幼馴染に告白したら「無理」と断られた。一年後、彼女に逆告白されたけど、「もう遅いよ」とちょっとだけ意地悪してみた

久野真一

「無理」と断った彼女と、ダメダメだった僕

春香はるか。ずっと、ずっと、好きだった。恋人になって欲しい」


 秋風が吹く校舎裏で、僕は精いっぱいの勇気を振り絞った。

 僕は、堀内浩二ほりうちこうじ

 彼女からは、「こう君」と呼ばれている。


 もう十月だというのに、喉はカラカラで、額からは汗がだらだらだ。


「そっか、ありがとね。こう君」


 困ったような笑顔を浮かべた春香を見て、次に続く言葉がわかってしまった。

 付き合いが長いのも考えものだ。


「でも無理だよ、こう君。私は付き合えない」


 ああ、やっぱりかという思い。

 谷底に突き落とされたような思い。

 二つの感情がないまぜになった。


「ありがとう、春香。ちゃんと振ってくれて」


 春香は数少ない僕の友達の一人だ。

 彼女は優しいから、僕を哀れんでよく一緒に居てくれたんだろう。


「でもね。こう君と恋人になるのは無理だけど、友達では居たいから」


 春香なりの善意だったんだろう。

 でも、それはやっぱり少しつらい。


「根暗な僕でも、友達では居てくれるって事?」


 教室の隅で、僕はよく本を読んでいる。

 お陰で、そう呼ぶ奴らが居るのを知っている。

 だから、自嘲気味に聞いたのだけど。


「もう!そうやって、すぐ自分を卑下するところは駄目だよ!こう君!」


 彼女の反応は予想外のものだった。

 目に灯ったのは激しい怒りの色。


「な、なんで怒られるの?春香は僕を振ったんでしょ?」


 春香の言いたいことがわからなかった。


「ねえ。考えてみて?私は、本当に、こう君の事は友達だと思ってる」

「う、うん……」

「自分を卑下するような人が友達で、私が嬉しいとでも思う?」


 その言葉で、彼女の言いたいことがわかった。

 でも、そんな事言ったって……という気持ちもあった。


「うん。良くなかった。これから、色々頑張ってみるよ……」


 泣きたい気持ちでいっぱいで、僕は走り去った。 

 こんな根暗で卑屈な野郎は振られて当然だという気持ち。

 でも、春香は僕のそんな部分もわかってくれていたはずなのに。

 卑屈になってしまう部分を理解してくれないのか。

 なんて、恨みがましい気持ち。


 その夜、僕は一晩中泣きはらした。

 翌朝、僕は決心した。


「変わろう。春香の友達として恥ずかしくないように」


 傷ついた気持ちは消えなかったけど、彼女の言いたいこともよくわかった。

 一晩、落ち着いて考えてみれば、春香はわかった上で指摘してくれたはずなんだ。

 もう卑屈になるのは止めてと。


 それから、僕は自己啓発書やら会話術の本やらを色々買い込んで来た。

 いきなり卑屈になるな、と言っても、僕にはきっと無理だ。

 だから、まずは、自分を見つめ直すためには参考書だ、という考えだ。


 そして、身だしなみをキッチリするようにした。

 考えてみれば、制服のシャツはヨレヨレな事が多かった。

 「身だしなみがきちんとしていないと、中身も相応に見られます」

 そんな言葉が参考書には踊っていた。

 

 次に、僕は毎日、積極的に、誰かに話しかけてみた。

 僕が、「違う世界の住人」と思っていた陽キャたちにも。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 我ながらうまく無い言い回しだった。

 でも、「傷つくことを恐れていては、始まらない」。

 そんな事が本に書いてあった。

 僕の現状にピタリと当てはまっていたから、グサっと来た。


「堀内か?どーしたんだよ?そんな真剣な顔して」


 陽キャグループの一人、守口陽太もりぐちようたの返事は簡素だった。

 僕は、陰キャな僕がいきなり会話に入って嘲笑されると思っていた。

 でも、守口は特に気にした様子もなく、単に疑問に思うだけの声。


「ああ、いや。今日から根暗な自分を変えようと思って」


 て、これだけだと伝わらないか。

 

「……その。だから、ちょっと話しかけてみたんだ」

 

 しばらくの間、守口のグループはシーンとしていた。

 やっぱり、そんな事いきなり言うなんて変だよね。


 聞こえて来るのは押し殺した笑い。

 ああ、こういうのが嫌だったんだ。

 それでも一歩を踏み出した。

 でも、次の一言は予想外だった。


「お前、思ってたより、ガッツあるんだな。ちょっと意外だった」

「うんうん。むしろ、一生懸命なところが、可愛くて萌える」


 同じグループの女の子の言葉。


「ふー。堀内君、前から見てて思ったんだけど」


 やっぱり同じグループでサバサバしていた子が立ち上がった。


「え、ええと。なに?」

「根暗とか、自分のことを卑下し過ぎ!」


 びしっと指を向けて、断言されてしまった。


「ちょ、寛子ひろこ。もうちょっと、言葉選びなさいよ!」

秋菜あきなは優しいけど、きっちり言ってあげないと」


 最初に、可愛くて萌える、と言っていた子。秋菜さんと言うらしい。


「あのね。はっきり言って、堀内君、前から自分を卑下し過ぎ。別に、他の人のほとんどは、君が根暗とかいちいち気にしてないよ。逆に、自分をそう言ってたら、人は離れてっちゃうよ」

「うん。それはその通り。ごめん」


 春香に言われた言葉そのままだった。

 一歩を踏み出したはずだけど、つい、癖で「根暗」と言ってしまった。


「だーかーら。別に今のままでも、誰も嫌ったりしないから。堂々としていいの!」


 何が腹立たしいのか、苛立たしげな寛子さん。


「でも、僕は、もやしっ子で、スポーツも出来ないし」


 言いながら、やっぱり、卑下を自ら体現してしまっている事に気づく。

 一日でそんなにすぐは人間変われないということだよね。

 

「もー。だーかーらー!」


 そして、僕の態度に、ますますお冠な寛子さん。


「落ち着け、寛子。いきなり変われとか無理強いすんなよ」


 と思ったら、守口の制止の言葉。


「悪かったな。寛子の奴、見ていられないとなると、説教し出すからさ」


 まあ、とにかく、と。


「そこ、座れよ。考えてみれば、お前とはロクに話したことなかったし」


 と、空いている席を寄せて来て、着席を勧められた。

 それから、何の本が好きだとか、どんな漫画を読んでいるだとか。

 家では何してるだとか、色々な事を聞かれた。


 てっきり、僕なんて誰にも相手にされないと思っていたのに。


(そっか。僕は、自分で勝手に殻を作っていたのか)


 その夜、僕が思ったのはそんなことだった。

 守口、いや、陽太のグループのラインには既に入れてもらった。

 別に、僕のことは全然気にしていない様子だった。

 他の二人も、特に異論はないようだった。

 

(よし。明日から、もっと、頑張ってみよう)


 会話は一歩を踏み出せた。次は、身体を鍛えよう。

 もやしっ子だと、自分を決めつけて、何もしていなかった。

 でも、「継続は力なり」と本にもあったし、始めないと。


 そんな風にして、ジョギングも始めてみた。


 それから、僕は、少しずつ新しい体験をすることになった。

 たとえば、陽太たちのグループで、一緒に遊びに行ったり。

 ゲーセンで皆と一緒に遊ぶなんて初めての経験だった。

 そんな経験は、春香と二人で、くらいだった。


 他のクラスの連中だって、話してみれば、悪い奴は多くなかった。

 僕にいきなり話しかけられて、驚いていた奴はいたけど。


 自分を変えようと色々始めて、一ヶ月経った頃。

 放課後、帰り支度をしようとした僕の横から、


「あの、こう君。その、一ヶ月前の事だけど……」


 何か言い出しづらそうな表情と声色の春香。


「謝らなくていいよ。春香の言いたいことはなんとなくわかるよ」

「え?」

「どうせ、振っちゃったけど、言い過ぎた。って思ってるんでしょ?」


 彼女への想いが消えたわけじゃない。

 でも、「卑下し過ぎ」と言ってくれたことにはむしろ感謝している。

 

