Act.78 決戦の予感、豪商国騒乱の幕開け

 連星太陽が朝を照らしていくばくか。事態を把握した豪商国家ティー・ワン内は上へ下への大騒ぎとなる。


 警衛局ポリセット・ガーダーも、超城壁チェージェー・パオ外で暴れる異獣への討伐に人員を割かれた中での国家異常と言う事もあり、国民の避難誘導対応が関の山の状態であった。


「くっ……このティー・ワンで一体なにが起こっている!? リューオウ橋の通行を一時禁止し、クォール・ジェルド民街へは住民の一部区画へ立ち入り禁止の協力を要請しろ!」


「しかし……あの民街の統治者が、素直に承諾するのですか!?」


「分かっている! 確かに盟約により、あちらへの政的干渉はできないが――」


 局兵ガーダー・ポーンをまとめる局兵長ポーン・リーダーが、有志で集まったなけなしの人員へ指示を飛ばし、下層国家となる旧王朝街クォール・ジェルドへの協力要請を出す手筈を整える。が、そこは仮にも別国家の扱いを宣言された街であり、曲りなりにも当地するべき者が存在する。


 その統治者が商国と締結している、政治的不干渉の盟約が足枷あしかせとなり、民の避難が立ち行かない状況が発生していた。


「構わぬ。その交渉には私が向かおう。君達はすぐに動ける様に、下層国民の一部避難準備を整え給え。」


「ジャ……ジャン・コー大統領補佐! ですが……――」


「いいから行き給え。幸いにもあの法規隊ディフェンサーが入国した事で、その政治不干渉盟約に抵触しない手段が導かれた所。それをチラつかせれば、あちらも動かざるを得ない。良いかね?」


「は、ははっ! 直ちに下層民の避難準備に向かいます!」


 局兵長ポーン・リーダーへ言葉をかけるは麗しき大統領フェイの補佐を務める、気難しい男 ジャン・コー。屈強な鎧の如き体躯からは想像もできぬ、豊富な知略を覗かせる彼は兵長を冷静にたしなめる。そこで提示された、兵長にさえも揺るがぬ説得力を刻む事となり、平静を取り戻す兵長がなすべき使命へときびすを返していた。


 そうして局兵長ポーン・リーダーを見送った屈強なる補佐官ジャンは、商国宮殿を後にし街道大橋リューオウキョウ中央階段端にあつらえられた走行傾斜を馬の背に乗り下る。目指すはそこから一直線に伸びた下層街の中央街。囲む貧しき町並みから一際群を抜いて荘厳にたたずむ建物である。


「いつぶりか、あの御方と相まみえるのは。全く……この私でさえ足がすくみそうになるのは、恥ずべき事案であるな。」


 馬を走らせ進む中、独りごちる屈強なる補佐官は知る者が見れば珍事とも言える、自嘲に満ちた微笑を浮かべていた。現に建物へと辿り着き、馬から降り立った彼の足が僅かに震えていた。


 それはこれより相対する者が、如何に恐ろしき存在であるかを物語る。


 震える足ですくまぬように進めた歩が、旧王朝独特の綺羅びやかな赤と金に彩られる建物の大扉前へと辿り着く。すると、雄々しき蛇竜の彫刻が眩い扉が物言わず開かれ、さも来訪を察していたかの侍女らが数名立ち並んでいた。


 さらに最奥――

 待ち侘びたとばかりに現れた影を目にし、屈強なる補佐官が一層顔を強張らせた。


「何を緊張しているアル? ちんとそなたの間よ……かしこまる事もないネ。」


「あなただからであります……現クォール・ジェルド民街は、旧王朝代表――」


……とは言わぬアルね。」


「……っ!?」


 現れた酔狂な衣装を纏うは、補佐官からすれば体躯も小さく、筋骨隆々とは程遠いひ弱ささえ目に付く。だがしかし、彼が放つ言葉で緊張が警戒に切り替わった補佐官は、吹き出る脂汗を抑えるので精一杯であった。


「安心するアル。あくまでアルね。今この上層は、あのフェイ嬢が大統領アル……その辺はちんわきまえてるアルね。」


 彼の言葉に補佐官が震え上がるは即ち、。それは秘密裏に行われていたのが明白であり、何かしら不備があれば、それこそ秒で命を取るも叶うとの意味が込められていたから。


 さらに吹き出す汗を、手に取る布で拭う屈強な補佐官を、クツクツと一瞥する影がようやく圧を解き――


「ではこちらへ客人をお招きするアルよ。今は悠長な事は言っていられぬ状況……、キョジュン・チューボアは喜んで同胞をお迎えするアル。」


 広げられた手の中、不敵な微笑を浮かべ、名乗りを上げた男は高らかに宣言する。



 己がかの三帝烈国史サンディエン・リェー・グォーシー時代は三皇帝が一人である、ツァジェン・チューボアの末裔であるとの下りを。



∫∫∫∫∫∫



 豪商国家ティー・ワンへ異常事態の鐘が鳴り響く。

 荒ぶる砂漠地帯の異変に国家を挟む大河川異常に加えた、西に広がる遺跡後で多発する異獣への備えにと、国家防衛に奔走して来た警衛局ポリセット・ガーダー総出でも手の足りぬ非常事態。


 それは今まで上層と下層に於いて厳守されて来た、国家間盟約さえ足枷あしかせとなるかつてない事件へと拡大していた。


 だが、その中心にはあの法規隊ディフェンサーが存在する。起きるべくして起きた事件を、法規隊ディフェンサーと言う存在が事態終息へと導くために動いていた。盟約に足を取られ、事を先伸ばしにしてきた豪商国家ティー・ワンとしても、もはやそれに頼らざるを得なかったのだ。


「街が慌ただしくなって来たね! どうやらミーシャもテンパロットの方も、それぞれ会敵しちゃったみたいだけど!」


「なの! その事態対応で、ポーン・リーダーも大騒ぎ……これは大変な事件到来なの!」


 法規隊ディフェンサー一行でも、囚われの身であった衰弱者の移送と治療に当たっていた治療組は、緊急の魔導通信により事態を把握し動いていた。すでに移送を終えたツインテ騎士ヒュレイカフワフワ神官フレードオサレドワーフペンネロッタの生命種と、火蜥蜴娘サリュアナ輩な水霊ディネ泣き上戸精霊ノマは戦闘へと走る準備万端で待ち構える。


 そして――


「いい感じ? メイメイさんとラグーさんは、手筈通りに。この状況を機と見て、奴隷商人達が動く恐れもある感じ。それも、活動上アルテミスの月の満ち欠けを気にする――」

、騒ぎに便乗する恐れな感じ。それを止められるのは、お二人の能力にかかってる感じよ。」


 オサレドワーフが言葉をかけるは、カクウお付きの苦労人策士メイメイ呑気な猛将ラグー。が、彼女らの面持ちは今まで酔いどれ拳聖マーへ否応無しに同伴させられていた時とは異なっていた。


「分かったデス。メイメイ達のそんな能力でお役に立てるなら、それを評価してくれた賢者様への協力、しかとこなして見せるデスの。」


「ああ〜ラグーも同じっす。ウチらは確かにワン先生には目をかけられてたっすけど、本心ではこの身の一体何が役立つのかが分からず、疑心暗鬼だったっす。けど――」


 小さなドワーフ少女の言葉は、事前に真理の賢者ミシャリアを通して組み上げられた策を指す。そこで彼女らは、無能とさえ自虐していた中で天啓を与えられての今であった。


 即ちあの真理の賢者が宣言した、彼女らの心を大きく動かしていたのだ。


 自虐のあまり、敬愛する者からの命にさえ後ろめたい心情だった二人が、それをキッカケに前へと踏み出していた。その心根にいつしか、僅かではあるが


「んじゃま、アタイらはこれから二手に分かれてお仲間支援ってとこさね!」


「そうアル! 差し当たってはミシャリア様の方が手薄ゆえ、そちらへ人手を向かわせるが吉アル!」


「オリアナさんは信頼できるサリ! けど、王女様もあっちにいるなら優先サリね!?」


「んじゃ、ミーシャの方はあたしがキーモと向かうわ! しないでもないから!」


従う方がいいの……(汗)。きっとそれが間違いないはずなの。と言う事なら、ボクとディネさん以外はそちらへ。ディネさんはボクと一緒に――」


ついて行く! なんでもござれ、さね!」


「いや……そんな、とかの意味はこもってないの(汗)。」


 その協力者の決意新たな表情も起きざ去る空気は、いつもの法規隊ディフェンサー平常運転。されどすでに組み上げられた作戦に抜かりはない。


 法規隊ディフェンサーが総出で、二箇所同時勃発する奴隷商人側勢力との戦いへと出向く。その間カクウお付きらは、不逞な同胞の混乱に乗じた狼藉を食い止めるために策を組み上げる。


 奴隷商人勢力へ暗黒大陸出生の異形が関わる点と、カクウ強硬派と言う身内の内乱が含まれる点を考慮した共闘作戦――



 これより、豪商国家ティー・ワンの街を騒がす一大作戦が開始される事となる。



∽∽∽∽∽ベイルーン・サバンナ〜豪商国内部∽∽∽∽∽



 被害――無し



 借金――据え置き……だがしかし、これより始まる二大バトルは想像を

     絶する借金加算の予兆!?大丈夫か、法規隊!?



∽∽ ついに冒険史上最大額の借金が爆乗せされる!!? ∽∽

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