第555話 再会と師としての
カコン、ゴン
「はは、ようやく、感を取り戻したようだな」
「おかげさまでな」
先ほどから襲ってくる連撃による無数の棍に何とか対応し凌ぐ。
ググックン!
「!?」
だが次の瞬間、棍のしなりを利用した変則的な軌道の棍が襲い掛かってくる。
「ちっ」
それを見て防ぐのは難しいと判断すると、即座に腕でガードを行う。そして腕に棍が当たると双方の動きが止まる。
「……ここまでだな」
「ああ、追撃が来なくてほっとしたよ」
腕に触れている棍が下ろされると、そのまま双方とも矛を収める。
「お疲れ様です」
マシラとの模擬戦を終えると、中庭の中心から外れて、リンやノエルが待っている場所に移動する。
「どうだった?」
「……正直に申し上げてやはり鈍くなっています」
「そうか」
リンのその言葉を聞き、椅子に座る。
「うんうん、鈍っていますな~~」
「おい」
座りながら、中心で行われている模擬戦を眺めているといつの間にか隣にレオネがおり、腕を手に取り何かを確かめていた。
「何かわかるのか?」
「んにゃ、だけど微妙そうだね」
「なんだそれは」
レオネのよくわからない発言を聞き流して、中庭の中心で棍を振り回しているマシラとそれの相手をしているテンゴの姿があった。
「マシラおばさん、棍を新しくしてから調子が良さそうだね~~」
レオネが飽きたのか、腕を放すと、今度は背中にもたれかかり、同じ場所に視線を送る。
「棍を厳選したと聞いたが?」
「うん、アシラと一緒で同じ素材で作られた棍を何本も手に入れてたよ」
「まだ、いい方だろうな、なにせ」
視線をマシラとテンゴではなく、順番待ちしているアシラに向ける。そこには様々な武具を装備しているアシラがいた。
「また新しく買ったのか?」
「みたいだね~ちっちゃいおじさんたちはアシラの体に興味津々だからね、かなり安く用意してもらったらしいよ」
レオネの前半の説明だけ聞くと少し危ない気配を感じるが、当然そういう意味ではないため、無視する。
「そういえば金はどうした?」
「ん~~、少なくなったけど足りたって言っていたよ~」
レオネの話では金欠寸前だと言う。
「そこまでは関与しきれないな」
「あぁ~」
アシラの事情はこちらに関係ないと思っていると、リンの膝の上から、イオシスが乗り移ってくる。
「そういえば、クラリスはどうした?」
「セレナの報告では、自室でゆっくりとしているらしいです」
どうやらセレナと共に自室でゆっくりしているという。
「そういえばそろそろ、戻ってくる頃合いですが、進捗はどうでしょうか?」
「早ければ
現在はジアルド達が王都に到着してから、
「バアルは動かなくていいの?」
「ああ。特にやる事もないし、少し長めの休暇を楽しむだけだな」
現在はここ数年で一番安らぐ時を過ごしていた。朝、ゆっくりと起き、朝食を済ます。そして昼まで軽くあちらの状況を聞いたり、書類のいくつかを片付ける。そして昼になれば昼食を済まし、騎士達に何か異常はないかを聞き終えると、運動がてらに訓練や模擬戦を行う。そしてその後は夕食になるまでは休憩となり、夕食、風呂、再びの休息、その後、就寝というルーティンを取っていた。
(戦争で騒がしくなるかとも、思っていたが案外そんなこともなかったな)
唯一の懸念としてネンラールとの正面衝突を気にしていたが、実際にそんなことは起こらなかった。
「お休みのところ失礼いたします」
膝の上のイオシスを撫でながら程よい疲労を感じていると、一人の騎士が近づいてきた。
「どうした?」
「二名のドワーフが来訪しております」
「名は?」
「ドゴエス殿と
「??安全を確かめた後、案内してやれ」
「は!!」
こちらの言葉を聞くと、騎士は二人を案内しに戻っていった。
「久しぶりの名前を聞きましたね」
「ああ、ドミニアにいるのなら、どこかであるだろうと思ってはいたが」
「??」
俺とリンの会話の意味が分からないのか、イオシスが首を傾げていた。
二人を中庭に案内させると、中庭に用意したテーブルに着かせる。
「で、将軍様がこんなところで油を売っていていいのか?」
「仕方ないだろう?なにせ守るだけだと言うのに敵が攻め込んでこねぇんだからよ」
ドゴエスはこのドミニアの守護を任せられており、将軍と言える地位にいた。
「逆に攻め込む用意や、敵の補給路を断つようなことをしないのか?」
「少なくとも今はしない」
ジアルドの言葉は何か理由があると言う風に聞こえるが、さすがにそこまで聞くつもりはない。
「それで何の用だ?」
