Act.4 酔っ払いのマーと、カクウのワン
一行ではもはや無いと寂しささえ
その双方を仲裁する様に現れたのは――ただの酔っ払いであった。
「まあまあ、このマー・ロンに免じて……め、お――オロロロロ――」
「ちょっと!? 何開幕から、飲み食いしたあれやこれやを撒き散らして……き、キタナイね君っ!?」
「オエッ……。ああ、心配には及ばないアル。固形物は食して……オロロロ――」
「固形とかそういう問題ではないよ!? 逆に生々しいからねっ! 全く……何なんだい、君は! 」
見るからに千鳥足な男は、まさかの開幕からあってはならない逆流物吐瀉と言う惨状を撒き散らす。
それが食堂と言う場所であったため、もはや悲惨さはうなぎ上りであった。
そんな食堂の惨事に嘆息した食堂長とも言える男が、パチンと指を鳴らすや店員らしき男性らが匂いを防護するマスク装備のまま現れ、顔を
だが――
事態の渦中にある食堂長の視線は、到底カタギの物とは思えぬギラつきを宿し……オールバックに固めた黒の御髪で、片目に掛かるモノクルをキラリと光らせ、細めた切れ長の双眸で人さえも殺せる雰囲気を宿す。
「はいはい、お客様がそう言うのであれば
「そうですね……そちらのお嬢様辺りから、込み込みで1万jmzほど頂くとしましょうか。」
そしてモノクルの男は言い放つ。たかだかテーブルと諸々の弁償代としては法外な額である要求を。それに加え、二人の破壊行動の後始末を賢者少女へと振ったのだ。
詰まる所、
「ミーシャ? これ、完全にバレてるわね。」
「……らしいね、リーサ様。こちらとしてもただの食堂長に見抜かれる間抜けを働いたつもりはないのだけれど、それを見抜けるほどの男だと言うのは理解したよ。それにしても――」
「迷惑料と見積もっても、今残骸になってる食堂備品を弁償するのに、1万
「「「ぶっ……!!? 」」」
作戦が無意味と悟るや、真理の賢者の口撃が火を噴いた。用意周到に練り込んだ作戦ご破算の恥を塗り潰す様な、初対面からの弄り口撃――
不意打ちであったその弄りで、一行も思わず噴出し笑い転げそうになる。
すると己の雰囲気さえ悟ってるはずの一行が、恐れを成すどころか笑い転げんとした事態へ、感服とばかりに双眸を細めるモノクルの男。直後、その様な胆力溢れる一同を相手にいつまでも正体を偽るのは無礼と本性を現した。
「なるほど流石だ。闇の世界ではすでに噂の
「カクウを纏めし、ワン・イェンガーと言う者。さて……名乗りを上げたからには、先の弁償代に変わる依頼をあなた方へ提示させて頂きたいのだが。いかがか? 」
カクウを纏めし者 ワンと名乗った男は、未だ真理の賢者へ飛び掛らんと身構える
意味ありげな微笑を浮かべ、再び
∫∫∫∫∫∫
この街道沿いの村にチラつく不穏の
想定外の獣人さんの件は兎も角としても、まさかハナからこちらの動きが察知されるとは思っても見ませんでした。
かのカクウと言う組織を、すでに過去の物と踏んでいた私達が裏を掛かれたと言う事実に他ならず、ちょっと部隊全体の気が緩みすぎてたかなと反省が
そんな思考は置いておき、まずはこの状況です。このデコッパメガネさん――何かオールバックで無用におでこが目立つ上に、嫌味ったらしい片側モノクルが鼻についたので見たままを述べた訳ですが……それを笑顔で流した器は相当のものだね。
「あ~~、私の弄りがツボったのは分かるけどね。皆ちょっと静まってくれるかい? 相手は堂々正体を明かした訳だし……こちらの情報もあらかた知り得ている所を見ても侮れない。」
「以後相応の対応にて――って、誰かティティ卿を止めてくれるかな(汗)? 笑いの度が過ぎてるからね?この人。」
「せ、せやかて……で、で、デコッパ――ぷっ、くくく! 」
「ティティ様、こんな笑い上戸だったんだ(汗)。」
「ほら~~リーサ様もビックリ仰天だよ。リドジィさん責任持って、ティティ卿を抑えててくれるかい? 」
「い……言うに事欠いてワシの責任じゃと!? 今のはどう見ても、ミシャリアの弄りが要因であろうがっ!? そしてジジィ呼びをやめんかっ! 」
そして静まる皆の中で一向に笑い続けるティティ卿は、笑いの沸点がえらく低い事で知られる笑い上戸さん。いやむしろあの程度の弄りでそこまで笑われると、こっちが逆に恥ずかしいのだけどね。
なのでその後始末は卿のダンナたるウチの最長老に丸投げする事にした。甲斐性出してよ?ジィ様。
と――
そんな流れに驚愕で目を丸くするのは、今しがたカクウを名乗ったはずのデコッパメガネさん。泣く子も黙る旧クォル・ガデル王朝のマフィアの名を出したにも
「相手がカクウと知ってこの空気。只者ではないどころの騒ぎではないな? いや――ただの愚か者の線もあるがはてさて。」
「すまないね。ウチはいつもこんな調子だから、気にしないでくれると助かるんだけど。時にワンさんとやら……私達を
笑い上戸な卿を
「発足はかの魔導機械で登りつめたアーレス帝国から。そして賢者ミシャリアを頂き、闇の冒険者ブラッドシェイドとやり合い勝利した挙句、共闘まで成し遂げた。さらには
「我々も痺れを切らす所だったチート導師 モンテスタの蛮行を暴き出し、魔導大国 アグネスの治安を回復させた。そして、時を置かずしてのラブレス帝国先遣隊との衝突すら勝利した栄えある冒険者。それが精霊の協力さえ取り付けての活躍……暗部の有名所ではすでに脅威として知れ渡っているぞ? 」
「いや……私達はむしろ、法規に
「フフッ……手を出せば只では済まないから、ではないのか? 」
先ほどチラつかせた依頼承諾の回答を引き出すためか、饒舌に語るデコッパさんはモノクルの下から細く鋭い眼光で賛美を口にして来ます。ムチたる器物破損弁償の法外な請求。そしてアメたる部隊の知り得る活躍への多大なる賞賛。それよりその情報をいつ、どこから、どの時期まで取得していたのかが気になる所なのですが――
嫌な事に、もはや彼から告げられる依頼を断る理由が見つからないまま、トントン拍子で話が進んでいったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます