Act.74 法規隊、歌姫との邂逅

 案内される指定お宿へ着いた私達は、二つの大部屋を用意される待遇の中、ワンさんお付き達の話を聞くためその一部屋へと集結します。しかしそこは流石に、一国の要人向けの場所……分隊がいないとは言え、この大人数を精霊含めて迎え入れられる規模には度肝を抜かれたね。


 豪華絢爛ごうかけんらんから一線を引くと感じるのは、この首都で要人を招く場所は大方、アカツキロウが誇る引き算の美学を模した雰囲気を取り入れているからでしょう――


 アカツキロウ製と思しきタダーミ敷きの間を中心とした部屋には、質素なはずなのにおごそかささえ感じられた所だ。


「メイはが得意デスの。あと、魔術などはからきしデスが旅に関しては一家言あり、このウォーティア大陸各地の観光名所を余すことなく把握してるデスの。それらが生む人の流れは全て、メイの想定範囲デスの。」


「……ほう。」


「ウチはそうっすね……が得意っす。まあ武器はからきしなんすが、変装した奴になりきるぐらいはお手の物っすかねぇ〜〜。ああ、あと地域特有の特産品などはウチの独壇場っすね! ウォーティア大陸全土のあらゆる名物やご当地食材などは、ウチにお任せっす!」


「ほ……ほう?」


 そこでメイメイとラグーから、彼女達の得意な分野を聞き出し、今作戦の成功を確実にするための算段をと意気込んだのです。が――


「あのこれ、ミーシャ?王女様の意見いいかな。これってワンさんが感銘を受けた点にクリーンヒットすると思うんだけど……もしかして、――」


「ペネも思う感じ。これは所謂いわゆるこの方達は食堂経営の集客や接客上、必要不可欠な情報源を持つ優良人材な感じだわ。」


「……ああ、私も分かる。あのララァさんもタイニー娘で、それこそが重要と頭を悩ませては愚痴ってたっけ。私の古巣だって無関係とは言えないし。」


 二人から発せられた言葉で、嫌な汗を総動員してそれぞれ語ってくれる、姫様に加え商人家業では一家言あるペネにオリアナ。アグネスでは、情報を探るために売り子を買って出たツインテさんもうんうん頷いてるね。精霊組さえ苦笑いする現状、もう私が逐一説明する必要もないじゃないか。


 なのでお二人には悪いけれど、残念ながら思考に描いた言葉をそのまま贈呈しようじゃないか。


「メイメイ、そしてラグー。君達……全然使えないね(汗)。」


「「ガーーーーンッ!!?」」


 それはもう包み隠す事ないピンポイント爆撃で、二人がなかなか面白い「ガーン」を口に出して打ちひしがれてしまった。うん、申し分なしだ。


 けれどそれはあくまでも、二人の能力を聞いた上辺で評価したものに過ぎず……着目していたのです。


「(観光名所からの人の流れ把握に地方名産把握は、置いておくとしてだ。モノマネに仮装変装……ね。)」


 一見すればただのお笑い要素でしかないネタなのですが、要はその能力でもあり――


 テンパロットと言う、帝国諜報部忍びの得意分野にも並ぶ場合を想定したのです。


 こちらの意図などお構いなしに項垂うなだれる二人を尻目に、それをよく知るリーサ姫様とヒュレイカとのアイコンタクトを交わす私。ともすれば、部隊で唯一であった撹乱担当の役割へ、新たな人員を振り分ける算段をこの脳内で組み上げます。


 何せ今相手取る敵は、内部分裂さえいとわぬ不逞の輩達。さらには敵対組織のいざこざに加え、奴隷として集められたタイーニャ族長候補含めた民と、今も双子の商品として運ばれる姐さん救出と――


 それらの件へ、同時対応するために取り得る最善の策……、彼女達の能力さえも使える能力へと昇華するのです。

 そして、耽け行く夜を超えた私達法規隊ディフェンサーは動き出します。



 悪逆極まりない奴隷商人を名乗る不逞の輩共との、謀略合戦と言う戦いへ。



∫∫∫∫∫∫



 法規隊ディフェンサー本体が豪商国家ティー・ワン首都へと入る頃、狂犬テンパロットを初めとした分隊調査組は、奴隷にされた者達の居場所に目星を付け動き出したが――

 虎人青年ティーガーと所縁のあると思しき敵方潜伏者との邂逅の後、隠密諜報にけた狂犬と残念精霊シフィエール淡き光の君ウィスパが闇夜を渡って行く。


 虎人青年所縁の者が行動で指し示した、目指すべき目標へと向けて。


「……この長屋か。あちらさんの潜入者、上手い事やったな。ここにいたはずの、奴隷商人側の兵が手薄になってやがる。」


「ああ、いつ見ても恐ろしい手際やなぁ(汗)。テンパロットはんの、流石諜報部所属としか言いようがあらへんわ。」


「人聞きの悪い事言うなよ(汗)。殺しちゃいねぇ。軽い当て身で眠らせてるだけだ。」


人死ひとじには、賢者ミシャリアの望むものではない、ですね。その心構え、感嘆を覚えます。」


「てか、ウィスパも最近ほとんどしゃべるのが当たり前だなおい。まあそりゃいいとして、奴隷にされてる奴らを見つけ次第、二人は手筈通りに。いいな?」


「「承知。」」


 精霊光の街灯もない夜道の先。両大河を繋ぐ様に、護りの城壁の下へ南北に伸びた長屋は、貧民街を貧民街たらしめる作り。至る所が朽ち果て、とてもそこが人の居住する場所とは思えぬ光景が分隊調査組の視界を占拠する。