「用件があるのは主にこいつだな」
「久しぶりじゃのぅ、バアル様」
視線wおドゴエスから傍に居るアルヴァスに向ける。
「無事に戻れていたか」
「おかげさまでな」
アルヴァスを最後に見たのはハルジャールだったため、そのためその後の安否がわからなかった。
「しかし、何時ハルジャールを出た?」
「表彰式が終わって、ネンラールにドワーフの居場所がないと分かってからすぐじゃな」
アルヴァスの話だと、ネンラール王にその気がないと言われたすぐ後にハルジャールを出たという。
「となると店はどうした?」
「手切れ金代わりにやったわい」
アルヴァスは店も残った在庫もそのままにしてきたと言う。実際持って帰ることもできないし、すべての在庫を持って帰るのは現実的ではなかった。
「それで今日はどうした?何か用事があったのか?」
「ん?聞いていないのか?」
アルヴァスは目を丸くしながら、傍に置いてある長い箱を開ける。
「それは?」
「頼まれていた模擬用の武器じゃ、
取り出されたのは棍なのだが、その両の先端に金属の球が取り付けられていた。
「そんなもの、俺は頼んでないが?」
「あたしが頼んだのさ」
俺がアルヴァスにそういうと、その答えは後ろから帰ってきた。
「
背後を振りむくと、汗を拭っているマシラの姿があった。
「なぜ?」
「そりゃ、お前に合った使い方を学んでもらうためだ」
マシラの言葉を聞いてテーブルに置かれたその棍を眺める。
「通常の棍と何か違うのか?」
「全然ちがうぞ」
こちらの言葉にアルヴァスが説明し始める。
「まず、この棍の特徴じゃが、見てわかる通り、この両端じゃな」
「その球か?」
「いや、球もそうじゃが、それよりも重要なのは重量じゃ」
「重量?」
「とりあえず振ってみぃ」
アルヴァスの言葉を疑問に思いつつも、とりあえず言われた通り棍を振るってみる。
「??先が重い?」
「正解じゃ」
振ってみた感覚では通常の棍よりもより遠心力を感じ、引っ張られるような感覚がしていた。
「この棍は特別製でな両端の球はもとより、中央よりも先になればなるほど重い金属を使用しておる。それゆえに振る際に生み出される遠心力は増し、その分威力が増すことになる」
アルヴァスはそう言いながら武器の各部を示しながら特徴を話す。
「おそらくハルバードを使っていた弊害じゃろうが、お主は振る力が長けている。ならばそれに適した武器が必要だと判断したと言う事じゃ」
「ああ、以前マシラにそんなことを言われていたな」
アルバングルにいたころ、マシラに稽古をつけてもらう理由がハルバードよりも棍の方が適しているという事だった。だがそれでも体がハルバードに慣れ過ぎていた故に振るう力が鍛えられていたという。
「その代わり、突きなどをしにくくバランスが悪いが、振るうことに傾注すれば特に問題はないだろ」
「だから、これを発注したのか」
最後のマシラの言葉に問いかけると、肯定の頷きが帰ってくる。
「ふむ、では有難く使わせてもらおう。もちろん代金は全てこちらで立て替えておく」
マシラにそう告げて、少しばかりはなれて、一通り振るってみるのだが。
グニッ
「!?、っと」
手に変な感覚が伝わるので振るうのを止めて確認すると、棍の手元当たりの金属が少しだけ歪んでいた。
「どうなっている?」
「ふむ、やはり素材が均等ではないため、少し脆いか、説明はいるか?」
アルヴァスの言葉に当然だと頷くき、棍をアルヴァスに渡す。
「一言で言えば様々な素材を使用した弊害じゃな。先端に重心を集めるために重い金属や、やや軽い金属をそれぞれ織り込んでいたからのぅ」
「こんな柔いなら話にならないぞ」
「それは申し訳ない。どうやらバアル様の振るう力が思ったよりも強かったようじゃな」
アルヴァスは棍は普通に使えるように調整されているという。なのに壊れたということはその普通では収まらない力の入れようをしているかららしい。
「なら、使えないのか?」
「いや、金属を変えれば使えないことは無いじゃろう、ただ、それにはあの溶鉱炉で金属を使わなければいけないが」
「今は稼働させてねぇぞ」
アルヴァスの言葉を聞いてドゴエスが戦時中は本格的に稼働はしていないと言う。正確には動かせる人員を駆り立てているため動かせないらしい。
「具体的にはどうなっている?」
「一言で言えば芯の部分の金属が少し弱かったんじゃな。構造では――」
それからアルヴァスは説明を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます