Act.69 旅は道連れ、過酷な因果も道連れに?
巨大なる体躯の怪獣が、炎と闇の巨壁に囲まれるや、さらに外周へ煙幕バラ撒く私達は華麗なるトンズラに成功します。その見事な手際には、指示した私としても自慢がこの可愛いお鼻を、天高く上らせてしまいそうだね。
おや?逃走妙技で鼻高々とはこれ如何に?
そんな冗談はさて置き、駆けるドラケンへとリーサ様が私を引き上げて、続くペネにオリアナも荷車の方に飛び乗ります。視界の先では、成り行きであったけどキャメリッシュへヒュレイカが乗騎し駆ける姿。
いやしかし……よく見ればこのキャメリッシュ、めちゃでかくないか?
「ミシャリア様……
「……ああ、そうだね(汗)。何かこう、今絶賛私の視界に映る状況でそれは、何となく察してはいるんだ。全く……こういうのを引きが良いというのか悪いというのか、悩む所だよ。」
ノマさんが居たたまれない表情で言わんとしてる事は、体躯以前の様子で察した所。いやね?普通のキャメリッシュからしても、想像以上にふてぶてしい表情でぐっちゃぐっちゃと口を鳴らし駆けるそれで、先の冒険で出会った暴れ馬のボジョレーヌとフランソワーズらと、同種な既視感に見舞われたのです。
「いやあ、デカイよねこいつ。飛び乗るのが大変だった(汗)。つか、走りながらこっち見んな。」
「よかったじゃねぇか、気に入られて。まあ直接助けに入ったのはこのメスゴ……のわっ!?」
「あら? テンパロットは気に入られてないみたいね〜〜。てか、王女様もこんな暴君みたいなキャメリッシュは初めて見るんだけど?」
そこに加え、ヒュレイカが乗る分には問題ない……いえ――
別問題でテンパロットには懐いてない感じに、脳裏を掠めた推察が妥当との思考へ辿り着きます。そこで――
「グラサンにサーリャ。駆けながらでいいから、そのキャメリッシュへ近付いてみてくれるかい?」
「は?いや、別に構わねぇが……つて!? こいつ、クレイジー! 今俺様を蹴ろうとしやがったぞ、ファッキン!」
「サーリャは全然へーきサリ? どうしてなのサリ?」
「ああ〜〜……こりゃアレな感じね(汗)。人種か精霊かに関わらず、確実にアレな感じだわ。」
「はぁ〜〜……。全くもってペネの言う通りだね。このキャメリッシュは、正真正銘のオスであると判明したよ。すでに見境なく、女性陣をジロジロ見て来る辺りでそうとは思ったけどね。って私もかこっちっ見んな(汗)。」
「ヒッシッシ!」
「笑い声!?キモチワルっ!」
男性陣をもれなく接触させれば渾身の蹴りが飛び、女性陣へは舐め回す様な視線が飛ぶ。この獣は、どうも年がら年中発情してる様なオス真っ盛りな様だね。ウチの女性陣しか目に入らないと見た。我が部隊としても、珍しいタイプの家族だよ全く。
呆れる私達をあざ笑っているのか、恋黒さんもドン引きする笑い声の様な
画して私達
あれほどの怪獣が相手です。恐らく単体ではすぐに破られるであろうそれも、三属性の力が上手く効果を増幅しあい、なかなかに見事な目眩ましとなっている様だね。
これは使えそうなので、後日部隊全体でさらに効果増幅などの検討も考慮しておこう。
そうして後方の安全を確保した私が一瞥すると、察した皆が駆ける速度を落として通常の旅路へと徐々に移行し、連星太陽の位置と周囲の天候を確認しつつ視線を小高い丘の雑木林へ。
「ミシャリア様、この雲行きならばサバンナ気候特有のアレが来るアル。少し雨宿りをしてから、体力回復が得策アル。」
ノマさんが言わんとしている事は、すでに周囲が急な減光を見たので悟っていました。
サバンナを潤す大自然の恵み……スコールの訪れを。
∫∫∫∫∫∫
が、真理の賢者からした場合はその解釈が当てはまらなかった。
