第3話 ミートソースパスタ
その日も私は任務で夕食を食べ損ねてしまった。
取り置きをしてくれる食堂の者達には毎回対応してくれて申し訳ない気持ちになるが、仕方がないのだ。
私は王宮に雇われている騎士だが、特別な任務を任される特務騎士。
任務も通常の枠には入りきらないものが多いので、どうしても時間がかかってしまう。
そんな私に、変装した女性……勇者兼落ちぶれるはずだった悪役令嬢のレーシャさんが声をかける。
本来の彼女は綺麗な淡い金髪をしているはずなのだが、今は地味な三つ編みの茶髪のカツラをしている。
人の少ない夜しか食堂では見かけないが、それにしたって彼女は有名人だ。
誰もこの人の正体に気づかないのだろうか。
「いらっしゃい。今日も取っておいたから、ゆっくり召し上がってちょうだい」
「あ、ありがとうございます」
そういってレーシャさんに出されたのは、パスタ料理だった。
ミートソースが上に盛られたパスタはさっとお湯にくぐらせたらしく、暖かそうな湯気を放っていた。
ひき肉とトマトがふんだんに交ざったミートソースの匂いがする。
「命の恵みに感謝を」
食前の祈りを捧げて私はさっそく、パスタをフォークに絡めた。
適量のソースを絡めたパスタをフォークでからめとり、口に運ぶとひき肉の旨みとソースの旨みがやってきて、柔らかくなったトマトの触感が感じられ、次に味が広がっていた。
昨日と同じく夢中で完食する。
食堂の方達には頭が上がらぬ思いである。
彼等がいるから自分達は毎日任務に励めるのだ。
「ありがとうございました」
「今日の出来はどうだったかしら」
安堵したレーシャさんは、感想を聞きたいらしく私に話しかけてきた。
「昨日と同じで、美味しかったです」
「そう、良かった。貴方、最近遅い時間になってからここによく来るわよね」
「はい、特務騎士としての任務があるので」
「そう、大変なのね。特務には私の知り合いもいるから知ってるけど、色々大変みたい。ついこの間も国王様を裏で罠にかけようとしていた人達を、殴ったり追い回したり、斬ったりしてたみたいだし。最終的には、魔物の餌にしかけたとか」
「あはは……」
知っていた。
それは私の部隊の部隊長リート隊長の仕業である。
リアルに魔物を利用しかけたときは、かなり必死で止める事になって大変だった。
おかげで寿命が三日ぐらい縮んだような気がしたくらいだ。
「明日もまた来るのよね」
「はい、そうなるかと思います」
「じゃあ、取り置きしておくわ。そうね……」
私の言葉を受け取ったレーシャさんは食器を片しながら考え込む。
「遅くなる方が多いんだったら、いちいち伝えるのは面倒でしょう? 夕食に間に合いそうな時だけを逆に伝えてくれたら良いわよ」
「それで良いんですか?」
「そっちの方が効率的だもの。食堂の人間として頑張ってる騎士にできる事はなるべくしてあげたいのよ。私達の働きで騎士達が十分に力を発揮できるなら、これ以上の事は無いわ」
「ありがとうございます」
普段は貴方もこちら側ですが、とは言わなかった。
頭を下げてお礼を言う。
レーシャさんはとても良い人だった。
でも、悪役令嬢。
一体何で、悪役なのにゲームと違って良い人なのだろうか。
とても気になった。
だが、昨日に続いて今日もそれとなく聞く機会を窺っていたが、やはり無駄に終わってしまった様だ。
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