Act.77 商国激震!大混乱の二大激突!

 連星太陽が豪商国家ティー・ワンの早朝を照らし出す。だがその日は、街全体が異様な危機感に包まれていた。


 騒ぎを聞きつけた局兵ガーダー・ポーン兵も、眼前で撒き起こる事態には二の足を踏む。いかな洗練された彼らとて、眼前の異変は経験した事の無い異常事態であった。


「遊ぼうぜっっ、法規隊ディフェンサーっっ!!」


 響く獰猛な野生の獣の如き雄叫びが法規隊ディフェンサーを狙い定めるや、暗黒大陸にのみ生息すると言われる巨体にまたがり城壁を飛び降りた。そして着地する姿はすでに下位竜種レッサー・ドゥラグニートに相当し、ついぞ仲間となった乗騎地走竜ドランゲイターを、凶暴にした様な巨躯が立ち上がる。


「はっ! こいつぁ、確かにヤベェな! いいとこウチのドラケンが、下位種に当たんだろうぜ!」


「暗黒大陸のじゃと!? この様な異獣……確かにワシの見識の中にも存在せぬわ!」


 最大警戒の元武器を抜く、狂犬テンパロット英雄妖精リド。同時に、事態を察する仲間に協力者も戦闘態勢へと移った。部隊でも一、二を争う最強所が揃って武器を抜いた現実こそ、相手が如何に恐ろしいかを物語る。


 そんな警戒をあざ笑う魔獣使いが、ニヤリと嘲笑を浮かべるや、かざした手へ小型魔量子立体魔法陣マイクロ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダを発現させた。


「悪りぃが俺様は、十分な力を発揮できねぇ! だが、、こちらでも十分立ち回れんだぜ!」


「……待て、こちらじゃと!? お主は――」


「おい、この感覚!? 忘れはしねぇ……これはあの、ハイネ街道を闊歩してやがった魔獣系異獣……ジャバウォックに近しいモンだぜ!?」


 最大警戒の元構えを取る法規隊ディフェンサーツートップであったが、魔獣使いの男が放つ圧倒的な気配で狂犬の警戒が無制限に引き上げられた。


 彼は放たれた言葉の意味を理解している。言うに及ばず――感じた気配は、かつて魔導機械アーレス帝国は南方の水の都アヴェンスレイナまでの道のりで遭遇した強敵。魔族の血脈に連なる魔獣系異獣、ジャバウォックが放つモノと同種であったからだ。


「ハッハー! ジャバウォックを、俺様達の世界へ追い返しただけの事はあるな法規隊ディフェンサー! だがあんなモンは異獣だ! 俺様達には遠く及ばねぇ!」

「ザガディアスと異なる位相に存在する、俺達の故郷にして魔界の上位種エルダード! 魔人族のビースト・ライダーとは俺様の事だっ!!」


 魔人族をうたうライダーが、ご丁寧な講釈を垂れながら襲い来る。その端々に混ざる言葉は、部隊二大戦力……引いては暗黒大陸の情報も共有する協力者にさえ、驚異の危険度を知らしめる事となった。


「かの暗黒大陸が、未踏の地である事は知ってたネ! しかしこれは……この様な魔人に魔の異獣が闊歩するが彼の地とは! これは大統領閣下へも、要警戒を報告に上がらねばならない案件アル!」


 目にした賊がただの賊どころか、国家にさえ仇なすレベルの天敵と察した酔いどれ拳聖マーも、グイと酒を一煽りして戦闘態勢へ移行する。普段の飲酒でまかなえる戦いを、軽々凌駕する激戦を察した咄嗟の判断であった。


 それを視界に入れる魔人ライダーシグナーは、ニヤリと口角を上げ己の邪魔立てする者は全て敵と言わんばかりに咆哮を上げる。


 法規隊ディフェンサーでさえ、驚愕を覚える戦い方を披露するために。


「行くぜ、我が乗機! ヘルズゲイター アグレッド! 俺様の魔霊力マガ・イスタールを喰らいて力と成せ! 魔霊装填デヴィライザ百騎臥竜ドゥーラ・ゲイズ!!」


 魔人ライダーの咆哮が、小型魔量子立体魔法陣マイクロ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダよりく妖しき光帯こうたいはしらせる。直後その光帯こうたいが彼の乗機である魔甲竜アグレッドを激しく照らし――


「気を付けられよ! ……魔の力を根源とする高位強化術式なるぞっ!」


 耳にする言葉は驚愕以外のなにものでもない。



 法規隊ディフェンサーが誇る真理の賢者ミシャリアのお株が、またしても揺るがされる事態であったのだ。



∫∫∫∫∫∫



 目にした光景でやられたと、オズとやらの思惑に振り回される惨状が渦巻いたね。


 この状況下で、私達がこのティー・ワンへ入国した事実を知りうる存在は限られており、且つ奴隷商人側ではそこまで先見性に富む人材はいないと踏んでいた所。


 その全容から導かれた結果は確実に、あのオズが仕組んだ舞台であろうと察したよ。


「出てこいよ法規隊ディフェンサー! いるんだろう!? よくもこのあたしへ、舐めた真似してくれたなっ!」


「ああ……怒ってるねぇ、あちらの姉さん。そして見えるだろう? ウチの姉さんの背中には、仲間だったはずの一人からナイフが突き付けられてる。まいったねどうも。」


「ミーシャこれ、完全にお姉さんがガツツリ人質の展開に向かってるじゃない……!」


 今までは冒険者を演じていた……ウチの姉を上回る残念さんと言う事で、とでもしておこうか。が、完全に最後の手とも言える策に打って出たのは頭が痛い所。


 これはアレだね。入国できたのは冒険者と言う肩書きを利用したのではない、うかがえるよ。けどそうなると、あちらの奴隷と言う商品に仕立て上げられた方々にも危険が及ぶ。詰まる所――


