Act.13 虎の青年は、主想いて修羅と化す
幼き頃からタイーニャ様は明朗快活で、獣人族のアイドルであった。そんなお嬢様の護衛を
「オクスタニア王国は、多種多様な獣人全てを受け入れる国ぞ。その中で族長の座を得られる者は限られる。全ての獣人族と心を通わせ、想いを繋げられるタイーニャこそが次期族長に相応しき存在――」
「ティーガー・ヴァングラムよ。見事そのタイーニャを守る命を果たして見せよ。」
「ははっ、我がオクスタニア族長……フォームゲイル・マーム・ルーンベルム・シュタルガート・ロイツェルン様。その様に取り計らって見せます。」
大地の上位精霊たるベヒーモス様の霊的血統を継ぐ我らだけなのだ。
それが、我とした事が……不覚にもあの奴隷商人にお嬢様を奪われてしまった。
「――なのだ、私は。このままではダメなのだ。主を守れずして何が護衛か。信頼している? バカな事を……それで主を攫われては、元も子もないではないかっ! 」
眼前の者達がどれほどの実力を秘めた存在かは知らぬ。知らぬがこれだけは言える。
我はこの者達の、足元にさえも及ばないと言う事だ。
∫∫∫∫∫∫
「このままではダメなのだっっ!! 」
「って、オイ!ティーガーさんよ――」
「何が一体どうなってるんだい!? 」
突如膨れ上がる闘志は確かに強大。しかし暗き深淵へ向けて突き進まんとする、青年の姿が一行の視界を占拠する。憎悪ではない……自責の念と、折れる事を知らぬバカ正直な誠実さで、進むべきではない流れに身を任せる様に。
それを感じた
彼女はかつて仲間が味わっていた、苦しみに悲しみ……そのために己の命さえ問わない慈愛の化身。
ゆえにそれが、あってはならない事態を引き寄せてしまう。
「ミーシャ! 」
「ダメじゃ、今そやつに手を出しては! 」
一行から悲痛の咆哮が上がるも距離がありすぎ、挟撃から身を
が……その窮地の最中へ、颯爽と舞う影がいた。
「あいやー……それはダメあるね。そんな暴力と違わぬ妄襲では、主を守り抜く事なんて出来ないアル。ちとアナタは頭を冷やすネ。」
真理の賢者へ手を添える様に退避させ、鉤爪を二本の指のみで抑え込んでしまったのは……
その見た目からは想像さえ付かぬ、膨大な闘気の本流を察した英雄夫婦が言葉を漏らす。
「……なるほど。あのマーとう言う偽名は、それを隠すためであったのか。」
「ほんまその真名は、かのアカツキロウにさえ轟いとりますえ? せやけど姿を誰も、見た事あらへん言うて……。」
事態に胸を撫で下ろした狂犬も、二人の言葉で合点がいったように嘆息した。
「マジかよ……。あんたはただの酔っ払いだったんじゃねぇのか?拳聖さんよ。」
「あいやー(汗)、ただの酔っ払いとは失礼アルね。これでもちゃんとした酔っ払いアル。」
「ちゃんとした酔っぱらいってなんだよ……。」
未だ酔いどれ警兵が放さぬ鉤爪。そのせいで虎人青年は身動きさえ取れない。否――そうなる様に、警兵が力の向きと加減を駆使して仕向けているのだ。
眼前の攻防を、達人級の御業と見抜いた真理の賢者もジト目と共にお言葉を、酔いどれから一転した警兵へ返納する事とした。
「土壇場で隠した力を見せる分には、私達も常套手段だから敢えて不問としよう。しかしだよ……まさかどこぞのアウタークな騎士を、越える驚きを叩き付けて来るとはね。この酔いっぱさん。」
「……何か助けたはずが、罵られてる気がするのは気の所為アルか? 」
突如として巻き起こった、唐突な腕試しと言う珍事もほどなく終焉を迎える。
冒険に向けた買い出しに、会議を済ませ……時は連星太陽が頭上に差し掛からんとする頃の事である。
∫∫∫∫∫∫
自分で口にした通りの、アウタークなディクター氏を越える驚愕。それはもう見事に
今回はそう、事が単純ではありませんでした。
「なぜ邪魔立てした。これは我と賢者一行の腕試し――」
「なぜもないアルね。ミシャリア卿率いる
「従って、過ぎたる私情絡みで彼女を傷付けるのを
何が単純でないかって、この眼の前の一難去ってまた一難です。なぜに今、仲裁に入ったはずのマーさんとティーガー氏が一触即発なのかをお教え願いたい所。これ私が仲裁に入らなければならない構図なのかい。
