Act.72 ティー・ワン首都、闇夜の情報調査網
日付が変わる深夜時。旅路の疲れを癒やす傍らで、合流を果たせと指示を受けた
本体からも情報収集のために分隊へと合流した
「テンパロットはん、こっちやこっち!」
「おっ、通訳外れた残念精霊。久しぶりだな。」
「って、いきなりケンカ売ってんのかいな!? そう言うのはええねん! はよ来てや!」
平常運転の狂犬が、これまた平常運転の
事を秘密裏に遂行するにはうって付けでもあった。
「ジィさん、
「ジィさんではない。全く……今外で、そこの風のお嬢が突っ込む声が聞こえたぞ? 変わらずは構わんが、ちと空気と言う物を読むべきではないか?」
「ああ、私もそう思うアル。一先ずそれはおいて置くとしてアルね――」
小屋内まで聞こえる残念精霊のキレた突っ込みの声には、さしもの
作りの簡素な小屋ではあるが、なぜかやたらと小鳥や小動物の籠が室内を埋め尽くすそこ。ともすれば、それらの糞尿の臭気さえ漂いそうな場所へと
合流した狂犬を始め、生命種では
「分かってんよ、小国からの提供情報すり合わせだろ? 時に、ディネの姐さんはフレードんとこか?」
「ワシらが何を言うても、あのお嬢はそこを離れんじゃろ。じゃから、万一の後方護りとして置いて来たわ。さて、本題じゃが――」
「ウチらでみなはんが到着するまでに、あらかた町を洗った所おすが……キナ臭い箇所は確かに存在しとりました。けど、そこは小国が旧王朝との
「かの大統領であられるフェイ・イー閣下は、それが結果的に悪意の蔓延助長に繋がったと嘆いておられた。しかも近年、小国領内各所で多発する異獣の発生騒ぎで、
部隊切っての情報戦の雄である英雄妖精が指し示す推測を聞き、逡巡の後捻り出す狂犬の解答はまさに、
「リド卿が寄越した情報で、あの双子が奴隷商人
「カカッ……! お主ならそう言うと思うておったわ。伊達にあの、サイザーのボンに慕われてはおらんのう。」
「そ、そういうのはいいんだよ(汗)。で、どうする……俺はいつでも動けるが?」
流れる様な推理へ感嘆を送る英雄妖精。狂犬も唐突に褒められどもりそうになるが、そこは讃えられた通り、かの
分隊が現状、英雄妖精を主軸に動いている事を鑑みた、粋な計らいでもあった。
「差し当たっては、フェイ閣下からの要望を一つづつ熟す算段としようぞ。最優先となるのは、奴隷商人の監禁しているであろう者達の居場所と状態の特定。商品などと抜かすからには、傷を付けたりはしておらんじゃろうが、救出するにもその情報が少なすぎる。」
「なら俺が、そっちを当たる方向としよう。連絡役にしーちゃんと、あと……勝手に突撃しないと約束できるならティーガーも同行願えるか?」
「ああ、感謝する。テンパロット殿の配慮へ報いる様、その旨は約束しよう。」
程なく……狂犬を主軸に据えた、奴隷商人相手の情報合戦が開始される。
∫∫∫∫∫∫
奴隷商人が監禁する者達の、安否確認と救出の算段を付けるため、
それを視界に止めた町並みより導き出す、狂犬の観察眼から来る判断であった。
対し――虎人青年の存在は言うに及ばず、
そして三人は、
「このティー・ワンは、東から海へ伸びる二等辺の三角州に広がっているな。んで、小国王都となる城を南北へ縦断する様に、ミューリアナ街道の大桟橋が貫く……と。」
「せやな。この一帯はまだギリギリ、首都圏内言うてもおかしない。せやけど、この城壁から下……東に広がる旧王朝の町並みは、むしろ下町っちゅーよりは貧民街って感じがするわ。」
「私もそれは感じた。この地点からの貧富の差が歴然なのは明白。だが、これが双方の政治不干渉条約から来るものとなると、これよりの治安は一気に乱れる恐れがあるな。」
一行でも情報収集能力に長けた二人と、生真面目が幸いし状況把握能力を会得した虎人青年は、急増としてはまずまずの団結を見せ付ける。青年に至っては、
そうして、急増情報調査組が闇夜に紛れ町を行く中。次第に視界へ映る町並みが、古び、折り重なる様に続く風景へと移り行く。様相は下町と言う情景を越え、散乱するガラクタやゴミが埋め尽くす貧民街の全貌が明らかとなった。
「話には聞いとったけど、これは想像以上やでテンパロットはん。」
「だな。だがアーレスやアグネスの様な大国ならば兎も角、小国の……それも首都と政治的な不干渉を結ぶ、国家としても怪しい場所――この状況は想定の範囲内だぜ。ここを悪く言うつもりはないが、国を纏める王族権力や政府無しじゃ無理もねぇさ。」
「国家のために、裏方で尽力したと聞いている。そのテンパロット殿が言う言葉には重みがあるな。」
「よせよ、ティーガー。こいつぁサイザー皇子殿下の受け売り……俺の言葉にそんな大層な重みなんざ――待て。」
一層古さが際立つ町並みの一角で、キナ臭いと睨んだ箇所の一つへ狙いを定め、情報調査組が足を進めようとした刹那。視界へねずみ色のフードを纏う人影が映るや、狂犬が警戒レベルを上昇させた。
歩みは人並み。しかし人影のローブ背部が、不自然に盛り上がりを見せる姿。それがこの治安の悪さ際立つ宵の町並みを、頼りないランプの明かりと共に堂々進む様は異様にさえ取れた。
狂犬の警戒の元、残念精霊は姿隠しで素早く身を隠し、隣り合う虎人青年も平静を装う様に歩みを進める。やがて、その影が二人の男とすれ違うか否かの位置へと到達した時――
歴戦の勘が閃く狂犬が声を上げた。
「ティーガー、避けろっ!」
言うが早いか、反応としては同時であった虎人青年が身を
その物体を確認した虎人青年が、驚愕の後、得も言われぬ感慨を乗せた言葉を放ったのだ。
「……っ、この武器はジャベリン!? 空中強襲用に精錬された、霊銀製のホークウインド・ジャベリンでは! まさか貴君――」
「変わらぬ反応で安心した。そう、私だ……。だが今は身を明かす事ができぬ故、このまま敵対者として相対して頂く。」
ローブの人影は男か。さらには、虎人青年の言葉へ懐かしむ素振りを見せるも、敵対を演じろと追加した。そこから阿吽の呼吸で、両者が弾ける様に離れたのを確認した狂犬は、ただならぬ事情を察し敢えてローブの人影が発した言葉に乗る算段とした。
「おい、ティーガー! この状況は、お前さんが一番理解してんだろうから、後でたっぷり説明してもらうぜ!」
「
「しゃーねぇ……しーちゃん出てきな! あんたがいる方が、こっちの素性を相手に理解させ易い!」
「流石は伊達に諜報任務には生きてへんな、テンパロットはん! ガッテン承知、ウチもその言葉に乗ったる!」
距離を取る両者が敵対を演じる様に、闇夜で刃を切り結んだ。そこでカチ合う高周波の雄叫びが、やがて周囲のローブの男の仲間――のはずの野盗を呼び寄せるか否かで、情報調査組が撤退を図る。
即ちその遭遇こそが、一行の探し求めた答えである事を悟っていたから。
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