「ええと、それもだけど。そういうんじゃなくて……」

「大丈夫。僕もそれで距離置いたりしないから。また明日」

「……うん。じゃあ、また、明日」


 その後も何か言いたそうな春香だったけど、本当に、気にしないでいいのに。

 もちろん、一ヶ月程度で、僕が変われたとは言えない。

 でも、今になってみれば、以前の僕が殻に閉じこもっていたのは明らかだった。


 別に会話がうまくなくても、スポーツが出来なくても。

 受け入れてくれる人は受け入れてくれる。それがわかった。

 逆にそれ故だろうか。

 かえって、それからの僕は自主的に鍛えたりするのが趣味になっていった。

 不思議な感覚だった。ここに居ていいと思えるから、安心して前を向けるなんて。


(でも、小学校から、先月まで。僕は本当に卑屈だった)


 そんな僕を彼氏にしたいなんて、春香が思わないのは当然だ。

 ちなみに、彼女は昔から、時折、激昂する癖があった。

 それを後悔して、後日に謝ってくれることがよくあった。

 今も、NOの返事だけで良かったのに、て後悔してるんだろう。

 本当に、春香は優しいんだから。


 さらに一ヶ月が経った。

 ほとぼりが冷めたのか、僕と春香は再び一緒に登校するようになっていた。

 今度は、普通の友達として。


「なんか、こう君、すっかり変わったね」


 なんだろう。

 春香の顔に少し陰がある気がする。


「一応、自分磨きっていうか。僕もやれば出来るでしょ?」


 ちょっとおどけて調子に乗ってみた。

 こういうのも、陽太たちから学んだことだった。

 真面目なだけじゃなくて、ユーモアも大切なんだと。


「調子に乗り過ぎ!そんなにすぐ変わらないんだから」

「それもそうだね」


 心の底では、気がつくと卑屈な面が顔を出しそうになる。

 でも、そんな事を友達はよく思わないことは既に知っている。

 意識的に抑えているだけだ。


「でも、今度は、私が頑張る番なのかなあ……」


 誰にともなくつぶやいた春香の言葉。


「頑張るって?春香は皆からの人気あるでしょ?」


 別に、成績優秀、スポーツ万能とかそんなお伽噺のヒロインじゃない。

 でも、明るく、誰に対してもフランクな彼女は人気があった。

 容姿だって、可愛い系ということで人気もある。


「ううん。もっと、違うこと。私の心の問題」


 そう言った春香は、恐ろしい程、真剣な目つきをしていた。


「僕で良ければ相談に乗るよ?付き合い長いしさ」

「ううん。いいの。私が解決しないといけない問題だから」


 春香が頑固なのは、よく知っていた。

 だから、これ以上言っても仕方ないだろう。


「わかった。でも、無理しないでね。春香は親友だから」


 告白して、振られて、親友というのは、白々しいかもしれない。

 でも、女として以前に、彼女の事はずっと大切だった。


「そうだよね。こう君は昔から、そういう子だった」


 クスっと少し可笑しそうな笑い声。

 少し懐かしい気がした。


「子って。春香には、よく世話焼かれてたけどさ」


 小学校の頃から人の輪に馴染めない僕を助けてくれたのは、いつも彼女。

 からかいから守ってくれたのも彼女。

 思えば、春香は、僕の姉のような気持ちなんだろうか。


「ごめんごめん」

「いいけどね。僕だって、もう独り立ちしてるんだから」

「今でも気にしてるの?お姉さんぶってた事」

「そりゃあもう、ね」

「別に今はそんな事思ってないよ?」

「僕は、まだ覚えてるからね。卑屈過ぎって説教されたこと」


 ちょっと冗談めかしてみる。


「あ、それは、本当にごめん。あんな事言うつもりじゃなくて」


 と慌てて謝ろうとするけど、


