15.ミラの故郷へ
二次試験は無事に、とは言い難いけど一先ず終了した。
あれから僕は六人、彼女も四人のバッチを破壊している。
彼女への手助けは負った傷の回復だけで、四人は自分の力で倒した。
魔力に優れた貴族との戦いも、横やりがなければミラが勝っていたし、彼女の強さは本物だ。
きっと試験のために努力したんだんだと……彼女の戦いを見てよくわかった。
それから夕方まで時間が経過し、僕たちは王都の商店街にあるちょっと古めな食事処に足を運んだ。
さすがに疲れたのと、落ち着いた場所で話がしたかったから。
試験が終わったからなのか、ここまで節約して使っていたお金を一気に使い、豪勢に飲み食いする。
僕は母さんの食事のほうが美味しくて乗り切れなかったけど、ミラは僕が見ているも気にせず食べまくっていたよ。
「ぷっはー……もうお腹いっぱいだ」
「すごい勢いて食べてたね。そんなにお腹減ってったの?」
「まぁな。お前と別れてから何も食べてなかったし」
「あの日から!?」
あれから二日以上経っているけど?
「それは……お腹も減るね」
「うん。でもお腹減ったのはお前と話してからだ。それまでずっとお腹なんて減らなくてさ」
「ミラ……」
それほど俺に言ったことを気にしていたのか。
やっぱり彼女は優しい。
「じゃあお腹も膨れたことだし、君の話を聞いても良い?」
「私って言うかお母さんのことだろ?」
「うん。その後でミラのことも話してほしいな」
「……私のことなんて話すことないぞ」
とか言いながら彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめる。
話せることだけで良いと僕が言ったら――
「おかしな奴だな」
彼女は優しく笑う。
その笑顔は少しだけ、母さんの笑顔に似ている気がして、何だかホッとした。
それからミラは、自身の母親について語り出す。
◇◇◇
私の家は裕福なほうじゃなかった。
お父さんは私が五歳の時、どこかへ行ってしまった。
弟は一歳で、妹はまだ生まれたばかり。
残された私たちを守るために、お母さんは毎日働いていた。
お母さんには日課があった。
それは朝起きてすぐ、家の外に出て手を組み祈りを捧げること。
ある日お母さんに、何をしているのかと聞いたことがある。
「神様にお祈りをしているのよ」
「神様? どこにいるの?」
「普通は見えないの。でもどこかにいて、私たちを見守ってくれているの」
「本当? じゃあ私もお祈りする!」
一緒に手を合わせても、神様の存在なんて感じない。
だけど幼い私はあ母さんが言うなら、神様もいると思っていた。
祈り続ければ、正しく生きていれば幸福になれる。
そう信じて、私たちのために頑張るお母さんのお手伝いをしていた。
でも……
お母さんは突然倒れた。
無理をし過ぎたんだ。
村にはお医者さんもいないから、離れた街まで行ってみてもらった。
そこでお医者さんが厳しい顔で言った。
「この病は原因がわかりません。治すことは……難しいでしょう」
私は絶望した。
言葉の意味が解らない弟たちも、お医者さんの雰囲気を怖がって泣いた。
それなのにお母さんは優しく笑っていた。
「大丈夫よ。ちゃんとしていれば、神様がきっと助けてくれるわ」
そんなの嘘だと、私は言いたかった。
今まで祈りを捧げても、一度だって神様は現れない。
お母さんは神様を信じて、毎日直向きに生きてきたはずだ。
どうして神様は助けてくれなかったの?
そんなの決まってる。
神様なんて本当はいなくて、祈った所で掬いなんてないから。
だったら私が助けてみせる。
魔術を学んだのも、最初はお母さんを助けたかったから。
でも私には回復魔術の才能はなかった。
次に考えたのは、お金をかけて最先端の治療を受けることだ。
お医者さんはわからないといったけど、もっと細かく調べたり、最新の技術があれば治せるかもしれない。
王立魔法学園の存在を知ったのはこの時だった。
◇◇◇
「学園に入学したら魔術師として依頼が受けられるからな。そのお金で良いお医者さんを雇いたかったんだ。それに他の魔術師なら助けられるかもしれないって」
「それで試験を受けに来たのか」
「うん。お母さんには……本当のことを言ってない。言ったら止められると思ったし」
「優しいお母さんなら心配するだろうね」
僕の母さんだって、いつも僕の心配ばかりしていた。
きっと彼女のお母さんも同じなんだ。
そんな優しい母親だからこそ、僕たちは無理をしてでも助けたいと思える。
「病っていうのはどういう症状なの?」
「えっと、風邪みたいに高熱が出て、身体に赤い痣が出来てる」
「赤い痣か」
「お医者さんも見たことないって言ってた。新種の病気かもしれないって」
病についてはあまり詳しくない。
母さんのお陰が、家にいることは病気も怪我もしなかったし。
「どういう病気かわからなくても、病気なら何とかなると思う」
「ほ、本当か!?」
「うん」
僕ではなく母さんの力なら、どんな病気でも治すことが出来る。
とは言えまず、彼女のお母さんの状態を確認しないと始まらない。
「一度お母さんに合わせてもらえないかな? 出来ればすぐに」
「う、うん! じゃあ今から行こう!」
「今からって、夜だけど寝なくて平気?」
「大丈夫! 今の話聞いたら眠くなんてならないって!」
元気になったミラはそそくさと立ち上がる。
お題はすでに払ってあるから、そのままお店の出口へ向かう。
「おい早く! アクト」
「――ああ」
僕も立ち上がる。
ようやく名前を呼んでくれたことが嬉しくて、小さく微笑む。
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