Act.9 不穏チラつく旅路へ
「ブルルッ、ブルッ! 」
「ヒヒィィン! 」
「すまない、待たせたねボージェにフラン。馬屋主さん、この子達の休息の世話と食事をありがとう。これはその分の料金、占めて二千
「あいよ、まいど! 元気があっていい軍馬だな、こいつら! ちと暴れすぎな気もしないでもないが、羨ましいぜ! 」
一行は先の冒険後半では足として、
長く
そんな二頭の身体をなで上げる真理の賢者だが、視線が僅かに下向いていた。その意図を察した
「ボージェにフラン。今後も仲良く冒険と洒落込みたい所なんだが……こっから先、最低でも風の谷までで一旦お別れだな。」
「は? この子達を置いて、私達の生活物資満載の荷車は誰が引くの? それに――」
「聞け、オリアナよ。この先の冒険が危険と、ジーン殿からは聞いたであろう。特にあの乾燥地帯から最も危険な地域……砂漠地帯はこの馬らでは越えられん。」
「そうなの。この二頭は……あくまで軍用としての調整を受けた馬達、なの。これから通る南の砂漠地帯の過酷さを耐え凌ぐ様には、育てられてないの。」
狂犬の言葉にお登り全開で疑問を投げる
乾燥地で生きる野生馬ならばともかく、特定の地域での能力特化・運用を想定して育てられた調教馬が、過酷極まる大自然で生きる事は困難が予想される。そんな状況を踏まえた上での一行の判断であった。
さしもの白黒令嬢も、言葉にされれば状況を飲み込み……その仲間から遠ざけられる事を悟ったのか、暴れ馬を地で行っていた二頭さえも憂いを帯びて賢者少女へと摺り寄った。
己を駆るに値する主を案ずる様に。主と家族同然である仲間と、離れるのが寂しいと言わんばかりに。
「ほんまミーシャはんは、馬にまで好かれる……違いますな。ほんまに、大自然に好かれるお人おす。」
「そうだよね〜〜。ミーシャは一緒にいる時からこうやって、動物に精霊とが自然に集まって来るんだよ〜〜。」
「ふふっ。まさしく、大自然に選ばれた賢者様な感じね。」
「慕われてるわね、ミーシャ。なんか王女様はちょっとジェラシーよ? 」
「あー君達? 私を弄り倒しても、何も出ないからね? ほんとに恥ずかしいから、そういうのは。あとリーサ様はもう少し、自身の身分を隠匿する言動の方が助かるのだけど? 」
良い方への弄りも慣れたものと口にする一行に対し、賛辞の集中砲火に未だ慣れぬ真理の賢者は紅潮して視線を泳がせる。そのまま逃げる方向を探す様に、目的の商店街がある街道を見やろうとした時……精霊種も続くその後から
「あ〜〜
「お話? まあかの
「失敬な(汗)。すでに酔いはさめたアル。お話と言うのはあの、オクスタニアのティーガー氏の事アルよ。」
一行は新たな冒険と息巻く中。されど不穏はすぐ傍から
酔いどれ警兵が語る言葉の先から音もなく――
∫∫∫∫∫∫
ティーガー・ヴァングラム氏を我々の旅へ同伴させる。
そう聞いた時にはまさかと思ったけれど、距離を置き彼が直に監視に付くと言う条件を提示された時点で回避しようがない事は理解しました。少なくとも虎兄さんは、
「あの酔いどれ……。中々どうして、得体の知れない奴だぜ、ファッキン。」
「得体が知れないサリ! またいつ吐くか、分かったものじゃないサリ! 」
「いやいや(汗)。サーリャ嬢、お父上が言いたいのはそこじゃないアル。」
「ないサリっ!? 」
「……君達、謎の問答はいいけどね。ノマさんのそれは、ないのかあるのか判然としない語尾だから。て言うかその語尾は――」
酔いっぱさんの警戒を違う方へ取るサーリャは、相も変わらずマスコット可愛いので良しとするも、酔っぱさんの会話語尾「アル」が共通するノマさんの詳しい生い立ちが気になる所。それを問い正せば、遠からずも近からずな返答が送られました。
「
「なるほど、アンタの珍妙な喋りはそこでの
「ディネさんに、珍妙言われる筋合いはないアルネ。」
「あたいにたぁ、どう言う了見だい!? 」
「ちょっと二人ともよさないか(汗)。精霊が争うなど――」
「ディネさん、メッ……なの。」
「よし、許してやんよ! 」
「「「ちょ……チョロい(汗)。」」」
そこからまさかの地方言語で言い争う輩姐さんと泣き上戸さんでしたが、これは最近定番となりつつあるフレード君のプンプン怒り顔からの〈メッチ〉攻撃が、ディネさん個人への特攻効果があるらしく……彼が一声上げるや姐さん途端に大人しくなるんです。
輩姐さんのショタ好きには思わず感謝だね。面倒事が一つ減少だ。
そこは兎も角としても、今まさにノマさんが発した言葉は渡りに船。
「ならばノマさんは、ティー・ワン周辺砂漠や乾燥地帯にはそれなりの知識があると見て構わないんだね。」
「無論アル。かの地で商人と相対するとは即ち、道行く
フムフムと彼の話を聞き入る一行。特にオリアナは、生い立ち上商人との交渉あれこれが気になるのか身を乗り出し……同じく商人側たるペネも、実に耳寄りと頷いています。
いるのですが――
諸々買い出しのための商店へと差し掛かる間際、私はとてつもなく嫌な予感が思考を過ぎったのです。すでにワンさんからの依頼にリーサ様の
「ちょっ……ミーシャ、どうしたの急に!? 」
慌てて私を抱き止めたリーサ様に大丈夫と向けつつ、お顔が
「……ノマさん。あなたがこの近隣で活躍した時期からは、完全に世代がズレ込むのだけど。その……キャラバン隊の中に、口にするにはある意味憚られる〈ルビーアイ〉を名乗る隊がいるのを知っているかい?」
「ルビーアイ? ああ、それなら
飛び出た言葉で頭を抱えた事に、私はその名を嫌というほど知っていたのです。ええ、それはもう嫌というほどに。
「パフィリア・クロードリア。ルビーアイと言う組織を組織した気になっている、残念目利きなオサレ系行商人。実は残念な事に、それは私の姉さんなんだよ……これがね。」
すると、どうみても私の姉が商人である点ではなく、姉が存在する点に度肝を抜かれた様に我が家族達が精霊まで含めて驚愕の眼差しを送って来たのです。
それは皆の足が商店街に付くか否かの所。そのまま失礼極まりない放心状態な精霊達を、慌ててあっちの世界に贈り返す私がいたのでした。
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