第7話 もう一人の新入生
わたしが伊丹七海さんを目で追いかけている間、カバ男は聞いてもいない新歓公演の苦労話や、自身の演劇論らしきものをつらつらと話していた。
カバ男はそれにも満足したらしく、
「あ、そうそう。もう一人、新入生の子が来てるよ」
と、言った。
「えっ?」
わたしは驚き、カバ男の示す先を振り返った。
--げっ。
真っ金髪のストレートヘアーが目に飛び込む。
もう一人の新入生も女子。わたしと同じ制服姿で、壁を背にして立っていた。彼女は何故だか仏頂面をしていたが、それでも一見してわかるほどの美少女だった。
「ちょっとこっちに来て」
わたしはカバ男に促されて、ゆっくりともう一人の新入生に近づいた。彼女は、わたしの方をちらりと見ただけだった。
カバ男がわたしにもう一人の新入生の紹介をする。
「えーと、名前がうさ、うさぎだに……」
「
彼女は、にこりともせずに答えた。
「さっき入部届けを書いてもらったばかりだよね。そうそう兎谷さん。こちら
--げっ。もう入部届け?
瑠璃色のスカートからすらりと伸びる長い足。わたしよりも背が高く、出るとこは出てスタイルも良い。凛と音がしそうなほどシャープな顔の内側には、匠の技が織りなす洗練されたパーツが絶妙なバランスで配置されていた。
わたしより一足早く、演劇部の門を叩いていたもう一人の新入生は、正統派の美少女で真っ金髪だった。
……ふーん、あっそう。OK、OK。よく分かりました。
これからの三年間、あなたとわたしで看板女優の座を争っていくってわけね。
ふふん、よくってよ。兎谷……九州子さんでしたっけ? あなたのような〝宿命のライバル〟が登場することは、想定内ですわ。
まあまあ、本当に嫌味なくらいに整った目鼻立ちですこと。さしずめ、あなたは格好の良いウサギさんってところですわね。相手にとって不足はありませんわ。
わたしも顔は、中の上くらいだと自分では思ってます。「かわいい」と言われることもしばしば……まあ、たまに会う親戚連中が大半を占めるんですけども。そうそう、眼鏡もやめてコンタクトにしましたし。身長、スタイルはやや平均以下といった程度で、バストも……よし、ここは負けを認めておきましょう。
しかし、勝負はどちらがより舞台上で輝けるかということ。
そこのところをしっかりとご理解していただいて、お互いに正々堂々と競い合っていこうじゃありませんことよ。でも、兎谷さん--でよろしかったかしら?
あなたもご存知だとは思いますが、いにしえの時代より〝ウサギ〟は、どう転んでも〝カメ〟には勝つことはできませんのよ。まあ、せいぜい頑張っていただいて……。ウフフッ、あなたのその綺麗な顔が『敗北』という泥に汚れるさまを見るのは、どれだけ楽しいことでしょう! オーホッホッホッ……!
妄想一人芝居の上演中、兎谷さんを無遠慮にじろじろと見ていたかもしれない。バッチリと目が会う。
--あ、分かった。
彼女のわたしに対する第一印象は、おそらく『なんだ、コイツ』。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます