Act.6 南へ、法規隊の新たなる旅路

 真理の賢者ミシャリアへ精霊種組への対応を。そして狂犬テンパロットが接触者全体から漏れ出る不穏の兆行を見定める間……カクウ首魁ワンからの依頼を別棟となる場所で応じるは英雄妖精リド


 さらにはと、同席するみなは部隊上情報共有が必要と強引な意見で押し通し、依頼全容を聞き届ける体勢としていた。


「はてさて、このカクウ頭目を相手に……抜け目のない事で私めも安心致しました。ですがご安心を……そもそもこちらは依頼を提供する時点で、身内の恥を曝すも同義――」

「そんな状況下で、会談に敵対心を以って挑むなど言語道断。私めもプライドと言うものがありますゆえ。」


「……抜け目がないとの言葉はこちらのセリフじゃ。そこまで見抜かれているとは、ちと我らもおフザケが過ぎたようじゃの。」


 そんな聞き届ける体勢がカクウ首魁の言葉で瓦解する。英雄妖精もうなる敵の観察眼は、すでに法規隊ディフェンサー一行へ諸々の隠し事など無意味と判断させるには充分であった。


「おフザケ……っていつも通りじゃないの? 」


「変わんないわね~~。」


「リーサ様も増えて、マシマシ感……増量中なの。」


「ああ、あれな感じね? とか言う――」


「お主らには場の空気を読むとか言う配慮は、欠片もないのか!?そうなのかっ!? 」


 相手が相手と素で当たっていた英雄妖精は、背後で護衛であった面々が零す法規隊ディフェンサー法規隊ディフェンサーたる愚痴りで怒髪天。浅黒い肌が真っ赤に染まる勢いで憤慨を顕とした。

 それをケラケラと見やるツインテ騎士ヒュレイカ。嫌な汗のまま嘆息する白黒令嬢オリアナ。すでに慣れた感が否めない神官少年フレード。まさかの一番馴染んだオサレなドワーフペンネロッタに至っては、自分達を盛大に自虐していた。


 その様相を見定めるカクウ首魁も想像を超える一行のおバカさ加減に、奇しくも失笑を洩らしてしまう。闇の世界、社会の暗部で世間から弾かれた哀れな輩どもを纏める、首魁らしからぬあるまじき失笑を。


「くくっ……いやはや。この私めも失笑が込み上げたはいつぶりか。ならばこの依頼はあなたがにこそ申し出るが筋でしょう。我ら身内の恥も恥……カクウ内で我が物顔で分裂を宣言した強硬派を、光みつる社会の法の元へと引き摺り出し、裁きにかけると言う依頼を。」


 カクウ首魁の失笑に、所変われど闇は変わらずな表情を浮かべた抜刀妖精ティティ。自身が祖国たる日いづる大国アカツキロウで送った日々の一欠けを、思い出す様に語る。


「やっぱりカクウはんらも、アカツキロウのゴクドウはんらみたいな悩み……抱えてはるんやねぇ。思い出したわ~~。」


「いや、ティティ卿? そんな恐い話を思い出さなくていいですから(汗)。」


 抜刀妖精のフラグの如き呟きで白黒令嬢が震え上がる中、一向に進まない話を進める様にオサレなドワーフが仕切り始めた。


「はいはい、オリアナさんもティティ卿もそこまで。これ以上はカクウさんも堪忍袋の緒が盛大にと行く感じよ? あと――」


「待てぃ、ペンネロッタ! 今さらっと、ワシを小バカにしおったな!? 」


「あらやだ、。まあウチはこんなの日常茶飯事な感じなので、ワンさんでしたっけ。依頼とやらをお聞かせ願えるかしら? 」


「くくくっ……場の空気などハナから読む気がないていで、。いやはやどうやらあなた方が、愚か者の類などではない事は理解した。では――」


 法規隊ディフェンサーのおバカを地で行く日常は、時にギスギスした空気さえも和らげる効果を持つは皆が周知の事実である。それも過ぎればしゃくにさわるであろう――が、絶妙なさじ加減で落として来るメンツの働きはまさに一行ならでは。


 身内の恥と濁しつつ言い淀んでいたカクウ首魁も、いつの間にか彼らの空気の中へと溶け込まされ――



 言葉にし辛い依頼の全容を語り出した。



∫∫∫∫∫∫



 精霊種組の仲間へ殿下よりの依頼諸々を伝達後、任せていたカクウさん方依頼把握と食堂施設へ歩を向ける私。

 ティーガー氏にカクウのワンさんとやらは兎も角、少ないながら他の客も目にする事を考慮の上で精霊達に席を外して貰う事とします。その後リーサ様と舞い戻った食堂施設 店員室前で……余裕のある袖に両手を要れ、こうべを垂れる慇懃な礼を送るや消えて行くワンさん。

 すでに粗方はウチのご隠居に報告したのだろうと察し、仲間の元へ集います。


 遅れてテンパロットも加わり、何か最初の意気込みが台無しな今に嘆息しつつ詳細確認へと移って行きました。


「やはりあのカクウは紛れもなく、旧王朝時代に勢力を誇った組織じゃったわ。が……その勢力を誇った規模そのものには、いささか陰りを見た所じゃ。」


「なるほど、リドジィさんが聞き及んだ依頼からそれが察せたとなると……彼らも相当苦労している様だね。」


「……あくまでそのジジィ扱いに終始するつもりか(汗)。まあそれは置いといてだ――」


 敢えてのジィさん呼びで事の重要性を計った私へ、嘆息ながらも視線をテンパロットへ移したリド卿。そこにはテンパロットが時折見せる帝国諜報部に属していた頃の、少しおフザケを廃して静聴する事とします。


 冗談が通じない時のテンパロットは、案外恐ろしく……私もその時ばかりは彼が一回り年上である事を痛感するのですね、これが。


 ともあれ年長組のウチ、情報戦に強いリドジィさんとテンパロットを中心に、カクウからの依頼に合わせた今後の冒険プランを構築して行きましょう。


「まず第一に、奴ら本体であるカクウは今後もカタギには一切手を出さぬ体制で世を渡る腹積もりであるが……どうもそれに反感を持った強行派が、このアーレス南以降の街々で悪さを働いているようでの。」

「そこで彼らはワシら法規隊ディフェンサーと言う冒険者に目を付け、依頼を投げる方向で動いておったらしい。」


「……って事は、最初から奴らは俺達の素性は調べ上げてたって訳か? だが俺でもそんな気配を、今までの冒険の最中感じ取った記憶はないぜ? 」


しかり、じゃ。故にワシは、奴らが張り付いての目で見た情報収集ではない、旅人や冒険者からの情報を元にワシらの全貌を図る枠組みを作っておったと見ておる。そしてその情報整合性と精度を高めるために、あらゆる方面へ人手を割いた人海戦術を取っていた様じゃな。」


 カクウさんの内情にあちらの方針はまあ良いとして、全く。帝国が誇る情報収集のプロも舌を巻く情報戦――それが肝が冷える所。それも個の能力に特化したアーレスの諜報能力に対する、数と人脈に任せて人知れず情報を蓄えるなどと……カクウさんが敵対組織でなかった事に胸を撫で下ろしてしまったよ。


 それでもサイザー殿下には報告の必要があるのだけどね。


「ともあれ我ら法規隊ディフェンサーに向けられた依頼の一つ目は、カクウから分裂した強行派の悪事を法規隊ワシらのやり方で白日の下に曝す事が一点じゃ。そして――」


 と前置きしたリドジィさんが、なにやらオリアナ……レーベンハイト家と言う帝国お抱え武器商人貴族へ養子に迎えられた、白と黒のゴシックメイド服が標準装備なシンデレラさん。視線を向けると――

 話を振られた彼女の語る概要がそのまま、依頼の第二点として提示されたのです。


「カクウの強行派とやらが働く悪事……その点であのワンさんは、気になる内容を提供して来たわ。そこにはこのザガディアスにはいるはずの無い、不逞とるんでいると。」


「……ちょっと待つんだ。それは、穏やかじゃないね。事実なのかい? 」


「その件の調査が第二の依頼と言う訳じゃ。その事実如何ではワシらもこの依頼、受けざるを得ない所ではないか?ミシャリアよ。」


 デレ黒さんが重めのトーンで口にした言葉で、流石の私もおフザケが頭から吹き飛んだ気がしました。……もしそれが悪事の要因となっているならば看過など出来ないから。


 先のラブレス先遣隊との戦い。戦史に残さぬ配慮で事なきを得たあの戦いは、リュード・アンドラスト率いる真摯たる一騎当千の猛将達との尋常の勝負でした。詰まる所、。今回の件に絡むのがラブレス所縁ゆかりの者だとしたら――


 そう思考するだけでも。今回の依頼では由々しき事態を想定しなければなりません。


「……あらかたは理解したよ。どう転んでもその依頼は受けざるを得ない事もね。さて、そうなると次の冒険の舞台は……このウォーティア大陸の中央から南、か。厳しくなりそうだね。」



 依頼内容確認の中で、いつしか鋭さが増した我が法規隊ディフェンサーを一瞥した私は……これより向かう南の大地を見通す視線で言葉を洩らしていたのです。

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