Act.4 酔っ払いのマーと、カクウのワン

 一行ではもはや無いと寂しささえつのる食堂バスター。それを此度も見事にやらかした中、訪れたまさかの事態……オクスタニア出身の獣人族ウェルフを名乗る男性の、勘違いからの一触即発。


 その双方を仲裁する様に現れたのは――


「まあまあ、このマー・ロンに免じて……め、お――オロロロロ――」


「ちょっと!? 何開幕から、飲み食いしたあれやこれやを撒き散らして……き、キタナイね君っ!?」


「オエッ……。ああ、心配には及ばないアル。食して……オロロロ――」


「固形とかそういう問題ではないよ!? 逆に生々しいからねっ! 全く……何なんだい、君は! 」


 見るからに千鳥足な男は、まさかの開幕からあってはならない撒き散らす。法規隊ディフェンサーとしても未だかつてない下品極まりない事態に、食堂へ集結した一堂皆がドン引きとなる。

 それが食堂と言う場所であったため、もはや悲惨さはうなぎ上りであった。


 真理の賢者ミシャリアとしても、その者が事前に聞き及ぶ協力者の名であったため警戒を緩めたが……まさかの別の意味での警戒を上げざるを得ない始末。法規隊彼らが避けて通れない、ドタバタ珍道中はすでに確実の物となっていた。


 そんな食堂の惨事に嘆息した食堂長とも言える男が、パチンと指を鳴らすや店員らしき男性らが匂いを防護するマスク装備のまま現れ、顔をしかめて対処に移る。どうもそう言ったには慣れた感が覗えた。


 だが――

 事態の渦中にある食堂長の視線は、到底カタギの物とは思えぬギラつきを宿し……オールバックに固めた黒の御髪で、片目に掛かるモノクルをキラリと光らせ、細めた切れ長の双眸で人さえも殺せる雰囲気を宿す。

 狂犬テンパロットツインテ騎士ヒュレイカの借金グ行為は、その男の高を見定めるための陽動であったのは言うまでもない。


「はいはい、お客様がそう言うのであればわたくしめも事を荒げる訳にも行きますまい。さすればそこの……獣人国はオクスタニアの戦士であろう方は牙を納め下さい。そして、こちらのお二方は壊した諸々の弁償代とし――」

「そうですね……jmz頂くとしましょうか。」


 そしてモノクルの男は言い放つ。。それに加え、振ったのだ。


 詰まる所、神官少年フレードが放った台無しとの言葉以前に全てが見透かされての今であった。


「ミーシャ? これ、完全にバレてるわね。」


「……らしいね、リーサ様。こちらとしても見抜かれる間抜けを働いたつもりはないのだけれど、それを見抜けるほどの男だと言うのは理解したよ。それにしても――」

「迷惑料と見積もっても、今残骸になってる食堂備品を弁償するのに、1万jmzジェムズはちょっと桁が過ぎると思うのは気のせいかな?さん。」


「「「ぶっ……!!? 」」」


 作戦が無意味と悟るや、。用意周到に練り込んだ、初対面からの――

 不意打ちであったその弄りで、一行も思わず噴出し笑い転げそうになる。


 すると己の雰囲気さえ悟ってるはずの一行が、恐れを成すどころか笑い転げんとした事態へ、感服とばかりに双眸を細めるモノクルの男。直後、その様な胆力溢れる一同を相手にいつまでも正体を偽るのは無礼と本性を現した。


「なるほど流石だ。闇の世界ではすでに噂の法規隊ディフェンサー――いかほどのものかと思ったが、これは確かに頷ける。ならば私も名を明かすもやぶさかではない。わたしは旧クォル・ガデル王朝の闇を支えし組織――」

