Act.5 それぞれに思う、不穏の予感

 カクウはワンさんの依頼と言う難事到来。

 その相談のためと、残る精霊組との会議へと進む私とリーサ様。元々精霊側の家族達は、正体そのものを色々と悟られる訳にはいかないご時勢である故身を顰めてもらっていた所。

 まあすでに風の精霊たるしーちゃんが、その苦労も水の泡となりかけたけどね。念の為と、建物一角の影で一同に顕現して貰った訳です。


「相変わらずだな、風のお嬢は。疾き事風の如しだぜ、ファッキン。」


「サリ~~! しーちゃんさんはいつも騒動の起点サリ~~! 」


「どんな褒め方やねん!? つか親父はんの意見や言うて、サーリャはんまで乗ってこんでええねんでっ!? 」


 火蜥蜴サラマンダー親子。熱い親父なサラディンは、娘お気に入りなサングラスが特徴の通所 グラサン。娘のサリュアナは、マスコット可愛いあだ名はサーリャ。マスコットの座をしーちゃんと争うお茶目さん。


「騒動の起点の点はであるな。それがしも、シフィエールと長い付き合いだが……であるな。」


「ちょおっ!? 今なんで二回言うたねん、ジーンはん! 同族やったらフォローを――」


 3mの体躯で堂々たる姿の風の上位精霊ジン。いつもジーンさんと呼ぶ彼は、精霊の中でもいろいろ頼れる御仁です。


「ああ……何かアタイも、この光景には随分慣れたけどねぇ。ジーンのダンナにさね。」


「さ……アカンて。この手の突っ込みは二回までと決まっとるんやで……ディネの姐はん? 」


「どうしたアルか?シフィエールさん。勢いがなくなってきてるアル。眠いアルか? 」


「落ち込んでんねん !そして随分馴染んだな、この泣き上戸の商人あきんどはんは! 」


 ちょっと変わり者な点でしーちゃんといい勝負な、輩さんを地で行くウンディーネ。ディネさんは姉御肌だけどフレード君にお熱な、ショタ好きの困り者。

 先の酔っ払いさんと語尾が被るは、かつてこの地方に所縁ゆかりがあったであろう、商人の守護精霊たる地のノーム。通称ノマさんはドン引きするぐらいの泣き上戸だけど、目利きは法規隊ディフェンサーでもペネと一二を争う元銀行店員。


「キー、キキッ! キキキ! 」


「リィィン。リィ、リィィン。」


「ここでダブル通訳をさせて来るんかい!? そっちの通常しゃべれんコンビはっ!? 「落ち着いて」やてっ!? これが落ち着いてられるかいな、シェンはん! えっ……「あなたはやはり素敵で可愛い」――」

「いややわ~~、ウィスパはんも分かってるやんか。そうやウチは素敵可愛い、風のマスコット……シフィエールちゃんその人やっ! 」


「「「「チョ……チョロイ(汗)。」」」」


 何やら一人でテンションマックスな通訳されるのは、闇の精霊で巨大な本体に変化も出来るシェン。こちらはキモカワペット感が、他に類を見ない魅力を誇る第三のマスコット候補だね。


 そして――

 私がまだ賢者見習いとしての一歩さえ踏み出していない時期から、すぐ傍で見守ってくれていた最初の精霊の友人……光の精霊 ウィル・オ・ウィスプ。ウィスパと呼び慕う彼女は、大切な私の原点でもある仲間です。


 このやり取りだけでも生命種側並に騒がしくも頼もしい、私の素敵な精霊の家族達。今後も冒険を共にするため、新たな旅路の最初の相談を持ち掛けたいと思います。


「しーちゃんどうどう、少し落ち着くんだ。これから新たな旅路を行く上で早速だけど、厄介な依頼が舞い込んだ。しかも殿下から受けた件にも絡む一件だから、まずは殿下側のそれを説明するよ。」


「精霊の扱いに慣れてるわね、ミーシャ。よくもまあ、こんな。王女様もビックリだぞ? 」


 少し騒がしさの度が過ぎ始めたしーちゃんを制した私。リーサ様の何気ない弄りへ「クセ強とか言わない」と半目な視線を送りつつ、視界の端でチラチラ映る想定外……オクスタニア王国の獣人族ウェルフと名乗ったティーガー氏を見定めます。すでに協力体制にある事は明確な、酔いどれマーさんが抑えてくれてはいますが――



