Act.71 全法規隊、ティー・ワンへ
すでに連星太陽に変わり、アルテミスの月が顔を覗かせる中。大統領府に招かれた
国をまとめる者としての権威は感じさせながらも、決して威圧する事のない
「なんやこのお城に入るや感じた懐かしい感覚……やはりこれは、アカツキロウの誇る引き算の美学を体現したものとお見受けしおした。」
「ええ、流石はブレイブ・アドベンチャラーはアカツキロウの、守護宗家を出生に持たれるご令嬢。ひと目見てこの城に施す美の本質を見抜くとは、私も感服致しました。」
そんな抜刀妖精の言葉へ、感銘を受けたとばかりに返す
「閣下……世間話はその辺で。今は悠長には構えていられぬ状況……早々に彼らへの追加依頼を――」
「ジャン……。あなたが職務に忠実なのは、私も鼻が高い所ですが……かのアカツキロウに於いては、この
「はっ……大変お見苦しい所をお見せしました。ご容赦願います。」
だが
「そちらの側近、ジャン・コー氏の意思には我らも同意じゃ。ウチの代表であるミシャリア・クロードリアも、その点を踏まえた分隊運用を選んだ所。では早急な、状況打開に向けた情報交換を所望する。」
「我が親愛なる配下への配慮、痛み入ります。ジャン……例の物をこちらへ。」
「はっ……。」
そうして
「こちらをご覧下さい。これが現状、我が
「クォール・ジェルド民街は、この小国とは同じ民族を起源に持ちながら、異文化形態に生きる民アルね。そして、言わずと知れたあのクォル・ガデル王朝の血統は両民族に流れている、言わば兄弟アルよ。」
「チェン……いえ、拳聖マー・ロンの補足通り。しかしながら、かの民族がその様な暴挙に加担していない事は、すでに
一堂が介するテーブル上へ広げられた、目ぼしい情報の記される略地図を見やり、やり取りする筋のある側近と酔いどれ拳聖。彼らほどの実力者がいるにも関わらず、不穏なる勢力が
両子孫の間には盟約に近い形で政治経済不干渉の束縛が存在し、敵が潜んでいたからと言ってなりふり構わず取締りに出られない事情が、不逞の蔓延を許す状況を生んでいた。
ならばと
現在
両国民の尊厳への最大限の配慮の元、不逞の勢力を駆逐するための算段を。
∫∫∫∫∫∫
時間にして深夜。三日月と呼称される、お空のアルテミスの月が、連星太陽、
幾多の冒険から来る経験上、不穏なる者共が何かしら起こす時期は、決まって月明かりの消失する新月の時期と踏んでいた私。
月の満ち欠けは、調和の乱れを察するための重要な判断要因ともなるのです。
「今夜は三日月か。ならば、奴隷商人達が動くとすれば数日後……事を急がねばならないみたいだね。」
そう
「川、でかいわね。これがあの、アヴェンスレイナに並ぶザガディアス大河の一つのペーコク川か。」
「そうそう。んでもって、街の先にある堤防城壁の向こうでちらっと見えるのが、ナーコク川……あの砂漠との境界線って事ね〜〜。」
隣り合う様にずんずん進むドラケンにキャメリッシュへ乗る、オリアナとヒュレイカが語る様に、この二大大河は世界でも有数のクラス1河川に分類される大河です。川がクラス分けされているのは、観光名所などの理由に留まらない、万一堤防決壊などの事態が見舞えば
それを見事防護して見せるのが、眼前の関所も一体となるティー・ワンの誇りし南北巨大堤防城壁〈
「この一帯は
「そうだね。街の綺羅びやかさとは裏腹に、要所へ精霊の加護が宿りやすいシンボルが配されて、一種の精霊加護の結界すらも張り巡らされていると見た。街へこれほど巨大な精霊結界を
ヒュレイカが駆るキャメリッシュに便乗するペネの言う通り、そして
精霊狂騒地帯に囲まれる国家としての魔導的防御の徹底具合が、同時に統治者の裁量さえも示していると言えるね。
小国本質に推察を立てながらの会話。宵闇に浮かぶ荘厳と言うよりは華やかな町並みを一望しつつ、小国関所門へ向かう私達。長旅にも平然とするドラケンに、新たな乗騎生命種たるキャメリッシュを見やり、ふと忘れた頃にささやかな重要点へと至りました。
「おや? よくよく考えればこのキャメリッシュ、まだ名前を付けてなかったじゃないか。」
「んあ? ああ、そうだな……あのデカい怪獣からの逃走に続くスコール一過で、見事に思考から吹っ飛んでたぜ。」
すると同様の思考へ至るツンツン頭さんが頷き、残るメンツも「ああ……」と思い出した様にキャメリッシュを見やります。いい加減だね、人の事は言えないのだけど。
そうして名前を捻り出すためやや歩みが遅くなる私達の中で、その手の話題へ珍しく声を上げたのは、当のキャメリッシュへ乗騎するヒュレイカでした。
「んじゃ、この子にあたしが名前付けていい?」
「それ賛成。王女様も、ヒュレイカに懐いてる感じがしてならないから、いいと思う。」
「リーサ様までそう言うなら。精霊方もそこは問題はないね?」
「いいんじゃねぇか?」
「どんな名前が出て来るか楽しみサリ!」
「キキッ、キー!」
「
グラサンとサーリャ親子にシェンとノマさんも賛同の元、自ら名乗りを上げたヒュレイカが、キャメリッシュへそれはもう御大層な名を与えるのだろうと待ち構える私。まあ……ヒュレイカの考える名前となれば、ある程度予想の範疇ではあったのだけど。
「んじゃこの子、笑い方がキモいから「キーモ」! ねぇ、どうよ!」
「「「「「「……ええぇ〜〜。」」」」」」
直後響いた、予想の斜め上を飛翔しながらぶっ飛んで行く珍名で、皆して後悔したのは言うまでもありませんでした。ですが――
「ヒッシッシ、ヒッシ、ヒッシッシ!」
「おい……こいつ、この名前で喜んでないか? クレイジーだぜ。」
「……もうそれでいいじゃねぇか。メスゴリラとはお似合い――」
「うるさいぞ切り裂きストーカー。って事で、この子は今日からキーモねっ!」
名前がと言うより、女性から名を与えられた点に喜びを禁じ得ない感の、万年発情キャメリッシュ改め「キーモ」が、それはもうヒュレイカを見やるや、いやらしい半目で
などとおバカなやり取りを熟した私達を迎えるは、関所を守護する
この旅に於ける到達目標の一つである、ティー・ワン小国首都へ足を踏み入れた
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