第43話 アルフェッカ&プレアデス その①

   舞台中央にマネージャー、周囲には

   宿泊客たちの楽しげな笑い声が響く。


《マネージャー》 皆様、大変長らくお待たせいたしました。それでは参りましょう。我が社イチオシの他では見られない世界初の宇宙コント! そのキュートでミステリアスな面白さはネットやテレビでも話題独占、二人が出演した『減塩たこちくわ』の新CMも好評放送中! ワタクシたちの星では〝天の川〟のことを〝スペース大名行列〟と言います! 《アルフェッカ&プレアデス》、張り切ってどうぞ!


   出囃子と共に《アルフェッカ&プレア

   デス》が登場。


 --げっ。コメちゃんのバカ、まだ心の準備が……。あ、足が動かない。でも、早く出なきゃ、出ないと。でも、この一歩を踏み出したら、もう後戻りは……。


「早く行け、この鈍ガメ」

 わたしは、ウサコに背後から押し出されて、多数の明かりに照らされた眩しいばかりの世界に立っていた。


 --あっ。

 わたしは、本番前に七海さんから受けたアドバイスを思い出す。

『舞台に立ったら、あんまりまじまじと客席を見ない方が良いよぉ。変に知り合いとかと目が合っちゃうと、頭の中が真っ白になることもあるからね』


 ……見ちゃった、合っちゃった。しかも、八田さんと。どうして、あんなど真ん中に座ってるのよ。それだけじゃない。お客さんの顔って、こんなにはっきりと見えるものなの……? だ、もう、だめ……。


 お腹の奥底から、何かが込み上げてくる。

 自分では、もうどうしようもない。

 既視感デジャヴに涙まで溢れ出す。

 目の前に見慣れたウサコの仏頂面。

 --え?


 巨大ひよこ饅頭は、両手でわたしの頭を掴んで乱暴に唇と唇を重ねてきた。


 重ねてきた。

 乱暴に、

 それは甘く切なく、

 それでいて、

 しつこくなく……、

 じゃない!


 わたしは、口を覆い続けるウサコをなんとか引き剥がした。

 巨大ひよこ饅頭は、それを気にする様子もなく、

「げっ、げっ、げっ!」

 と奇声を発しながらドタバタと舞台を走り回った。


「出ました! ムツゴロウさんばりのマウス・トウ・マウスのスキンシップ! 二人のアツアツぶりを見せるのも良いけど、ネタの方もしっかりね! 《アルフェッカ&プレアデス》、それでは改めてどうぞ!」

 マネージャー役のコメちゃんが、気転をきかせてアドリブで繋げてくれた。


   宿泊客たちが拍手する。


《アルフェッカ》 ど、どうもー! みなさん、こんにち渡る世間はお兄ちゃん、早く起きないと朝ごはん冷めちゃうヨー! ワタクシ、銀河亭アルフェッカと申しマスー! そして、こっちがエイリアンのプレアデスくんデース!


《プレアデス》 げげげjらおいへるじゃkhrひっいあsんnんkrーーーーっ!


《アルフェッカ》 皆さんお気づきの通り、ワタクシたちは宇宙からやって参りまシタ! プレアデス星団というのをご存知でしょうカ? そこがワタクシ達の生まれ故郷になりマース! それはもう地球からは気の遠くなるほど離れておりまして……72光年ですよ、72光年! 特に大事じゃないけど、2回言ってみまシター! あっ、今日はプレアデス星団大阪出張所から来ましたので、特急電車を使って、だいたい1時間くらいで済みましたケドー!


《プレアデス》 シャーッ!! (と、客を威嚇する)


《アルフェッカ》 こらっ! もう、ごめんなさいデスー。プレアデスくんは、綺麗な人を見ると興奮しちゃうんデース! ワタクシと一緒にいるときは、本当に大人しいんデスけどねーって、オイッ! (と、ノリツッコミ)


《プレアデス》 げげげbんksんmらkぅrじゃkjれかっ!


《アルフェッカ》 それでは参りまショー! コント『宇宙戦争』。

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