「盛大に降り出したね。ノマさんの機転に加えた、地の精霊術が誇る
「王女様も思ったよ? 確かサイザーが提唱する大自然の摂理からすれば、この地域……本来あるべき姿じゃないんでしょ?」
「流石はリーサ様。その辺りもサイザー殿下から聞き及んでいるとは。では、なぜそれが異常か分かるかい?」
「全然っ!」
「……聞いた私がバカだったよ(汗)。」
齎された自然の異常に対する講釈の中。珍しく博識を発揮したかに思われた
さらに珍しく、
『リド様も、冒険の最中仰っておられましたですキ。この地域は元来温暖湿潤気候にあるはずが……精霊狂騒の影響か、ティー・ワンより南の砂漠地帯よりもさらに先と同じ気候へと変貌していると。』
『乾燥草原特有の草花の中でまばらに生息している、本来の生き方から現在の気候へ順化した、温暖湿潤気候の草花が交じるのがその良い例ですキ。』
「思い出した様にドヤッて来たな、ファッキン。」
「ああ、最近影……薄かったもんなぁ。闇の精霊だけに。」
「薄かったサリ??」
『し、失礼ですキ! 元英雄隊のお付き精霊を、侮辱しないで欲しいですキ!』
ツラツラとうんちくを語る蝙蝠精霊であったが、この
部隊特有の平和が戻った様に笑い出す面々。一方嘆息が絶賛継続中の、真理の賢者が続けて行く。
「今の闇の下り……ティティ様がいたら爆笑ダム決壊で大惨事だよ?全く。シェンの言う通りではあるんだけどね。やはりこのベイルーン・サバンナは、かのギ・アジュラスの大破壊以前は、れっきとした温暖湿潤気候地域だったって事だね。さらに言えば――」
「あのアンギルモアスと言う怪獣は、大破壊以降の精霊狂騒異変に伴い生まれた大自然の異常生物である仮定が成り立つよ。」
降りしきるスコールを睨め付けながら、真理の賢者が紡ぎ出す。賢者が賢者たる所以……真理の名を与えられた身に相応しい、
「サイザー皇子殿下が提唱する自然科学では、サバンナ地帯の気候は熱帯雨林の近隣地域に発生する事象であり、そこから砂漠地帯へと偏移するのが正常との事だ。そしてその気候偏移は、なんと天を煌々と照らすあの、連星太陽の軌道が影響するとされている。即ち――」
「大地が球体であると言う説を元にした、太陽と言う星がこの世界を一周する、と言うのは私達の誤った見方なんだ。殿下の意見はこう――球形のザガディアスと言う大地こそが、あの連星太陽の周りを周回し、その度に球体軸が僅かにブレる事で季節が生まれ、日照時間の長短が発生する。」
語られる想像を絶する解釈へ、今までおバカ主体で来ていた家族達が言葉を失い清聴する中。まるで
「季節、日照時間長短、それらの差が各地域へ相応の環境偏移を呼び起こす。サバンナ、砂漠、温暖湿潤、熱帯雨林などの環境偏移はその結果だ。だが……精霊狂騒は、その大自然が生み出す調和のサイクルさえ乱してしまう。」
「だからこそ私達生命種は、その調和を取り戻すためにも精霊と手を取り、世界均衡を大自然レベルで保つ事こそが……っ!? 何だい!? 人をそんな、ジロジロと!」
「いやな? もう立派な賢者様だなと、思った訳よ。」
「ほんとだね〜〜。なんかこう、こっちまで胸が熱くなるっていうの?」
「……ミーシャ。ちょっとかっこよかったし。まあ、こんな賢者様なのは最初から分かってた訳だけど。」
「最初は敵対してた感じじゃなかった?オリアナさん(汗)。」
「ペネ! そこ、蒸し返さない!」
家族の弄り愛は真理の賢者の頬へ紅潮を呼び、それがネタとなってさらなる笑いが一行を包む。共にある精霊も便乗し、新たに仲間となった
スコール一過を今かと待ちぼうける、
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