「気にしなくていいって。僕のためを思って叱ってくれたんでしょ?」

「……」

「本当に感謝してるから。これからも友達で居てよ」


 もちろん、半分はやせ我慢だった。

 でも、もう半分は本音で、彼女は親友でもあると思う。


「うん……」


 何故だか、春香は泣きそうだった。


 さらに季節は巡って、一年近くが経った。


【明日、放課後に話あるんだけど、いい?】

【いいけど、ラインじゃ駄目なの?】

【うん。ちゃんと、顔を見て話さないとだから】

【わかった。じゃあ、明日の放課後】

【あ、それと、学校から帰ってから、例の公園で】

【また懐かしいね。でも、なんで帰ってから?】

【ちょっと、私なりの勝負だから】


 夜に彼女と、そんなやり取りをしていた。


(まさか、告白……なんてないよね)


 だって、僕は一年前に振られたのだ。

 今はもういい思い出だと、そう言える。

 まあ、もちろん、彼女から逆に言ってくれるなら。

 そう思わないでもないけど、ないない。


(さて、小説でも読むか)


 スマホをいじって、『小説家を目指そう!』のページを開く。

 その一位は、


『僕を手ひどく振った幼馴染。ダイエットをして、モテモテになった後で、言い寄って来たけど、もう遅い』


 というものだった。


「なんだか、趣味悪いなあ」


 思ったのは、そんな事だった。もう遅いって。


(でも……)


 主人公を振った幼馴染。

 努力して、他の女の子に好かれるようになった主人公。

 なんとなく、状況が符合して、苦笑いしてしまう。


(現実には、モテモテなんてことはないんだけどね)


 一年前から、一日おきに、走り続けた。

 食事制限も合わせて、細マッチョと言っていい体格になった僕。

 そのせいか、以前よりも女子からは人気があるように思う。

 それに、話すときもどもる癖が出なくなったし。


 でも、せいぜい学校で仲良くおしゃべりしたり

 あるいは、陽太をはじめとした皆と一緒に遊ぶ程度だ。


(きっと、春香から何か相談でもあるんだろう)


 最近の彼女は何か言いたげなことが多そうだったから。


◇◇◇◇


「こう君。ずっと、好きでした。付き合ってくれませんか?」


 翌日の放課後、彼女から告げられた言葉は予想外のものだった。

 思えば、服装も、パンツルックを好む彼女らしくもなく清楚系な

 スカート。上は白いワンピース。しかも、イヤリングまでしている。

 待ち合わせ場所に来たときに、何か妙な気はした。


「ええと。冗談、じゃないよね?」


 だって、春香は一年前、僕を振ったはず。


「ううん。冗談なんかじゃない。私の、本気の本気。服見たらわかるよね?」

「うん。それはなんとなく」


 以前よりも女の子の服にも幾分詳しくなった。

 わざわざ、僕と会うために、こういう服に着替えてくる。

 つまりは、そういうことなんだろう。


「でも、君は僕を一年前に振ったよね。気が変わった、ということ?」


 もちろん、だとしても、嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 それにしても、不審感は残るけど。


「ううん。少し、違うかな。あの時も、嬉しかったし。好きの気持ちも、結構あったの。でも、恋をしている程かというと、そこまでの自信はなかったし。そんな気持ちで付き合うのは失礼だから、断ったの」

「なるほどね。なんとなく、納得言ったよ」

「でも、卑下しないで、ってきつく言ったのは、ずっと、ずっと、後悔してたの。だって、私はこう君が自信がないこと、ずっと前から知っていたはずなのに。つい、イラっとして、あんな事言っちゃって」


 少し、落ち込み気味にそう締めくくった春香。


「春香が、気にしてるのはわかるよ。でも、だから、僕は、少しは変われたんだ」

「少しは、て。相変わらず、自信がないんだから」

「そこは、簡単には変わらないよ」

「そうかも。それに、そこまで変わっちゃったら、私も戸惑うよ」

「だよね」

「でもね。ずっと前から、こう君は優しくて、いい人だったけど」

「それは、ありがとう。うん」

「今は、凄く、いい男の子になったと思う」


 掛け値なしの褒め言葉を送られて、少し照れてしまう。


「だから、今度は私からの告白。それは、今どうかだけじゃなくて、あの日からずっと頑張ってたのを見てたから。でも、今度はこう君が判断する番。私なんかの告白、断ってくれていいから」


 なんか、と言いつつ、真っ直ぐ僕を見据えての真剣な言葉。


「なんか、って。人に卑下するなって言っといて、今度は春香が卑下してるよ」


 一年前と立場が逆転してて、少しおかしくなってしまう。


「だって、私は、なんとなく生きてて、それなりに友達が居て、ただラッキーなだけただけ。こう君は、全部、一から頑張ったんだから、私よりもよっぽど凄いよ」

「ねえ。振られてから、一ヶ月後くらいからかな。ファッションとか、急に凄い気を遣い始めた気がしてたんだけど」


 あの時は、流していたけど。もしかして。


「だって、こう君が凄く頑張ってるのに、私が今の自分に胡座かいてたら、愛想つかされちゃうと思ったし。あの時、友達としての好きが、だいぶ恋に変わり始めてたんだ」


 照れくさそうな春香。


「でも、それだったら、あの時に今度は春香の方から告白してくれたら……」

「だって。振っておいて、一ヶ月後とか、言いにくいよ」

「そっか。そういうものかも」


 不思議な気分だった。

 元はといえば、彼女から振られたのが発端。

 それから、変わろうとあがき始めて一年間。

 今度は逆に告白されるなんて。


「それで、返事は、どうかな?」


 さすがに恥ずかしいのか、春香は俯いていた。


「そうだね……」


 少し考えて、YESを返しそうになって、昨日タイトルだけ見た小説を思い出す。

 一度振られたんだ。これくらい意趣返ししたっていいだろう。


「一度、振っておいて、今更、好きだなんて。よ」


 我ながら、少し意地悪が過ぎるかもしれない。


「そうだよね。あの時に振っておいて、虫がいいよね。ごめんなさい」


 と、とぼとぼとと背を向けて去ろうとしてしまった。

 ちょっとやり過ぎた。


「あ、ごめん、ごめん。それ、冗談だから」

「じょ、冗談?」


 振り向いた春香は、目を白黒とさせていた。


「うん。昨日見た、ネット小説で、一度主人公を振った女の子が告白してくるけど、「もう遅い」って言うのがあったから。ちょっとやってみたくなったんだ」


 そんな意地悪を思いつくようになったのも、一年前からの変化かもしれない。


「もう。それ、ひどいよ。私、本当に真剣だったのに」

「ごめん。あの時のこと思い出して、ちょっとした仕返しのつもりだったんだ」

「こう君、随分意地悪になったよね。あの時のこう君の方が良かったかも」

「ええ?卑下しないように、僕なりに頑張ったのに」

「うそうそ」

「春香……からかったね?」

「こう君が変な意地悪するからでしょ」


 なんて、言い合って、お互い、ゲラゲラと笑っていた。


「なんか、僕も変わったと思ってたけど。そんなに変わっていなかったかも」


 唐突に思い出したのは、二人で一緒にゲームをプレイしていた昔の光景。

 レースゲームで、僕はよく、彼女に意地悪をするのが好きだった。

 考えてみれば、さっきのもそういうことかもしれない。


「そうだね。忘れてたけど、こう君、結構、意地悪が好きだったよね」

「じゃあその。あらためて、今度は恋人になっていい、んだよね?」

「私からお願いしたんだけど。うん。恋人になりたい」


 晴れた秋の空で、僕たちは、お互いにそう言って笑いあったのだった。

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幼馴染に告白したら「無理」と断られた。一年後、彼女に逆告白されたけど、「もう遅いよ」とちょっとだけ意地悪してみた 久野真一 @kuno1234

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