 あの出来る弟による、舞台演出でもある訳だ。


「あちらのオズさんとやら、これは無茶振りにも程があるよ? 大方こちらを試したいのだろうけど……こういう場合、難事が降りかかるが常なんだ。最悪、――」


 冒険の経験上、戦力的には申し分ない我が部隊も分断されれば用いる事が出来る人員に戦術にも制限がかかり、そこに来て町中でのあれやこれやはもれなく、目も当てられない大参事となるが常。


 そこまで気が回らないあちらの、嘆息も辞さなかった私。そんなタイミングに、ふところで鳴り響く精霊術式仕様の携帯端末の音を耳にしたのす。


 その端末は、現在この商国内では発展乏しい魔導通信施設を鑑み、精霊術のみで扱える臨時の通信手段として別働隊へ預けていたモノとの対の親機。もう嫌な予感しかしない私がそれを手に取るや、ウチの精霊な残念さんの声でした。


『ミーシャはん、えらいこっちゃ! 今奴隷民の衰弱者救出があらかた終えた所……あちらさんからの刺客がおいでなすったで!? しかもそいつは、リュードに加え暗黒大陸の名を口走りよった――』

『あの御仁とは敵対関係やろけど、自分が暗黒大陸出生の魔人族やなんてぬかしよった!』


「リュ……っ!? はぁ……ほれ見た事か(汗)。完全に奴隷商人側によって、意図せず分断された形じゃないか。しかもこれ、作戦で動いたとかではなく、私達の分断に成功した感じだよ。天才か?いや天災か……。」


 もうつまらないダジャレが口から漏れるほど、大きなため息を吐く私は、隣り合うリーサ様に鈍黒さんと首肯し覚悟を決める事とします。


「どうやら私達は、難事に絡まれる因果からは逃れられない宿命とみたよ。ならば抗ってやろうじゃないか。もう、絶賛戦闘態勢……選択肢もない感じなんだけどね。」


「残念なお姉さんに、超残念な敵方お姉さんとか……(汗)。どんだけ私らの周りには、残念が溢れてるのよ。」


「……オリアナちゃん? 今、王女様を見たでしょ。」


「見てないです、すみません(汗)。」


「いや、君も大概残念なんだけどね?」


 いつもの私達らしいやり取り。けれどそこに宿る覚悟を見届けた所で、共にある精霊方にも宣言するとしよう。法規隊の法規隊による、法規隊らしいやり方で応戦する旨を。


「ではグラサンにシェン、臨戦態勢と行こうじゃないか。奇しくもここからは、私達の最も得意とする戦術を展開せざるを得ない。分かるね?」


『準備はできていますキ! いつでも闇の精霊シェンは、賢者ミシャリア様のお役に立つ所存ですキ!』


「おうおう、闇の嬢ちゃんも気合入って来たな! なら俺様も、ちとやってやろうじゃねぇか! ファッキン!」


「いい気概だ。君達精霊の力は当然の如く信頼しているし、今この時の直接戦力は私と……オリアナだけだ。そして相手は――」


 私の言葉で奮起する闇と火の精霊方。すでに実の姿へ移り行くシェンに、荒ぶる火炎たぎらせるグラサン。その頼もしい二柱を一瞥し、視界を物見櫓の階段へと。


 そう……ジェミニ・クルエルティをうた相対するために、ティー・ワン中央大橋へと降り立ちます。


「……ようやくお出ましか、このが! あたしを散々コケにしてくれた礼は、タップリ弾んでやんよっ! オズっ……出て来い!!」


 そして大橋中央へと躍り出た私達を、それはもうガン睨みする超残念さん。そこで捕らわれる、視界に映るウチの残念姉さんへとアイコンタクトを送りつつ、敵を見据えます。対し、ジェミニ姉の声に呼ばれて姿を現すのは、双子の弟であり法規隊ディフェンサーとコンタクトを取って来た重雷帝の剣士 オズ・クルエルト。


 精霊装填を用いるならば、なんとかこの二人を相手取るのも可能かと思考していた矢先。超残念さんたら、それはもうびっくらこくサプライズを、望んでもないのに準備していたのです。


「キッヒヒヒヒ……喜べよ、法規隊ディフェンサー! テメェらは相当の戦力と、このオズから聞いている! そのお前達のために、とっておきを準備してやった! ありがたく思えよ!?」


「ああ、なんだい? とっておきとかは、別に望んでないんだけどね。できればサクッと君達を料理して、大統領閣下へ素っ首差し出したい所――」


「シャギャァーーーーーーーーーっっ!!」


「「「……!!?」」」


 揺らめくジェミニ背後の空間。確かあのオズが姿隠しに用いる、重力系古代魔導術式グラビティア・ハイ・エインシェッドの特徴であるそれが、ぐらりと揺らいだ後巨大な影を投影したのです。否――


 現れたのは、姿隠しされていただったのでした。


「……誰だい? あの怪獣 アンギルモアスを退治せず野放しにしたのは(汗)。」


「ここで言う? 私達だよ、それ……(汗)。」


 嫌な汗と共に視線を交わさず言葉を交わした、私と鈍黒さん。



 まさかまさかの退治せずに放置した怪獣さんを、事もあろうかジェミニ姉が傀儡として準備してくる惨状が襲う事となったのです。

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