Act.3 始まりはカオスな一時と酔いどれから

 昼時を告げる連星太陽が天空高く上るか否か。街道沿いの街へ緊張が走る。いささか定番ともなる事態と、想定外の案件発生で生まれたカオスな状況に。現在別行動として仲間である事を伏せた法規隊ディフェンサーが、巻き込まれていたのだ。


 遅れて食堂へ足を運んだ残る各メンツも、別団体を装いつつ嫌な汗にしかめっ面をさらしていた。


「……はぁ。この部隊は、もはや荒事を引き起こすは宿命じゃな。揉め事に絡まれるとは。」


「リド、お仲間な点はぼかさなあきまへんえ? 先に経た情報の確認ウラを取るまでは――」


「分かっておるわい。全く面倒極まりないわ。」


 浅黒い肌に銀髪耳長な、幼い少年の様で老齢な言い回しの男は黒き妖精ダークエルフ。そしてその相方らしき男より僅かに背が上回る女性は、腰まである黒の御髪を二房で結い、腰に片刃刀剣を携える姿。赤き大地ザガディアスで二種存在すると言われるエルフ族の内、人の姿に似通う霊位妖精ハイエルフ


 リド・エイブラとティティ・フロウの妖精夫婦はかつて、伝説の勇敢なる英雄隊ブレイブ・アドベンチャラーに属した英雄の二欠けである。


「もう別行動とか言ってる場合ではないんじゃない? これすでに、いつものドタバタ騒動待ったなしよ? 」


「そうなの。すでに食堂店主さんが、皮肉にも気付きかけてるの。……。」


「て言うか、詰んだ感じだわ(汗)。彼女の突っ込みはシリアスブレイカー発動の合図な感じだから。」


「あの子らしいと言うか……ほんっと、残念な精霊だ事。」


 口にした通りの、展開していたであろう作戦が台無しとなった事で致し方なしと合流するは、これまた法規隊ディフェンサーが誇る面々。

 純白と蒼の法衣に包まれ輝くブロンドの御髪を流し、少女を思わせるも実は少年である神官クレリック。陶磁器の様な肌に紅玉の双眸と、通称ゴスメイドと呼ばれる魔法繊維製ヒラヒラフリフリドレスを着こなす、白と黒が混ざり合う少女。そして中でも身の丈の小ささが際立つ、後染めのブロンドに所々へオサレアクセサリーが輝くドワーフ少女。揃って眼前の頂けない惨状に嘆息を零す。


 神官男の娘のフレードと、メイドなガンナーのオリアナ……そしてオサレドワーフのペンネロッタは、共に法規隊ディフェンサーへ属する掛け替えのない家族である。

 また――、困った冒険者でもあった。


 状況はまさにカオス。定番のトラブルで一触即発な二人と、謎の勘違いによる一触即発な二人。一堂に会した法規隊ディフェンサー皆が訪れた事態へ嘆息のまま呆れを覗かせる中……食堂の端にあるテーブルから一般客と思しき者の声が飛んだ。


「あいやー、こんな真っ昼間から騒動とは……こちとら酒がまずくなるアル。まあまあここは私、マー・ロンに免じてそれぞれ矛を納めるネ――ひっく。」


 歳は中年の人種ヒュミアと言った所か。その身へ、袖口が大きな上着と足首を絞るズボン形状をした派手な色合いの衣服を着込む。さらにその上から首元を開けた一枚布で前から後へと覆うと言う、この地方独特の民族衣装を纏う男性。ゆらりと立つその男性は、深酒で酔いが回ったのか……覚束おぼつかない足取りで二つの揉め事を仲裁する様に歩み寄って来た。


 だが――

 その様相から垣間見える得体の知れぬ雰囲気に、法規隊ディフェンサーが誇る諜報担当の狂犬テンパロットと、皆の影になる形で食堂店主が双眸を鋭く細めた。


 同時に彼が名乗った事で嫌な汗を噴出させたのは、桃色髪が揺れる真理の賢者ミシャリアであった。


「……まさか。」


「特徴は……一致してるわねぇ~~(汗)。ミーシャ……。」


「はぁ~~。またしても普通の協力者に出会えないとは……もう好きにするがいいよ、全く。」


 それはこの旅に訪れる波乱の幕開けでもある。



 事は施設宿泊からさらに数日 さかのぼった、アーレス最南の境界関所街〈トラベルタ〉より始まる。



∫∫∫∫∫∫



 このお宿がある街道沿いの村に着く前、アーレスの最南の街〈トラベルタ〉から全てが始まります。

 先のアグネス王国へ向けたラブレスの先遣隊――あの死霊の支配者ネクロス・マイスター リュード・アンドラスト率いる千の人外兵団との決着後、それなりの時を経た私達 法規隊ディフェンサーは再びアーレスの地を踏みました。


