鉄砲バカを相手にしろ! こっちは術式準備に入る! このロリ賢者へ見せてやるよ……これまでアタシがこの砂漠を、如何にして乗り越えて来たかの証をなっ!」


「……ミーシャ、この力! これは……星命力テラシュトロンの負の面に属する反星命力ネガ・テラシュトロンさざなみだよ!」


 砂塵炎術師が咆哮を上げた刹那、異様に膨れ上がる力へ異常を感じたお転婆姫リーサが警戒を跳ね上げる。彼女が感じたのは、正しく彼女自身を形取る力。


 大地を星と称し、そしてそこに宿る力として存在する星命力テラシュトロンの反応であったのだからだ。


上古代ハイエス複列位相デュエルド魔導励起マギサリィード――大地の深淵蝕む負の力を我が手に! 五方の一欠へ負の刻印を刻みて引き摺り出せ!』

堕天悪獣傀儡乱舞ネガ・テラシュ・ガーデナ・マリオネイツ・タービュランテ、アタシのためにその身を焼き焦がせっ!!」


「ま……待つんだ!? スザクだって!?」


 真理の賢者は響いた言葉で耳を疑った。砂塵炎術師が術式で召喚したのは巨鳥。それも十メトほどの体躯が眩き火炎の衣に包まれ、紅蓮の羽を幾重に纏った三つの尾を伸ばす、壮麗にして綺羅びやかな翼鳥である。


 しかしの双眸が狂気に満ちた光を放ち、手当り次第に火炎の帯をばら撒く姿は、傍目でも正常ではないと察する事が叶うほど。そう――


 それこそが真理の賢者を始めとした法規隊ディフェンサーが、お転婆姫の膨大な魔法力マジェクトロン制御のため探し求める五方守護聖獣が一欠……スザク姫その人であったのだ。


「そん……な! まさかアレ……術式で強制服従操作されてるの!?」


「見覚えのない炎の気配は、そういう事かよ……クレイジーっ! こりゃ全くもってクレイジーだぜ!」


『なんて事ですキ……!』


「ちょちょ、ミーシャ! これはマジでマズイんじゃ――」


 事態が思わぬ展開を迎える。巨獣が突撃し、剣士とガンナーが鍔迫り合う大橋にて。刹那、状況を把握した真理の賢者が、大気を震撼させるほどの怒気を撒いた。


「グラサン、シェン……準備するんだ! 精霊共振装填を開始する! これは由々しき事態……リーサ様のお力を御するために必要なお方が、この様な姿に成り果てるなど言語道断!」

「これより眼前のアンギルモアスを叩き伏せ、フィズ・クルエルトの支配からスザク姫を開放するっ!!」


 怒れる少女は咆哮と共に、両腕部へ装着していた修練装備エクスペリメンターの制限を完全開放した。同時に放たれる爆発的な魔法力マジェクトロンが、操術渦中の巨獣を僅かに足止めさせ、砂塵炎術師にさえも冷たい汗を流させた。


「……こ、こんな力を隠してやがったのか、このロリ賢者! だが、アタシをやろうってのは無謀にもほどが――」


「あれやこれやの問答はもう聞かないよ、フィズ・クルエルトとやら! 私の姉さんを拉致し、奴隷として売り渡そうとした挙げ句、スザク様をその様なお姿に貶めた罪は、大イザステリア海溝よりも深い! ならば――」

「このアグネス王国宮廷術師会代表を頂き、真理の賢者を賜ったミシャリア・クロードリアがこの身を以って、君の魂へ贖罪の意を叩き込んであげよう!」


 そうして、纏われる事となる二柱の精霊が真理の賢者の傍へと居並び口角を上げる。すると、その光景を目の当たりにし、驚愕の中因果の導きに甘んじる者がいた。


「ミーシャが、まさかあれほどの魔法力マジェクトロンを!? あの落ち零れでしかなかった妹が……!それに、もしやこれはその身へ精霊を纏わんとして……!? ならば――」

「ならば不完全であったわたくしの、千裂飛空舞装刃サウザ・ブリッツ・ダンジグエッジに真の完成が見られるかもですわ!」


 囚われの身で、双眸輝かせる爆双丘姉……武装商戦長パフィリアは言い放つ。己が有する極秘の自衛兵装――



 との旨を。

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