 その長屋手前の物陰からひらりと飛び出た狂犬が、申し訳程度に配された護りの輩どもを昏睡させての今に至る。帝国諜報部に所属する忍びにとって、その程度の技は朝飯前であった。


 精霊でも機動力に長けた二人を従え、狂犬が闇夜に紛れつつ長屋へと滑り込む。残念精霊と淡き光の君は、目標となる者達が確認された場合、救出可能であるなら直様その救出ルート確保と、連絡へと飛ぶ手はずである。そして――


「我らは見張りぞ。ティーガー殿も気を引き締められよ。時に……先にやり取りした者は、貴殿の知る誰かなのだな?」


「うむ、そうだ。後で話すつもりだったが……アレは我がオクスタニアでも、族長候補を守る眷属の一欠である黒鳥人族レイヴナス・ウェルフ。レイヴ・ウィルビントと申す、私と無二の戦友だ。だがまさか、あいつがタマお嬢をお救いするため奴隷商人サイドへと潜入していたとは――」

「そのお嬢を探して、右往左往していた己が情けなくなる次第。正直やつに顔向けが出来ない所だ。」


 狂犬らに調査を任せ、離れた場所で見張りを任されるは虎人青年。さらには、一旦引き返し合流を果たした風の巨躯ジーン酔いどれ拳聖マーが陣取っていた。


 狂犬と英雄妖精リド判断による、囚われているであろう奴隷となる民の迅速な救出を念頭に置く、臨機応変な人選であった。


「ティーガー氏は、そこまで己を卑下ひげする事もないアル。あなたは確かにタマお嬢を連れ去られはしたが、そこで折れる事なく主を自らの足で探し求め、結果この法規隊ディフェンサーと言う稀に見る部隊との邂逅を成し遂げた。」

「さらにはそこで得たものは、今後彼女を守り抜くために必要不可欠な素養アル。胸を張っていればよろし。」


「……そう、だな。感謝する、我が師たるマー・ロン殿。」


 己を卑下ひげする物言いも、師となった酔いどれ拳聖の諭しに自身を戒める虎人青年。似た様な光景を、己の主である真理の賢者ミシャリアと、かのアグネス宮廷術師会 元代表であるレイモンドとの間に垣間見ていた風の巨躯も既視感を抱く。


 そんなやり取りが交わされる中――

 狂犬率いる調査組が長屋にある隠し扉をあっさりと見つけ出し、地下へと伸びる階段の先、そこでも見張りを瞬く間にのしあげ配置に着いた。


「よし……民の救出ルートは確保した。だが、今確認した人数は、この闇夜とは言え全員助け出すには目立ちすぎる。って事で――」


「はいな。ウチがすぐにティーガーはんを呼んで来るさかい、しばしお待ちや。」


 狂犬は賢者少女との事前やり取りで、救出する民の人数によっては、時間差で少しづつ開放する算段を取っており――

 そこにいるであろう幼歌姫タイーニャが真に民を纏める器であるなら、民全てが救い出されるのを見届けるまで、そこを動かない事さえ想定しての算段である。


 同時にその概要こそが、あの黒鳥人族レイヴナス・ウェルフ レイヴ・ウィルビントとアイコンタクトで交わした民救出作戦そのものであったのだ。


 程なく残念精霊によって連れられ、長屋地下の広大な空間を利用し作られたと思われる、見るも無残な収容施設へと虎人青年が訪れる。すでにその厳重な魔導扉の前で待つ狂犬とのアイコンタクトの後、青年が扉ののぞき窓の先を見やり声を上げた。


「ここへ奴隷として囚われる力なき民達よ。我が名はティーガー……ティーガー・ヴァングラム。南方熱帯林地方へ居を構えるオクスタニア王国の――」


 凛々しく響く名乗り。その声は絶望に打ちひしがれる民……中でもオクスタニア出生と思われる者の心へと余すことなく伝わって行く。だが何よりも、その名前に反応した幼さ残す声が飛び上がる様に扉へと走り寄っていた。


「テ……ティーガー!? ティーガー・ヴァングラムなのみゃ!?」


「はい、タイーニャ・マーム・ルーンベルム・シュタルガート・ロイツェルンお嬢様。大変遅くなり申し訳ありません。不詳ティーガー・ヴァングラム……ようやくお嬢様のお側に馳せ参じました。」



 きずな繋ぐ主と従者が、ようやくの邂逅を見た瞬間であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る