腑に落ちないったらないよ、全く。
「ああ……まあ二人共落ち着くんだ。て言うか酔いっぱさん、あなた仲裁に入った立場だろう? そこで殺気を混ぜて、ケンカをふっかけるのは如何なものかと。 それにティーガー氏――」
「どの道このマーさんに着いて、旅に同行するんだろう? 先々で手合わせならいくらでも応じるから、今みたいに力の行く先だけは見失わないと約束してくれるかい? 」
「……国家の依頼を
「心得た。私も
兎に角双方が引っ込める言い分を準備し、それぞれが闘気に殺気を抑えてくれた頃を見計らい――
「ただティーガー氏との手合わせは、私が傷付いた時点で酔いっぱさんのお顔にドロを塗ってしまうから……そこは適したタイミングでウチの護衛、
「この御仁の監視下では、こちらとしてもそれが関の山。いいだろう。」
虎コロさんの意見を確認しつつ、その補佐をしているであろう石の精霊へも注釈を添えて置こうか。
「加えて、石の精霊……確かロックタイトさんだったね? そちらは精霊と共に戦うスタイルの様だから、ウチの仲間達も訓練を兼ねて精霊と共に戦う点を了承願うよ。皆、即興戦術は得意分野だけどね――」
「今後を踏まえれば、それだけでは立ち行かぬ旅路を想定している。構わないかい? 」
『いいだろう! 主が了承するなら、この石の精霊ロックタイトも了承である! 意思は固いぞ!?石だけに! 』
うん。今ちゃんと精霊の了承も受け付けたね。何やら私の聴覚へ突き刺さった、突っ込んではいけない言葉の羅列には聞こえないフリを――
「ぶふっ……!? い、いい……石だけに……意思が固い……ぷくくくっ!! 」
「……ティティ様。今ので笑えるんだ。王女様もドン引きだよ(汗)。」
「ティティ……もう好きにせい……。」
しまった……ティティ卿にクリーンヒットしてしまった……。何かこう、そこはかとなく虚しさが湧いて来たね。
嫌な汗で微妙な空気の一行の中、ドン引くリーサ様に打つ手なしと項垂れたご隠居。正しく私達は、まともな意思を持った精霊に出会えない宿命を感じ……視界に映る精霊種側の仲間を見ながら嘆息したのです。
「うぉいっ!?賢者ミーシャ! 今俺様を見やがったなっ、ファッキン! 」
「ああ、そのついでにアタイも視野に入れたね?あんた。」
「いや〜〜変わり者ばかりで、ミーシャはんも難儀やな〜〜。」
「「あんたが一番変わってる。」」
「なんやてっっ!!? 」
そんな視界の先で怒髪天な熱い蜥蜴親父に、輩丸出し姐さんと……姿を隠してればいいのにわざわざ突っ込まれに出て来たしーちゃんと。
ほんとに、おもしろおかしい仲間たちだと改めて嘆息した私でした。
突然の腕試しと言う珍事を潜り抜けた私達
私を筆頭に、今回の冒険ではある意味重要どころなリーサ姫殿下。長き付き合いのアーレス帝国の誇る二人の護衛、テンパロットにヒュレイカ。そして旅の最中、我が隊へ正式に組み込まれたオリアナ、フレード君、ペネ、元伝説の
そんな私達と共にある精霊種の仲間。しーちゃん、ジーンさん、グラサン、サーリャ……シェンにディネさんに、ノマさんとウィスパ。加えてティティ卿と常にあるサイクリアと――
六大精霊プラスアルファの手を取る私達は、かつてを越える程の大所帯。その手を取りこれより南へと。
熱砂舞う灼熱のミューリアナ街道〈ジュエルドロード〉の道のりを……――
「……誰だい?今お腹を盛大にならした人は……。」
「だ……だってもうお昼時よっ!? お腹もすくでしょう!? 」
……鳴り響いた盛大なお腹の音の主を見やる私。全くもって前途多難な道のりだと嘆息しつつ、一行を引き連れる様に私は歩き出したのです。
渋々携帯食をオリアナに渡すペネと、ケタケタ笑い転げる家族達を尻目に――
∽∽∽ ミューリアナ街道沿いの街〜
被害――食堂内テーブルセット
借金――あわや開幕で自爆する所を依頼要求で免れた!?
(しかし重なる借金は一向に減る動きなし!)
∽∽ 新たな冒険も、借金状況は据え置き!マジか!? ∽∽
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