Act.10 進む先、包む迷わずの樹海

 法規隊ディフェンサー一行は、精霊狂騒ミューリアナ街道を渡るための準備を進めていく。


 カクウ首魁ワンが料理長を努めた合同食堂チイ・シャン・ポウから南へ延びるその道は、整備され行き違う旅人も容易に道を進める広さを持つ。だが、その先数十kmクメト進めば鬱蒼と茂る密林が視界を埋め尽くし、さらにその先には険しき山脈が東西へ割れる様にそびえ立つ。


 その山脈までの道のりが、精霊狂騒街道の第一の難関〈迷わずの森〉である。


「いやぁ……あれは度肝を抜かれたな。」


「……抜かれたわねぇ〜〜。」


「ミシャリアに、いたのには……ボクも、驚愕でメイスを思わず落としてしまったの。」


「ここぞとばかりに君達は(汗)。兄弟姉妹は、人によっては普通いるものだろう。どれだけ私を弄れば気が済むんだい?全く。」


 一行は砂漠超えの前に立ちはだかる〈迷わずの森〉突破に向けた物品調達とし――

 武器に防具と戦闘に関わる品々と、局地装備担当として狂犬テンパロットツインテ騎士ヒュレイカフワフワ神官フレード真理の賢者ミシャリアお転婆姫リーサに付き従った。さらに局地生活物資と食料買付け側へ英雄妖精リド抜刀妖精ティティ白黒令嬢オリアナオサレドワーフペンネロッタが担当として別行動を取る。


 総じて、武器兵装担当と生活物資担当へと分かれた形である。


 先のお宿の集落レベルな雰囲気がそのまま続く商店街。見た目は閑散もんさんとした空気であるが、一歩商店へと踏み入れば活気のある店員の声が響く様子は、一行へ一つの知見を閃かせた。


「それは置いといてだね……この街よく見れば、ほとんどを占めている気がするんだけど。二人はどう思う? 」


「まあそうだな。雰囲気は至って普通の長閑のどかな田舎人を演じてはいるが、そこかしこに。」


「よね〜〜。差し詰めあのワンさんが睨みを利かす……っていうよりも、ここにいる皆がワンさんを慕ってるっぽい感じね〜〜。だからその首魁さんが信を置いた私達に、敵対しないってとこかな〜〜。」


「ふぅ〜〜ん。テンパロットもヒュレイカも、見る所はちゃんと見てるのね。ジェシカに報告しとこ。」


「「それは勘弁願います、リーサ様(汗)。」」


 真理の賢者の振りへ鋭い観察眼で応じる狂犬と、一行でも危機回避能力がずば抜けて高いツインテ騎士の直感は、主も抱いた解を容易く導き出す。法規隊ディフェンサーと言う部隊はまず、この三人が中核となる部隊であるとの事実がそこにあった。


「ではそんな友好的な皆さんへの、信の証として……早速買い出しを始めるの。」


「おや? 珍しくフレード君が仕切るね。何か気になるものでもあるのかい? 」


「そういう訳では、ないの。何かこう……今まではとても慌ただしい任務で、法規隊ディフェンサーに属している感を実感できない時があったの。でも今ボクは、最初から部隊に属し……冒険出来る事がとても嬉しい、なの。」


「「ブフォアッッ!! 」」


「すわっ!? なんでここで鼻血なの!? 」


「またか、ちくしょうっ!? フレード!その雰囲気での不意打ちは、!? 少し慎め! 」


「……テトお兄ちゃん、言ってる意味がよく分からないの(汗)。」


 部隊に属する感慨深さに浸る神官少年であったが……、お転婆姫がドン引き狂犬が苦情を呈した。一行の色に染まり初めていた少年も、狂犬の言葉には流石に引きまくる。


 、さしもの商店主らも冷めた目で見やる中――



 生活物資及び食料買い出し組はかどらぬ時間を過ごしていた。



∫∫∫∫∫∫



「あっ、これいい! ねえペネ、これも買って――」


「おバカな感じ!? あのねオリアナさん、あの迷わずの森を抜ける前に、そんなに食料を買い込む訳にはいかない感じよ! 砂漠地帯に必要な物資は、その直前で買う感じ! でないと多量の積荷が邪魔をして、万一の時の足枷になる感じだわ! 」


「……ちゅう事は、これもアカンいう事おすか? 」


「……ティティ様(汗)。、一体何に使う感じですか? オジジ!ちゃんとティティ様の手綱は、握っておいて欲しい感じだわ! 」


「ぐぬぬ。ここ最近のお主、ワシをただのジジィとしか扱っておらんではないか。これではケンゴロウも――」


「パパは関係ない感じ!? 」


 生活物資買い出し担組で小さな母ロリオカン属性を遺憾なく発揮するオサレドワーフであったが、そこへ配されたさしもの彼女も手を焼かされていた。白黒令嬢は言うに及ばず――ここに来て抜刀妖精がかつて勇敢なる英雄隊ブレイブ・アドベンチャラー時代、如何に周りに頼り切りの名家令嬢であったかが浮き彫りとなってしまった。


 結果、英雄妖精がその尻拭いをさせられる羽目と相成った。


 もはや。一行らしいその光景は、直後のお登り令嬢が発した質問から少しばかり色を変えて行く事となる。


「冒険にお荷物なら仕方ないわね……。ところで恥を偲んでペネに聞きたいのだけれど、これから抜けるのは森で間違いないのよね?、ではなく。」


「あら、オリアナさんもそこにはちゃんと気付けた感じね。そうな感じ……そもそも、わざわざ迷わずとか名前は要らない感じだけど――」

「そういう場合は、ちゃんとが存在する感じだわ。」


 露天商に並ぶ必要最小限の食料を見繕いつつ、白黒令嬢の問いへ返すオサレドワーフはドヤ顔で知り得る情報を語って行く。お登りがお登りのままでは今後もないと、英雄妖精に抜刀妖精も敢えて口をつぐみ少女のドヤ顔を尊重していた。


「まずはこれから向かうミューリアナ街道が、精霊狂騒地帯な点を踏まえて考える感じね。ペネもアーレスがある大陸意外はいろいろお初ではあったけど、帝国に隣接する地域の情報は商人づてで知っている感じ。」

「そこで聞き及んだ限りでは、あの北アヴェンスレイナが擁する迷いの森で霊大樹セフィロティアの加護があった様に、地域精霊に守護された聖域であり……その加護が強く及んでいるからこそ迷わない、と言うのがその名を冠される理由な感じね。」


「そっか……。ティティ様を助けた時の森は、霊大樹セフィロティアが力を行使できなく……あ、ティティ様!? その……悪気があった訳じゃ――」


 ドヤ顔少女の回答へ、先の冒険を思い出し零した白黒令嬢であったが……その折の霊大樹セフィロティア機能不全は抜刀妖精を襲った悲劇そのものである。令嬢はすぐさま、卿に対する配慮を欠如した物言いと思い至り、笑顔で聞き入る当事者へと謝罪を向けた。


「ふふ……何をいまさら謝る事がありますの? オリリン――違いますな。オリアナはんが法規隊ディフェンサーとして、ウチとサイはんを呪い付けから開放してくれたんおすえ。過去は過去……今はもう懐かしい思い出おす。」


 抜刀妖精とて法規隊ディフェンサーに救われた身空。改めて令嬢の真名を正しく呼び直し、謝意を贈る彼女の姿はまさしく英雄隊に属した剣の巫女ソード・シスター。そんなやり取りを一瞥したオサレドワーフは、迷わずの森の話へと戻して行く。


「地域精霊の加護。それがある故に森を抜ける街道も迷わず進める。けれど近年暴走する精霊力エレメンティウムの乱れが、あの地域へ劇的な天候変化を呼んでいる……と、つい最近聞き及んだ感じね。」


「劇的な……天候変化? 」


「そう……。一昔前なら、精霊の祟りなどと突き放され手が付けられなかった事象。けれどサイザー皇子殿下が提訴する、魔導科学上の知見で言うなら……あれはな感じね。


 そう語ったオサレドワーフは僅かに視線を落とし、表情を曇らせた。

 元来ドワーフを始めとしたエルフなどの妖精族エルヴィムは、精霊との調和こそを重んじる種族であり、彼女の様にハーフの生まれであったとてそれは普遍である。さらに法規隊ディフェンサーと言う、赤き大地ザガディアスの歴史を揺るがす精霊との共存を目的とした部隊へ属する事で、その憂いはより大きな物となっていた。


 話が一旦重きへと移り変わったせいか、買い出しもとどこりなく進んだ生活物資買い出し組。その重き足取りの中、各々の思う所を整理しながら集合場所へと足を向ける。



 仲間との暫し別れが迫る事を察し、嘘のように大人しくなった暴れ馬達を引き連れて。

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