Act.11 いざ、南へ……の前の一悶着
私達はこれよりウォーティア大陸を縦断するミューリアナ街道を南下して行きます。
事前の準備として、街道で最初に通る迷わずの森からモルゼルーゼ山脈を経由した先の、風の谷までに入用の物資を調達した訳ですが――
「これだけの荷物でも、迷わずの森を抜けるにはギリギリかな。それ以降は山脈を抜けてから準備する必要があるのだけど……問題は足、だね。」
「だな。暴れ馬ーズ達は山脈を越えた後……いや?山脈越え前に、山奥の街にある商用馬預かり所で分かれる方がいいだろう。その先はティー・ワンまで乾燥地帯が延々続く、南方でも最も過酷な道のりだ。」
「山脈を越えた場所なら、
テンパロットにノマさんの発言通り、私達はそこで一旦ボージェとフランと言う仲間達と暫しのお別れです。ただ乗り捨てるならば馬達での砂漠越え選択もあるのでしょうが……そんな馬鹿げた行為は言語道断だからね。
この暴れ馬ーズは、もはや戦友と言っても過言ではないのですから。
集合場所はお宿の客目も届かない草原地帯。なので精霊達も、一時的に実体化しての参集です。しかしこの先は精霊狂騒地帯……体躯が
「んじゃ、足はその地方で用立てるとしてだ。一行の道案内がいるんじゃねぇか?ファッキン。」
「サーリャ達の出番サリ! 」
「そうな感じね。今あの迷わずの森は、地域精霊の加護も怪しい状況。いつ迷わずが、迷いの牙を向くか分からない感じだわ。」
「あと、アタイも気になってるんだけどね。あの森上空の雲行きが一向に晴れない所から、天候変化だったかい? それが常態化してる恐れを考慮する必要もあるさね。」
精霊種の中でも人との関わりが長いメンツであるグラサンとサーリャ親子、ノマさん、ディネさんは
ああ、サーリャは当然癒やし担当……趣味嗜好の問題ではなく、炎の精霊術的な癒やしと言う真っ当な理由だけどね。
「天候急変や適時環境把握には、グラサン、輩姐さん、ノマさんに依頼するよ。」
「……アタイはやっぱり輩呼びかい(汗)。」
「話の腰を折らないでくれるかい?姐さん。そこで少しこれからの冒険での、ある意味重要な対策を講じるつもりなんだから。ティティ卿、サイクリアを呼んで貰えるかい? 」
「ああ、なるほど……そう言う事おすな。サイはん、かまいまへんか? 」
『キヒヒ。久方振りの半霊体化だな。賢者ミーシャ……詰まる所、我への精霊狂騒干渉防止の手立てと言う事であろう? 』
「話が早いねサイクリア。その通りさ。」
輩呼びに反応した姐さんをジト目で制しつつ、重要事項となる彼……狂気の精霊サイクリアの狂騒干渉防止策のため本人を呼び出します。
かつてあのモンテスタ導師が掛けた呪い付けで、ティティ卿と共に絶望の日々を送らざるを得なかった彼。言うに及ばず、いつもはティティ卿の精神下で存在しますが、彼も紛うことなき精霊です。さらにかつての呪いを払ったとはいえ、狂騒の干渉をダイレクトに受ける事を考慮しなければなりません。
「ティティ卿が狂気の権化と化したら、止めるのも
「そうそう。あんな剣豪の一撃を、加減なしの問答無用で受けたあたしが言うんだから間違いないわ。」
「そういえば、ティティ様を
「いややわ〜〜。そんな褒めんといておくれやす〜〜。」
「ティティよ……(汗)。今のを賛美と取るのはどうかと思うがのぅ……。」
とまあ、天然さんが炸裂したティティ卿と、そんな光景に感慨深さを覚えるサイクリアを労ってこその案でもある訳で。術式を込めたばかりの、ペネ印のドワーフ銀装飾腕輪を卿へと渡します。
「これは精霊狂騒干渉を防ぐと共に、ティティ卿へサイクリアを常時装填させる魔法具だ。ペネ製なので、装飾としての価値も一級品……まさにティティ卿にお似合いの品さ。」