 しかしアーレス国内のフェルデロンドを初めとした地では、、居心地の悪いの何のって。私達はアグネスが戦禍に巻き込まれるのを、未然に防いだすんげー部隊なんだよ?と喉まで出かけたね。


 そんな中、フェルデロンドまで先に戻っていたサイザー皇子殿下。そこから王都〈アグザレスタ〉より優先的にトラベルタへ訪れた殿下の登場で、もはや嫌な予感待った無しではあったのですが。


「すまないな、ミシャリア。リーサを伴った旅が始まると言う中、またしても無碍に出来ない依頼が舞い込んだ。この書状を確認してくれるか? 」


「あぁ……(汗)。ええ、まあサイザー殿下がここに現れた時点で察してはいました。どうかお気遣いなさらず。で、これですね……ふむふむ――」


 トラベルタの街外れ。皆がひとまずお宿へと足を向けた中、私とテンパロットに加え、今旅の主役でもあるリーサ様を引き連れ宿傍にある露天カフェへ集合。

 そこで殿下が苦笑の元手渡して来た書状は、一般的に国家クラスに相当する機関の紋で封されたもの。それだけでも、皇子が馳せ参じざるを得なかったのは想像に難くはありませんでしたが。


「ティー・ワン警衛局ポリセット・ガーダー代表 クォン・ロン……ティー・ワンってこれ、今は亡き旧王朝 クォル・ガデルの意志を継ぐ、このウォーティア大陸中央の商人国じゃないですか。なんでまた。」


「ああ、そうだ。その警衛局ポリセット・ガーダーから打診があってな? 今かの小国では、旧王朝時代に栄えた闇のマフィア集団 カクウの一部が国内で突如動きを活発化させていると。だが小国周辺に現れた異獣が民を脅かす事態も近い時期に発生し、そちらに手を割かれたかの小国から同盟上の打診があったんだ。」


 警衛局ポリセット・ガーダー――

 自警団の延長にあるその組織は、国家の規模が小国以下街以上の小さな地域を守るかなめです。行く行くは大国もそのシステムを導入せんとするぐらい画期的な、街を法で守る国民の国民による国民のための機関と聞き及びます。

 そんな警衛局ポリセット・ガーダーで世界の最先端と名高いのが、かの旧クォル・ガデル王朝末裔が残るティー・ワン小国なのです。


 しかし、そんな旧王朝滅亡から生き延びたのは正義の使者ばかりではない。言うなれば、先に私達が一度はオリアナがらみで剣を交えた闇の冒険者ブラッドシェイド的な組織も、共に後の時代へと生き延びていたのです。


 と、私が再びの難事到来で頭を抱えていた横から、黙して聞くに徹していたテンパロットが会話へ質問を加えて来ました。


「そいつは変だぜ?殿下。仮にもあのカクウは、かのアカツキロウの闇組織 ゴクドウらとも繋がりのある任侠集団だ。彼ら任侠集団は、闇を闇で払う用心棒みたいな集団だ。」


「ああ、オレもその点は認識済みだが……この封書も偽物と言う訳ではない。ならば依頼に応えるべきと、こちらでも対応したまでだ。」


 旧王朝末裔からの依頼に暗部マフィアの不穏な動き。そこに来て今、魔法力マジェクトロン制御法確立と……すでに次に訪れる旅がまたしても想像を絶する不安に駆られた私。


 その締めとなるお言葉で、致し方なく覚悟を決める事となったのです。


「指し当たって今回の依頼では、すでに彼らの内情に探りを入れるべく、局からも調査人員が動いているらしい。つまりは今後、その人員と協力して事に当たって欲しいとの事だ。その局派遣人員の名は――」


 警衛局ポリセット・ガーダー所属 警兵、現在名乗る偽名を〈マー・ロン〉と言い――



 その後私達の眼前に現れた、まさかまさかのそれだったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る