Act.73 新たな翼得る伝説の血脈

 豪商国家ティー・ワンの宵闇で、煌めく刃が火花を散らす。法規隊ディフェンサーに協力する虎人青年ティーガーと、姿を見せた敵対勢力らしきローブの男。両者の武装が、高周波を撒き闇の静寂を打ち消した。


 が――

 そこへ助太刀する、帝国諜報部隊所属である狂犬天パロットも察する事には、眼前のローブの男は戦闘に及んでいる。


 虎人青年へ後で事情説明をと注す彼の思考では、すでにいくつもの可能性から、僅かな事実への道筋が絞り込まれていた。


 詰まる所、敵対を演じるローブの男が現在囚われの身となっている奴隷達の何れかと内通し、状況打開を図っているのだと。さらに虎人青年が、驚愕だけではなく懐かしささえ讃えていた点が、狂犬の推理を盤石の物としていた。


「おい、テメェら何してやがる!」


「いい所に来た! こいつら、ここを嗅ぎ回ってやがった! お前らも応戦しろっ!」


 鳴り響く高周波の雄叫びで、異常を悟った不逞の輩が複数名駆け寄って来る。そこで敢えてさも仲間である体を演じるローブの男は、視線で「ここは撤退しろ」と送る。心得たとばかりに手甲ナックルを引いた虎人青年に合わせ、狂犬と残念精霊シフィエールも撤退の構えを取り――


「ちっ! こんな手練がいるとは聞いてねぇ! ずらかるぜ!」


「はいな! ティーガーをはんもええな!?」


「うむ、心得た! ここは引こう!」


 狂犬得意の他者を演じつつ素性を隠す、諜報部仕込みの変わり身を見せれば、残念精霊に続きそれに続く。青年の強いクセまで織り込んだ、狂犬のキレる判断のまま、法規隊ディフェンサーの情報調査組がその場から姿を消した。


 上手くやったなと微笑を浮かべたローブの男は直後、己が演じる奴隷商人側用心棒のツラへと変貌させた。


「クソっ……ここは廃墟みてぇな所だ。そこでそうそう嗅ぎ付けられるとは思わなかったが……奴らは厄介だぜ?」


「それは本当か!? だがアレは、ティー・ワンのガーター・ポーンじゃねぇだろう!?」


「詳しくは分からねぇが、奴隷共の見張りを強化する必要がある。至急手空きの人員で周囲を警戒させろ。」


「ああ、そうだな! ロマネクタは兎も角、あのジェミニの姉には睨まれたくねぇ! すぐに人員増強するぜ!」


 駆け付けた奴隷商人陣営の数名へ、素早く警戒を促すローブの男は勘付いていた。それは同じ諜報を生業なりわいとする者の匂いの様なもの。彼は狂犬の発する、決して気質かたぎでは持ち得ない闇を感じ取っていた。


 だからこそ敢えて人員増強を指示したローブの男……獣人王国オクスタニアは諜報尖兵たるレイヴ・ウィルヴィントは、と踏んだのだ。


「(ティーガーが異論を挟む事なく、絶妙の対応を成す……か。猪突猛進が常であったあいつがあの変わり様……どうやらあいつでさえも、一目置く存在と巡り会えた様だな。ならば――)」

「(。ティーガーと先に見た拳聖……それに加えた信ある者達の助力を得れば、我らが主であるタイーニャ様を救い出す好機が舞い込む。そちらは任せたぞ?ティーガー。)」


 虎人成年と、同国で凌ぎを削って来た隠密鳥人種レイヴは羨望込めて口角を上げた。主を奪われた失態に、責任を感じるのは虎人青年だけではない。そこに仕えていた鳥人種の彼も同様なのだ。


 従者としての未熟と世界を知らなすぎた点が要因であり……あるからこそ、時を置いて目にする戦友の、己をも追い越す勢いの成長を目撃した彼。その内に眠る、従者の誇りが打ち震えたのだ。


 己も負けてなどいられぬと。戦友が成長を遂げたならば、己もそれに追いすがらねばならぬとの決意を以って。


 僅かの邂逅が、幼歌姫タイーニャの命運さえも揺るがした。法規隊ディフェンサーと呼ばれる存在に加え、大陸の誇る拳聖と出会い覚醒を始めた虎人青年ティーガー。その成長を目撃し奮起する隠密鳥人種と――



 赤き大地ザガディアスでまたしても、法規隊ディフェンサーと言う冒険者が新たなる歴史の幕開けを刻み始めていたのだ。



∫∫∫∫∫∫



 ティー・ワン国へ到着もすでに宵を向かえていた私達は、すぐさまお宿の手配を済まし宿泊の準備へと移ります。けれどそのお宿は、すでにジィ様がこの国の大統領であるフェイ閣下から指定を受けた場所らしく、局兵ガーター・ポーンの方から案内を受けてのチェックインでもありました。