「カクウを纏めし、ワン・イェンガーと言う者。さて……名乗りを上げたからには、先の弁償代に変わる依頼をあなた方へ提示させて頂きたいのだが。いかがか? 」


 カクウを纏めし者 ワンと名乗った男は、未だ真理の賢者へ飛び掛らんと身構える虎獣人ティーガーを一瞥し――



 意味ありげな微笑を浮かべ、再び法規隊ディフェンサー一行へと向き直ったのであった。



∫∫∫∫∫∫



 この街道沿いの村にチラつく不穏のさざなみは、サイザー皇子殿下よりあった依頼に関わるものであり……その調査も含め部隊を分けて動かしての任務遂行でしたが――

 想定外の獣人さんの件は兎も角としても、まさかハナからこちらの動きが察知されるとは思っても見ませんでした。


 かのカクウと言う組織を、すでに過去の物と踏んでいた私達が裏を掛かれたと言う事実に他ならず、ちょっと部隊全体の気が緩みすぎてたかなと反省がよぎぎったね。取りえず先の冒険では魔導王国を救ったも同然なのだから、そのぐらいはいいじゃないかと、少しふてくされてみたり。


 そんな思考は置いておき、まずはこの状況です。このさん――何かオールバックで無用におでこが目立つ上に、嫌味ったらしい片側モノクルが鼻についたので見たままを述べた訳ですが……それを笑顔で流した器は相当のものだね。


「あ~~、私の弄りがツボったのは分かるけどね。皆ちょっと静まってくれるかい? 相手は堂々正体を明かした訳だし……こちらの情報もあらかた知り得ている所を見ても侮れない。」

「以後相応の対応にて――って、誰かティティ卿を止めてくれるかな(汗)? 笑いの度が過ぎてるからね?この人。」


「せ、せやかて……で、で、デコッパ――ぷっ、くくく! 」


「ティティ様、こんな笑い上戸だったんだ(汗)。」


「ほら~~リーサ様もビックリ仰天だよ。リドジィさん責任持って、ティティ卿を抑えててくれるかい? 」


「い……言うに事欠いてワシの責任じゃと!? 今のはどう見ても、ミシャリアの弄りが要因であろうがっ!? そしてジジィ呼びをやめんかっ! 」


 そして静まる皆の中で一向に笑い続けるティティ卿は、笑い上戸さん。いやむしろあの程度の弄りでそこまで笑われると、こっちが逆に恥ずかしいのだけどね。

 なのでその後始末は卿のダンナたる丸投げする事にした。甲斐性出してよ?ジィ様。


 と――

 そんな流れに驚愕で目を丸くするのは、今しがたカクウを名乗ったはずのデコッパメガネさん。泣く子も黙る旧クォル・ガデル王朝のマフィアの名を出したにもかかわらず、眼前ではビビる所か笑い転げるウチのメンツは想定さえしていなかった様です。


「相手がカクウと知ってこの空気。只者ではないどころの騒ぎではないな? いや――ただの愚か者の線もあるがはてさて。」


「すまないね。ウチはいつもこんな調子だから、気にしないでくれると助かるんだけど。時にワンさんとやら……私達を法規隊ディフェンサーと知って素性を明かす。ならば相応の情報を得ているだろうけど、どれほどの――」


 笑い上戸な卿をなだめながら項垂れるジィ様を見やりつつ、デコッパさんへと感じた疑問を投げれば……中々に面倒くさいレベルでツラツラと話し始めたのです。


「発足はかの魔導機械で登りつめたアーレス帝国から。そして賢者ミシャリアを頂き、闇の冒険者ブラッドシェイドとやり合い勝利した挙句、共闘まで成し遂げた。さらには古代竜種エンドラ討伐に、そこの英雄殿の絡む迷いの森の正常化に加え――」

「我々も痺れを切らす所だったチート導師 モンテスタの蛮行を暴き出し、魔導大国 アグネスの治安を回復させた。そして、時を置かずしてのラブレス帝国先遣隊との衝突すら勝利した栄えある冒険者。それが精霊の協力さえ取り付けての活躍……暗部の有名所ではすでに脅威として知れ渡っているぞ? 」


「いや……私達はむしろ、法規にのっとっった部隊なのだけどね? 何故に暗部で知れ渡るのかが、理解に苦しむのだけど?」


「フフッ……、ではないのか? 」


 先ほどチラつかせた依頼承諾の回答を引き出すためか、饒舌に語るデコッパさんはモノクルの下から細く鋭い眼光で賛美を口にして来ます。たる器物破損弁償の法外な請求。そしてたる部隊の知り得る活躍への多大なる賞賛。それよりその情報を取得していたのかが気になる所なのですが――



 嫌な事に、もはや彼から告げられる依頼を断る理由が見つからないまま、トントン拍子で話が進んでいったのです。

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