遥かに望む森とその背後……視界を縦断する山脈空模様を睨め付けつつ、私は冒険の備えを思考錯誤していたのです。
∫∫∫∫∫∫
出立準備の整った
彼らが並び立った頃合い、カクウ首魁は警兵へと言葉を投げた。
「マー・ロン。立つならば、ウチの若集を二人ほど連れて行け。一人は隠密で動く草…… 一人は南方大陸を熟知したベテランだ。足手纏いにはならんだろう。どの道俺が動けぬ以上、南で好き勝手振る舞う愚かな同胞の愚行を見定める者を向かわせねばならん。」
「あいやー(汗)。それ、食費に旅費はこちら持ち言う事アルか? 私も懐事情は寒々ネ。」
「その様な、器の小さな事を言うつもりはない。そこをいちいち気にするな。」
並ぶ光と闇を生きるそれぞれは、やはり腐れ縁の様なやり取りに終始する。横目でそんな二人を見極めんとする虎人青年は、別の案件で思案していた。
「(ここであの奴隷商人を見つけられなかったとなれば、このカクウとやらの内輪揉めに関わっている可能性もありうる。なれば私一人で戦うは荷が重い。私は戦い一辺倒ゆえ、策を弄されればタイーニャ様を本当に失ってしまうやも知れぬ。)」
「あいや待たれよ、
突如の咆哮で、何事と虎人青年を見やる腐れ縁の二人。それは声を掛けられた
「――とか言ってんだけど? ミーシャ。どうするの? 」
「天候変化も鑑みれば……少しぐらいは猶予もある、の。」
荷車を引く暴れ馬ーズの手綱を取りながら、
「流れとしては、嫌な雰囲気じゃな。」
「そうな感じね。確かどっかのオジジも、同じ事ふっかけてたって聞いた感じよ? 」
「ぐぬぬ、おのれペンネロッタよ。今明らさまにジジイ扱いしておるのは、お主だけじゃからの。」
一行に
「あ……何か思い出した。確かジイ様がふっかけて来た奴ね。」
「今でも不覚としか言いようがねぇぜ、ジジィに晒したあのアホウ面。」
「あん時のじっちゃまのアレね。て言うか、あんたはそこへ不覚を覚えるの?この切り裂きストーカー。」
「シェンさんが突然でかくなって……思い出したら、ボクも不覚を取ってたの。オジイちゃん遭遇戦での未熟なの……。」
「うん、ジイ様。ちょっと皆に、変なトラウマ植え付けないでくれるかい? 」
「ここでようやく、お主ら揃ってジジィ扱いか! よーく分かったわ、このイロモノ集団がっ! 」
「……リド(汗)。ここは笑えん所おすなぁ。」
そして定番となる一行総出の英雄妖精ジジィ弄りに、
だが――
「私はこれよりあなた方
まさかまさかの虎人青年、法規隊全力のボケを殺してくると言う天然が炸裂した。クソ真面目を地で行く青年には、一行が誇るボケの応酬さえもスルー出来る能力が備わっていたのだ。
「いやぁ……私達のボケとツッコミに乗って来ない人は初めてだよ(汗)。どうしてくれるんだい?この寒い空気を。」
「おかしな事を! ここはそこまで温度の低下は見られぬ地域……病気でも召されたか!? ならば決闘する者を人選しても構わぬ! 」
「……徹底的にボケを殺して来たね。これは初めての経験だよ、全く……。」
続く言葉の応酬は、それこそ真理の賢者の言葉など聞こえていないかの宣言。さしもの賢者少女も盛大に項垂れた。そこで脳裏に浮かんだ、先の出会いで全く話を聞かなかった前例でもある、
「……このまま放置すれば、旅路最中の緊急時にさえ戦闘をふっかけて来そうな勢いだね。いいだろう! 君が望むと言うなら、私を中心にメンツを選んでお相手するとしよう! 」
不承不承ではあるも難曲を乗り切るため、己と仲間選抜の上での手合わせに応じると返答を送る。
それが少しだけ相手を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます