第4話 豚肉のステーキ



 食堂に行くと、今日も夕食が取り置きされていた。

 本日は豚肉のステーキだ。

 現在時刻はいつもよりも更に遅め、夕食と言うより深夜と言っても良い時間なので、明日の事を考えるとそう食べるわけにはいかなかったが、半分くらいは……いやいや三分の二くらいは、と考えて席に着く。


 油の乗ったお肉が、お皿の上で室内灯に照らされキラキラと輝いている。

 お肉は好きだ。

 体力仕事についているので、なおさら個人的に。


 料理を出したレーシャさん曰く、今回はかなり良いお肉を融通してもらったとの事なので、今日はソースではなくシンプルに香辛料とお塩をかけて頂く事にした。


 一旦冷えて温め直された影響か、食べごろだった数時間前よりは脂が流れ出してしま手いるかもしれないが、ナイフで切るとそれでも内部から透明な脂が流れ出してきて存在を主張した。


 一口サイズに切って口に運んだそれを噛みしめると、口の中で油がじゅわりとあふれ出し、噛みしめれば肉のうまみが感じられる。

 二度、三度と顎を動かせば香辛料が新たな味を、演出してくれる。


 王宮の食堂の料理は、今日もとても美味しかった。


 特に今日の任務は疲れていたから特にだった。


 この国を治めている王に反感を持っている貴族達の裏を暴いて、ひっ捕らえる為と大捕り物になって、ずいぶん体力を使った。


 途中でリート隊長が、相手が人質を取ったのを見てキレて盛大に暴れ回ったので、その後始末で余計に。


 特務騎士と言っても私の能力は低くまだまだ下っ端なので、他の者より多く雑用などもこなさねさなればならないから、見境なくやられると翌日疲労で死にそうになる。


 考えている内に、結局全部食べ終えてしまった。

 大丈夫。料理が美味しいのがいけないので、私は悪くないはずだ。


「ありがとうございました」


 食器をおくと、いつものようにレーシャさんがやってきた。


「今日は何だかとても疲れてるみたいね。お疲れ様」

「はい、ちょっと任務で色々ありましたので」

「特務騎士は大変だって私の知り合いから聞くわ。人質を取るような人を相手にしたりするのは、色々気を使うものね」


 今日あった事だとのに、もう知っているらしい。

 やはり英雄の耳は私などよりも性能が良いのだろう。

 こんな食堂で働いているが。


 そんな風に思っていると、


「こんな事しか出来ないけど、良かったらどうぞ、貰ってくれないかしら」

「えっ」


 控えめな態度でレーシャさんが何かを差し出してきた。

 可愛らしい星型のクッキーの入った袋だ。

 少しだけ開けられた口からは、甘く良い匂いが漂ってくる。


「残念ながらここで作った物じゃないんだけど、王都では有名なお菓子のお店で買ってきたの。疲れてる時は甘い物ってよく聞くし、女の子だったら嫌いな人はいないと思って。迷惑かしら」

「いいえ、そんな事はありません!」


 私は感激のあまり、レーシャさんの手を握って上下に振った。

 甘いものは好きだった。

 お肉の次にだか、嫌いなわけがない。


「ありがたくいただきます。貴方は良い人ですね。聖人ですか!?」


 英雄になれるのだから聖人になれるのも当然だと、一人で納得。

 悪役令嬢イメージがあったから余計にそう思えてくる。


「そ、そんなに大した事したかしら」


 そんなこちらの心情が分からないレーシャさんは首を傾げるしかない様だった。


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