番外編  〜執事・高遠誠のひとりごと〜

皆様、ご機嫌いかがでしょう。

桜庭家総帥の御子息であり、跡取りの澄空様にお仕えいたしております、

執事の高遠誠と申します。

以後、お見知り置きを。


さて、皆様が一つ誤解しているであろう案件を一つご説明させていただきますと、わたくし御年、25歳になります。

きっと説明が無かった故、私のことを、初老のベテラン執事だと勘違いしていた方も多いのではと思います。

私の家系は代々桜庭家に仕えており、私は物心ついた頃から澄空様のお世話兼兄のような存在としてお仕えいたして参りました。


 ほんの少しでしたが、澄空様の日常をお楽しみいただけたでしょうか。

ここで昔話をひとつ。


彼女には五つの時に定められた許嫁がおります。

潮音しおん様という大手食品会社の御曹司に当たる方です。

幼稚舎での夏は最後、翌年からは初等部という年の夏、いつもは我が儘なんて滅多に仰らない彼女が「海へ行きたい」と駄々をこねたのです。

私はその時、澄空様のお父様に仕えていた父にその旨を伝えると、

「潮音様も御一緒にお連れになって差し上げなさい」と申され、

すぐに近くのプライベートビーチを貸し切り、運転手付きのリムジンで向かいました。しかし私はその時まだ13歳を迎えたばかり。

2人の未就学児の相手は大人でも中々体力を削られます。

海辺で小さなビーチボールで遊んでいた時、

澄空様が海へと走り出してしまいました。

澄空様の姿は見る見るうちに遠くへ流されて行ってしまい、

それを見た潮音様は怖くなり、車が停めてある方へと逃げ出してしまいました。

幸い13歳の私が泳げば届く距離だったので澄空様が流された時間は1分余りでしたが、当時の私は自分を責めその後一ヶ月間澄空様に素直に顔向けできませんでした…しかし父に「主人から離れてどうする」と叱責され、今まで以上に

澄空様に誠意を持ってお仕えするようになりました。

当の澄空様はそれ以来潮音様をあまり良く思っていないようで、そればかりか

目を離すという失態を冒した私に今まで以上に懐くようになりました。

しかしいずれは夫婦となる身、もう少し仲良くしていただきたいのですが…


ここらで昔話は終わりにしましょうか。

私が澄空様にお仕えし始めたばかりの頃のお話でした。

しかし長年仕えてきたお方がいずれは嫁いでしまうというのは

寂しいものですね。

この気持ちが澄空様に届くことはないですが、その日を迎える時まで、

精一杯澄空様にお仕えしたい所存です。


もし生まれ変わって、主人と執事という関係でなかったら…

きっとこの手で彼女を守ろう。

そんな想像をしてしまうなんて私もまだまだ未熟ですね。


以上、執事 高遠誠のひとりごとでした。

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桜庭澄空のひとりごと。 染谷絃瀬 @blue-sky0828

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