 今目にする私と精霊との関わりが、彼に如何な影響があるかを見極めながらの会話に終始していたのです。



∫∫∫∫∫∫



 真理の賢者ミシャリアが精霊組の仲間を顕現させ話し合う姿は、虎人青年ティーガーの目に驚愕として映っていた。


 それもそのはず、彼は賢者少女へ向け精霊を盾にする悪道との勘違いから牙を向けたが……それは彼が今捜し求める、身内とも言える少女の事件が関わっていた故だ。だが――


「これ、は……どう言う事なのだ!? 精霊が、人種ヒュミアの眼前へ何の敵意も無しに自ら集うなど! それも――信じ難き光景だ! 」


 視界に飛び込む精霊は彼の口にした通り、敵意どころか家族の様な暖かささえ浮かべ顕現していた。その中心で皆へ話し合いと言葉を紡ぐ少女も、傍目で分かる程に信頼を寄せる。その光景は、虎人青年へ己の勘違いを気付かせるには充分であった。


 未だ言葉が驚愕で高ぶる青年を制していた酔いどれ警兵マーも、警戒を解いて問題なしと判断。改めて警兵へ伝わっていた、法規隊ディフェンサー一行の人となりを舐める様に見定める。


「あいやー。私も流石にこの光景は、実際目にするまで信用に足らぬ所だたアルが……これは疑いの余地もないアルね。時に――」

「ティーガー・ヴァングラム、だたアルか? 貴殿は精霊に自我があると言っていた様アルが、オクスタニアにはやはり言う事アルね?」


 次いで、虎人青年へ話を振る酔いどれ警兵は、彼の口にした言葉を聞き逃さなかった。

 往々にして赤き大地ザガディアスに於ける精霊への認識は、精霊に個の自我が宿るなどありえないとされる。精霊を守り神とする一部の人種ヒュミアや限られた地方種族以外には、精霊が自我を持つ事など想像さえ出来ないのだ。

 それを踏まえれば、虎人青年が口にした精霊の個が持つ自我の件は、精霊と共存する一部の地方種族に相当する解である。


 法規隊ディフェンサーと初見であった虎人青年。勘違いの渦中であった彼も、警兵が洩らす言葉で眼前の光景を生む一行が、精霊と心を許し合う者達側との確信を得る。同時に己の勘違いを正す様に思考を巡らせ、正しき現状を導いて行く。

 先走りはあれど、目にした状況から真実を見定める柔軟さを垣間見せていた。


「……ミシャリアと申したか。それが我が追う者とは見当違いとの理解はした。如何にも――我が故郷たるオクスタニア王国は、族長を頂く者が地の上位精霊の啓示を賜り、各個部族へと伝える慣わしを持つ。」


「ふむ。して……やはり即ち、あの御仁アルか? 」


「ご想像通りである。我らオクスタニアの民を見守り、啓示を与え下さる者は……大地の上位精霊 ベヒーモス様にあらせられる。」


 徐々に落ち着きを取り戻す虎人青年。しかし精霊との話し合いの傍ら、真理の賢者は青年だけではない、豪商の街ティー・ワンから赴いた協力者へも注意の目を向けていた。

 警衛局ポリセット・ガーダー出向も、本名を明かさぬまま言い知れぬ何かが渦巻いていたから。同時に……精霊らとの対話を賢者たる主に任せていた狂犬テンパロットは、物陰で初見の者達全てを見定める。


 カクウからの依頼については英雄妖精リドへと振り、知見ですでに情報をいくつか所有するカクウ首魁をさて置いて、今なお偽名で通す男……そして真摯だが見知らぬ地より訪れた獣人族ウェルフと言う、未知の存在へと警戒心を向けていた。


「(真名を明かさぬティー・ワンの警衛局ポリセット・ガーダー出向に、オクスタニア王国の獣人族ウェルフ。そしてカクウの、内部分裂とも言える状況か……。油断ならないな。)」


 狂犬としては先の冒険時、行く先々で主が不足の事態に襲われる度、後手に回っていた事へいささかの不甲斐無さを感じていた。彼は魔導機械アーレス帝国は第二皇子――泣き虫弱虫の汚名を吹き飛ばす、知識の刃を振るう謀略者の姿を見せ付けたサイザー・ラステーリへ、主たる真理の賢者ミシャリアに生涯仕える旨を宣言した身。


 故に、再び訪れるであろう法規隊ディフェンサー代表にして己が主たる少女に降りかかる、あらゆる火の粉を払う覚悟にて状況を見定めに掛かっていたのだ。


「(そこに来てリーサ様のお身体の状況……。ったく、新しい冒険とか言ってもその先は、未だかつてない苦難の連続じゃねえか。だが……腕がなるな。)」


 狂犬は帝国諜報部として活動した忍び。帝国が世界に誇る漆黒の暗殺者キルトレイサーを生業としながら、地獄の試練を乗り越えし狂錬兵レンジャーとの別名も持つ。その狂犬が腕を鳴らすは即ち、これより法規隊ディフェンサーが踏み出す一歩が大冒険の幕開けに他ならないから。



 一方では、その序章となる依頼詳細がカクウ首魁ワンより語られ、それを部隊の重鎮の一人となった英雄妖精が聞き届けていた。

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