 そこへ、時を置かずしてフレード君とあのワンさんお付きの方々……ラグーとメイメイが合流を見た所。まあそこへくっついて来たディネさんは、予想の範疇でもあったけどね。


「流石ディネさん。もうフレード君のゴルドフィッシュ・プルール待ったしだね。」


「は? なにさね、そのゴルドフィッシュ・プルールって?? アタイは聞いた事もないさね。」


「ああ、それはね? アカツキロウに古くから伝わる言葉で「」と言う意味な感じ――」


「時間差でバカにして来たね、アンタ! つか、ツッコミ辛いからもっとダイレクトにケンカ売りな!」


「ペネも律儀に要約するんじゃないよ……(汗)。まあそれは置いておくとしてだ。」


「おいて……ちょっとアンタっ!?」


 しーちゃんが暫くいないので、そこに並ぶほどに弄って楽しい輩な姐さんを弄ってみれば、期待を裏切らないのは家族の証。ただ、その態度から現状は危機的状況などは訪れていないのを確認した所。


 フェイ閣下ご指定の高級一室を目指しながら、こちらのメンツを改めて確認しておく事としました。


 ドラケンとキーモをお宿前の広場へ繋ぎ、大活躍だったドラケンへはたんまりとエサを与え……って、改めて思い返してもキーモの名はすごいインパクトだね。まあヒュレイカが気に入ったのなら、それでいいのだけど。


 それとアーレス帝国から訪れた支援部隊の乗騎生命が、まさかのドランゲイターに珍妙な名のキャメリッシュな点へ、驚愕する局兵ガーター・ポーン達は見ごたえがあったね。


 そんなこんなでお宿へ宿泊するのは私とリーサ様を始め、現状ほぼ女性陣で固められる。ヒュレイカ、オリアナ、フレード君にペネの法規隊ディフェンサーメンバーと、メイメイ、ラグーの協力者メンバー。加えて精霊種がグラサン、サーリャ、ノマさん、シェンに合流した輩姐さんと――


 いざ争いに巻き込まれた際の前衛、後衛のバランスはまずまずと踏んでいます。が……実の所、メイメイとラグーの戦力が未知数な事もあり、その辺をつまびらかにしておこうかと思考した私。


 さっそく合流がてらに、その話題を振ってみる方向としました。


「ディネさんはさておき、メイメイとラグーさんとやら。私はあなた方を有事の際、、戦力評価のために君達の職種や得意な戦闘方法などを提示願えるかい?」


「ぶっこむ算段って……(汗)。聞いていた通りの横暴――」


「ラグー、それ以上は言うべきではないデスの。今は協力者の身……分かったデスの。こちらの持つ戦いに於ける諸々をお伝えするデスの。」


 私の言葉へウザがる様な仕草のラグー。それをいさめるメイメイの態度で、即座に彼女達の実質的なポジショニングを確認します。詰まる所、協力者方は、後衛でメイメイが尻ぬぐいする構成と察したね。


 それを瞬時に見抜いた時点で、同情しか浮かばないのだけれど。


「ラグーはかの旧王朝に於ける武神の血脈に連なる家系……なのデスが、かなり血も薄まり伝説の武神の様な戦術は得意としないデスの。そしてメイも、その武神に並ぶ智謀神と言われる者の末裔――」

「……なのデスが、あんな伝説的な偉業を数々生み出せる様な奇策は、トンと浮かんで来ないデス。」


「そうっすね〜〜。ウチらはその全てをワン師にお伝えしたっすが……なぜか盛大に感銘を受けられての今に至るっす。ウチもそれがなぜなのか、判然としないっすよ。」


 私の問いへメイメイが中心となり語られるのは、実質自分達にはそこまで期待できる能力がないと言う、自虐とも取れる情報。けれど私は、、敢えてそこを問いただす方向で会話を進めて行く事とします。


「おや? やけに自身がなさげだね。別にとんだ能力を欲している訳ではないんだよ? 私達法規隊ディフェンサー……群を抜いて優れた能力などなくても、方法次第でいかようにもしてしまう。まあ――」

「早い話が、私達と言う存在なのさ。」


 そうして出た私の言葉へ、一瞬呆けた様な顔を見せた二人の協力者。程なくその呆然とする状況から顔を見合わせ、視線をこちらへ向けたメイメイが語り出します。


「……そういう事でしたら、メイ達も特技が無い訳ではないデスの。それでよければお話するデス。」


 そして言葉を紡ぎ始める策士なメイと、戦士なラグーの憑き物が落ちた様な雰囲気へ口角を上げつつ――



 協力者が得意とする、ありきたりな能力へ耳を傾けながら宵を過ごす事としたのです。

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