Act.15 その再開は懐かしく??

 水に火、そして地の精霊の啓示を受けた法規隊ディフェンサー一行は、早めた足で街道を行く。ほどなく彼らの視界を占拠したのは、鬱蒼とした木々に草花が包む空間。


 精霊狂騒ミューリアナ街道の第一の難関とされる〈迷わずの森〉である。


 足を早めた事で、予定以上の時刻に森到達を見た一行。そこで差し込む連星太陽の織り成す木漏れ日が、差し詰め先住系妖精族エルヴィムの故郷とも言える〈高位霊層界エレメティアル・ブレーン〉を彷彿とさせた。


「ふむ、何やら懐かしい雰囲気じゃな。光に満ちる所はまあそれとして……ダークエルフ族としてはこの雰囲気、馴染むモノがあるわい。」


「そうおすなぁ〜〜。確かにリドの故郷の様な、精霊力エレメンティウムに満ち溢れた感がそこかしこに見受けられますえ。」


「ああ、それはペネも同感な感じ。ペネの方は森の云々よりも、大地を覆う力の流れに……て、感じだけど。」


 抜刀妖精ティティはアカツキロウ特有の希少種である霊位妖精ハイエルフ赤き大地ザガディアスに二種族存在すると伝わる高位エルフ族でも、。そのため一行でも光と闇の相違は兎も角、久しい雰囲気へ馴染む英雄妖精リドがまず反応した。

 そして大地の加護と共に生きるドワーフと人種ヒュミアのハーフなオサレドワーフペンネロッタも、口には出さぬが、ドワーフの父 ケンゴロウ・リバンダが生まれた故郷を懐かしむ。


「確かにリドの故郷にも近い感覚だな。まあ、ここまでは精霊力エレメンティウムの大きな乱れもないと見ていいいぜ?賢者ミーシャ。」


「そうさね。精霊力エレメンティウムの流れは水の流れと同じく、高い所から低い所へと落ちていく。そのふもとたるここが安定した状態なら、源泉たる上流の力溜まりは正常と言えるさね。」


「ふむふむ。の下りは、サイザー殿下が提唱する位置エネルギーの法則だね? エネルギーは常に高い所から低い所へ落ち行くが摂理。水流はさらに別の要因が絡むそうだけど、世界の万物はそのことわりには逆らえない。」

「一部それを無き物にする魔導はあるにはあるけど、そもそもそれを展開出来る術師はほんの一握り。世界を支配するのはやはり、物理と銘打たれた法則である。殿下も凄い所に目を付けたものだね。」


「……賢者ミーシャ(汗)。ジーンのダンナなら兎も角、アタイは全くそれ……理解出来ないからね? 」


 輩な水霊ディネの語りに、真理の賢者ミシャリアがかの策謀の皇子サイザー直伝の論理に基づく魔導知識にて論破して行く。しかし如何せんらしからぬ知見を有する風の巨躯ジーンと違い、水霊はその言葉の羅列がチンプンカンプンであった。


 いつぞやは、ニヤリとドヤ顔を見せ付ける。同時にそれが、真理の名を与えられただけの価値を見せ付ける形となる。


 賢者少女へ贈った名が、相応しき物と改めて感嘆を覚えるお転婆姫リーサ。少女のドヤ顔を一瞥するや、進む先々の荘厳が包む森の一本道へと目を向けた。


 並び歩く法規隊ディフェンサー主力に交じる姫。その視線が、道に刻まれた荷馬車の痕跡を目聡く捉えていたのだ。


「んにゃ? こんな辺鄙へんぴな所へ先客かな? ノマさんこの辺りって、ここまで頻繁に冒険者が行き交う所だった? 」


「おや、先客アルか。ふむふむ、たしかに馬の足跡へ荷車の車輪跡が続いているアル。しかしリーサ様、この道は先も話合った通り危険極まる街道……そこを難なく山越え出来るほどの冒険者を、雇うだけも困難アル。頻繁に、と言うのは少々無理ネ。」


「ほんとだ。車輪跡がまだ新しいわ。でもこれ――」


「馬は二頭だろうが……妙だな。」


 お転婆姫が目撃した車輪跡へ、泣き上戸精霊ノマが答える。それに反応した一行でも直感に優れた二人が続き……そこに見えた違和感を口にしていた。


「……二頭の馬に引かれた荷車。けど? 車輪幅からみても小型のものだ。山越えの荷を馬に積めば、旅人も複数乗馬は難しいだろう。馬にそれぞれ一人と考えて――」


 不穏がすでに山積みな法規隊ディフェンサー一行は、そこへ上乗せされる難事到来を警戒する。



 しかし直後、真理の賢者も目を覆いたくなる降りかかる事となったのだ。



∫∫∫∫∫∫



 進む森の光景に懐かしさがこみ上げる我が家族の一部。それを現実に引き戻したのは、リーサ様が気付いた街道に刻まれる先客の痕跡でした。


 サイザー皇子殿下から聞いてはいました。この姫様は、ウチのテンパロットやヒュレイカの直感を越える危機察知能力を持っていると。そこはちょっと御見逸れしてしまったのだけど、ならばせめてその直感で、後先考えずに事件へ首を突っ込むのだけは勘弁願いたい所だ。


