Act.17 ティー・ワン、五方守護聖獣伝承
湿り気を帯びた風が木々を揺らし、
その森から
「先日は多くの水流が街周囲をなめ尽くした。今地の精霊達から聞いた話では、次にそれを受ければ地盤もただではすまぬと。」
「そうだな。あの水流量は異常であった。よく街の生命種らは無事であったと言いたいが……次にそれを上回る水流が襲えば、民は街ごと水流に飲まれるぞ? 」
精霊達は何れも、生命種の言葉を解する自我を有する者達であろう。それが渓谷崖上から直下の渓流を見下ろしていた。
渓谷を流れる川は流れも早く、崖より下を流れ行く。が――その周囲には、渓流の嵩を遥かに上回る位置に流れ着いた草木が絡みついていた。それも周囲の渓谷を埋め尽くす程の量が、である。さらにそこへ流れ込む滝が、渓流へ一層強い流れを齎していた。
傍目から見ても、その光景は日を
その言葉の端に神々しき存在の名を塗して。
「弱まる
歯噛みする精霊の御姿は、
巨大な亀甲模様の体躯から延びる、畝る川の如き首とヒレを持つ姿の描かれた壁画の元へ。
「
「……ミズチ様、もはや我らに打つ手はないのでしょうか。」
「打つ手など……。聖獣様が顕現せぬ理由は一つ、生命種と精霊種との共存均衡が崩れた成れの果てだ。それこそ六大精霊さえも味方に付ける事叶う、生命種の希望でも現れねば全ては絶望の中だ。」
ミズチと呼ばれた精霊は肩を落とし、絶望が這い寄る今後を憂い双眸を閉じた。
そんな地方精霊の想いを他所に、暗雲は再び天よりの瀑流を齎さんと刻一刻と忍び寄っていたのだ。
∫∫∫∫∫∫
お宿を求め、森の街道沿い街を散策する私達。幸いにもここが、大所帯の冒険者を受け入れるのに特化したお宿が多いのは嬉しい限りですが、人型を取る精霊達を頭数に入れての宿泊は大人数となりすぎるため――
「今回はまた二手に部隊を分けようと思う。アーレスやアグネスほど精霊に抵抗のない地域な事も踏まえ、グラサンとノマさん、そしてディネさんとサーリャを生命種組それぞれに分けるけど――」
「そちら親子に異存はないね? ないだろう? ないと言うんだ。」
「なんで否定の余地がないんだよ、ファッキン(汗)。」
「サーリャはぜんぜんいいサリっ! もう
「よし、決定だ! 」
「俺様の意見は聞かねぇのかよっ!? 」
多くの制限がない場合は、男女を別にする算段で動く事にしています。それは当然精霊種に一応存在する男女の性別を参照にした物。外見上とは言え、傍目でもそれは考慮すべき事案でもあります。まあウチには、少年なのか少女なのか区別しようがない男の娘君も混じってる訳ですが。
お宿へ精霊が泊まるのは休息が必要と言う訳ではなく、ノマさんの意見に乗じた精霊と親しい間柄な点をアピールする作戦なのです。
てな訳で、生命種側男性陣へテンパロットにリド卿とフレード君を、そして私にリーサ様を初めとする女性陣にはヒュレイカ、オリアナ、ペネ、ティティ卿と……。何だか比率が女性側へ偏ってる様な気がしないでもないですが、そこへ精霊種を分けて別お宿へと配する手はずです。
同じ宿の別部屋ではなく別宿へ分けたのは、情報収集面の幅を広げるためでもありました。
「んじゃ、俺らはこの道沿いすぐの宿で冒険者関連を中心に当たるのでいいんだな? 」
「そうだね。私は姉とのディナーもあるけど、リーサ様の
「んじゃあたし達はこの崖に近い付近のお宿で、カクウさん絡みと……ああ、あとティーガーさんだっけ? あちらの探し人の件を、聞き込みって訳ね? 」
「その方向で頼むよ。カクウさんの件は、私達の依頼へ直接絡む事例だけど、虎コロさんの件調査は今後彼が絡んでこない様にするための保健と言った所だ。」
恒例のバスターも、テンパロットとヒュレイカが分かれてるため不安は幾分減る訳ですが、正直リーサ様の
そうして提案通り各々のお宿へ散る男性陣に女性陣。ご隠居とペネをまとめ役に配した私は、リーサ様を引き連れ別案件へと向かいます。
それはリーサ様の
「にしてもお姉さん、凄いカッコしてたわねぇ〜〜。他人の身内を相手にアレだけど。」
「気にする事はないさ。リーサ様程の身分の方なら、如何にあの人の目利きが怪しいかを理解出来るだろう? けど本人は、自分の目利きに狂い無しとの勢いで、確実に衣服とちぐはぐな装飾でゴテゴテ着飾るのさ。」
「結果、見るも無残な残念商人の完成と言う訳だ。服のセンスは悪くはないのに、装飾選びで失敗する実に残念無念な――」
と、リーサ様より我が身内への鋭いお指摘が飛んだため、何か久しい姉のダメな点討論会を開きそうになった私。そんな私をじっと見ながら、ニヤニヤする姫殿下が視界を占拠したのです。
「ミーシャ……。いろんな事言ってるけど、実はお姉さんの事……大好きでしょ? 王女様は騙せないわよ? 」
「んなっ……!? そんな事は、ある訳は――その……まあ、嫌いではないよ。」
まさかの図星を突かれた事態でパニクる私、けれど、否定できない自分もいた訳で。語尾をゴニョらせながら視線を泳がせてしまったのです。
ニヤニヤと、弄るネタを見つけた姫殿下はプニプニと頬をつつき、そのせいでさらに視線を泳がせる私は程なく目的の商店前へと辿り着きます。そこでここいらなら狂騒の影響も少ないだろうと、霊銀反応確認のためとあちらへ帰ってる部隊身内な残念さんを呼び寄せます。
『
随分久しぶりな、
いつもなら無駄に元気な登場で賑わせてくれるしーちゃんが、何やら
「なんだい?しーちゃん具合でも悪いのかい? 」
「……なんでもあらへん。ミーシャはんがリーサ様とばっかり仲がええとか、そんな事には全然これっぽっちも、嫉妬やんか抱いてへんわ……。」
「寂しかったのか(汗)。それは悪かったよ。」
「嫉妬やんかしてへんて、ゆーてんねん! 」
ちょっと逆ギレツッコミが炸裂した残念精霊さん。まさかの本当に不貞腐れてるとは思いませんでした。精霊狂騒の影響を考慮して精霊顕現を遠慮してもらってた所でしたが、ちょっと罪悪感が生まれてしまったね。
けれどそんな姿に自分を重ねてしまった私。何の事はない、私もしーちゃんと似た者同士だったのです。
「ちょうどいい。しーちゃんには、リーサ様のために必要な魔導器製作用の霊銀商品の確認をお願いしたかったんだけど……それを商店で探す間に、聞いてほしい事がある。まあ――」
「他でもないあの、残念無念な私の姉さんの事だんだけどね。構わないかい?しーちゃん。」
「しゃ、しゃーないなぁ! ミーシャはんがそこまで言うんやったら、ウチもこのお耳を貸してあげん事もないでっ! 」
「……ふふ。似た者同士だね、二人共。王女様は安心したよ。」
そんな所まで図星を指して来る侮れない姫殿下と共に、商店の扉を
まだ私が、姉さんや両親と仲睦まじく過ごしていた、遠い日々を思い起こす様に。
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