Act.16 いろいろ残念商人、パフィリア・クロードリア
「こら待たんか、ミーシャ――」
「ちょっと、何がどうなってるの!?ミーシャ! 」
視線が泳ぐ賢者少女の行動に慌てた、
「久しぶりなのにいきなり背を向けるとは、あなたどういう了見ですの?ミーシャ。」
「ああ、残念だけどね。それは人違い――」
「妹の顔を忘れるもんですか。ですが随分、雰囲気が変わったものですわね。」
「そう、だから人違いなんだよ。離してくれるかい? 姉さん。」
「……思いっきり、姉さんって口にしてるじゃありませんの(汗)。」
真理の賢者背後より、豊満な双丘を押し付ける残念な姉と称された少女。パフィリア・クロードリアは、周囲もそっちのけで姉妹愛を演出していた。
「な、な、何というけしからんお胸かっ!? ミーシャにこんな、素敵にして妖艶なお姉さんがいたなんて! あたしにも紹介を――」
「賢者ナッコーーーーーっっ!! 」
「ぷぎょあーーーーーっっ!!? 」
そこに反応したキモ百合を地で行く
すると己が妹の同伴者にようやく気付いた
「あら? もしやこちらの方々は、ミーシャに同伴する冒険者か何かかしら? これはお恥ずかしい所をお見せしました。身なりからそこそこの武の心得もある一団とお見受けしますが――」
「わたくしの名はパフィリア・クロードリア。ウチの大賢者志望と言う妄想を拗らせている妹が、ご迷惑をおかけしてはないでしょうか。」
そんな挨拶にも笑いが漏れない一行。その要因は言うまでもなく、商人娘の主を貶める様な物言いが影響していた。
ぶっ飛ばされたツインテ騎士は兎も角、そこへ反応した
だが――
そんな険悪な雰囲気を払ったのは
「初めまして、パフィリア様。私はこの、ミシャリア・クロードリア様にいろいろとご協力を
「ここにおられる冒険者方も、私へと協力を惜しまぬ実力者でありますゆえ、言葉には充分お気お付け下さいませ。」
「へっ? あっ!その……大変ご無礼を! まさか妹が、アグネスの王女様と居並んでいるなどとはつゆ知らず! 申し開きもございません!」
それは正しく鶴の一声。旅路の最中、身分を隠しての同行に努めていたお転婆姫であったが……賢者少女身内の言葉が、共にある家族へ不穏を呼ぶ前にと声を上げた。
当然一介の商人が、
己の非礼を詫びる様に、縮こまってしまう商人娘がそこにいた。
∫∫∫∫∫∫
脳内で恐れていた事態との電光石化な邂逅に、危うく頭の中から、今抱えているあらゆる難事が吹き飛んでしまう所だったね。
こちらも出会ってしまったなら、少々姉にも言って置く事もありました。そこで彼女を、時間を開けてディナーへ呼び付ける方向とし……たった今交渉中だったであろう商人の方へと残念姉を追い散らします。
そして――
「いだだだっ!?何すんのミーシャ! 痛い、こめかみは痛いからっ! 王女様もマジ泣きだよっ!? 」
「あなたと言う人は……。あれほど身分を隠せと言ったじゃないのさ。それを私の身内のいざこざ如きでサラリとカミングアウトとは、一体全体どういう腹積もりだい? 」
姫様相手なのでさすがに
私達の活動は、食堂バスターズ以外で目立ってはダメなのです。
ちょっと、言ってて悲しくなったね。私が泣きたい所だよ。
「姉があれだけ恐れ
「く、クレイジーサリ。ミーシャさん強しサリ。」
「……賢者様が、王女様を手篭めにしてるさね(汗)。」
「ここアルね? あの「ウエルカム、イロモノ集団へ」と言う、我が部隊名物の誘い文句の出番は。」
「ちょっと精霊方!? その嫌過ぎる考証はいいから! ミーシャを何とか――」
「「「「「「「ウエルカム、イロモノ集団。」」」」」」」
「みんなでハモるのーーっ!? 王女様、ほんっっとに泣いちゃうよっ!? 」
そうやってお転婆さんを戒めてたら、実体化精霊組の弄りのコンボが炸裂し……まさかの全員ハモりからの、定番挨拶ご登場。
あ、リーサ様がちょっとマジ泣きしてる。もうこの辺でいいかな。
ようやく私のコメカミクラッシュから逃れた姫様は、痛かった所を抑えつつ未だに涙目。けれど……そんな彼女から、少しだけシリアスな空気が流れ初めたのです。
「はぁ……痛かった。フェザリナでもこんなスパルタはなかったよ? でも――」
「名を隠さなければならない旅路で、敢えて名乗りを上げた理由は、ミーシャには分かっておいてもらいたんだよ。」
「……分かった。聞こうじゃないか。」
ようやく落ち着くお転婆姫様。すると次第に、その雰囲気をお転婆な姿から真の王女が纏う空気へと変容させていったのです。
そこで語られたのは――
「私の
「今私がこうしておバカをやれてるのは、ミーシャ……あなたがいたお陰なんだよ? そしてあなたは、今でも私の
高貴にして崇高。かつてザガディアスの中核であり、世界を導いて来たあのアグネス大帝国の末裔にして、現アグネス王国第一王女。そのリーサ様が、私をそっと抱きしめたのです。
「そんなあなたが、例え身内からとは言え
私を腕の中に抱き止め、再び溢れる涙は先のおバカな彼女のものではないのは分かっています。
何ともありがたい事に、私はこんなにも高貴なる存在に大切にして頂けている。私と自身で生み出した新たなる魔導の全てを。さらにそこにいる家族達までもが――
彼女の存在意義を守るお力となっているのです。
「殺させないよ。殺させてなるものか。あなたこそ、この私が幼い時分から磨き上げて来た、精霊と共にあるための御業を認めてくれた魔導王国の代表だ。」
だから私もそんな彼女をしつかりと抱き止めます。彼女が背負った贖罪から来る、想像を絶する重責を少しでも軽くするために。
「あなたはこれから、我ら
「必ずあなたの、膨大な
語る言葉に首肯してくれた王女様。今まで自責の念にかられ続けた彼女の重責が、少しは軽くなったのか……ゆっくり私から離れたその表情は涙を湛えた笑顔。
未だに多くを抱えながらも、乗り越えるとの決意宿した……笑顔。
目にした我が家族たる
本日宿泊するお宿を求めて、森を望む小さな街中へと足を運んだのでした。
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