 などと口に出さない様に……、伏せた私は拾われた不穏に警戒を以って街道を進みます。


 言うに及ばず我が法規隊ディフェンサー面々は、生命種と精霊種共に高い警戒体勢のまま進んでくれます。けど警戒してるはずのお顔が、後で苦情を申し立てて置こう。


 誰もそんなおバカ丸出し顔で、正体を偽れとは言ってないからね? お笑い護衛団と言う、過去の嫌なトラウマが浮かんでくるじゃないか。


「そろそろ日も暮れて来た感じ? 」


「なの。手合わせ分の時間ロスは、早めた歩調で相殺出来た……上出来なの。」


「けど付かず離れずで、酔いっぱさん?達は着いてきてるわね。」


 そんなこんなの旅路は、夕暮れ時に最初のお宿がある辺境の村に辿り着く算段。ペネにフレード君の意見には同感だね。その算段が狂わず一安心。

 けどオリアナも気になる酔いっぱさんの行動は、色々想定外なので注意だ。


 この一帯は冒険者が歩む速度に合わせた様に、街道沿いへお宿に土産屋……さらには旅に欠かせぬ物資を売り出す商店が並ぶ事で知られます。


 ひとえにそれは、商人が冒険者を相手取り商売するための戦略。買い手の動向を注意深く見定め、そこへ必要なモノを必要な時に提供する、商人が商人たる所以ゆえんに他なりませんでした。


 それこそこの我らの様な一団は、正しくカネのなる木に違いありません。上手く言いくるめられれば、ウチは。なにせウチは


「ファッキン。この辺りから人目が増えるぜ。俺達はどうすりゃいい? 」


「問題ないアル。この界隈かいわいはむしろ、精霊が寄り添う一団の方が信頼も厚いアル。その分、あらゆる買い物での割引きにも繋がるネ。」


「凄いサリ! ノマさん、流石は商人の鏡サリ! さりげなく、こーりょしてくれてるサリ! 」


「そうだね、サーリャ。私達はお金には苦しむ冒険者だ。ノマさんの助言はありがたい所だよ。」


「出たね万年借金ぼうけ――」


「輩ネェさんは黙ってるといいよっ!! 」


「アタイが言うのはダメなのかいっ!? 」


 ノマさんのありがたい助言にサーリャの自虐。うん、サーリャの自虐は、その後の


 背後で私と精霊達との定番なやり取りに、ケタケタ笑い転げる生命種達を引き連れ、視界に映る夕闇と化した街道を仄かに照らす精霊光を見やる私。そのまさに直線上を見据えた私は――


「さあ皆、この道は行き止まりだ。他の道を行こう。」


 と、唐突に訳の解らない発言を零して振り向き、我が家族達から怪訝な視線を送られたのですが……嫌な事に、その視界で捉えたくない現実を捉えてしまったのです。


 直後、私が全否定したくなる様な声が、先に視界に入れた辺りから響く事となってしまうのでした。


「えっ!? あなたミーシャではありません事!? ミーシャ、なぜこの様な所へ……あなたてっきり、賢者見習いなんて夢を見ながら、まだアグネス界隈に入り浸っているものと――あいたっ! 」


「うん、聞こえないね。私には全くもってこれっぽっちも、。」


 声の主は、オサレな裾の長い乾燥地帯の民族衣装に身を包み、ちょっと不安な目利きで手に入れたであろう怪しい装飾をこれでもかと身に纏う……少女。体躯も私から少しだけ大きく、そして――少女。


「……まさか、ミーシャ。あれがあなたのおねえ――」


「聞こえないからねっ!? リーサ様も、人聞きの悪い事を言わないでくれるかいっ!? 」


 大切な家族たるしーちゃんばかり残念とは言えない事に、……そしておめかしで着込んだ長い衣服の裾を姿

 パフィリア・クロードリアその人が、私の眼前でまさに商人相手の交渉の最中だったのです。


 て言うか、馬車に荷車の正体が秒で判明したよ。



 そんな事態に項垂うなだれる私を他所に、テンパロットだけは未だ鋭い視線で周囲を睨め付けている夕暮れ時なのでした。

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