第550話 事前三ヵ国会議
飛空艇が降下を開始してから、幾度となくバリスタの矢が飛んでくる。だが、それらは飛空艇に当たることなく、外れるか、魔障壁により受け止められて落下してくるかの二択となっていた。
その度に落ちてくるバリスタの矢をリンや、オーギュストが受け止めたり弾き飛ばしていく。リンは風で落ちてくる方向を変え、オーギュストは先ほどの様に触手で落ちてくる弾を支える。
そして飛空艇が降下するにつれて着弾点が確実に宿泊所に近づいてくるため、本来ならそちらも警戒しなくてはいけないのだが――
ゴォン!!
「……相変わらず丈夫だな」
バリスタの矢が宿泊所に直撃すると、建物に白い樹の影とも呼べる物が現れて、バリスタの矢を防いでしまう。
「それでも
「音?それがどうし――」
「あれを見てごらん」
ダンテに何の問題があるのかを聞くと、宿泊所のある一点を見ろと言われる。そこではまさに怒りの形相となっているクラリスの姿があった。
「……なぜ?」
「あそこには突然大きな音で怖がる、かわいい子がいるじゃないか」
ダンテは面白いのか笑顔でそう言ってくる。
「そういえば、ここに来る前にクラリスさんとレオネ、マシラさんでイオシスを寝かしつけていましたね……」
リンは気の毒そうな表情でそう告げる。
「……俺が悪いのか?」
クラリスが完全にこちらを責めているような表情に思わず問いかけるが、周囲は目を逸らすばかりで誰も答えてくれるものなどいなかった。
その後、オーギュストを宿泊所の上に送り込み、弾を防がせることでひとまずはクラリスは納得して、部屋の中に戻っていく。
そして飛空艇が防壁よりも下にまで降りてくるとようやくバリスタの弾は飛んでこなくなる。
ただ、飛空艇はそのまま着陸するのではなく、上空5メートルほどの場所で停滞すると、入り口部分が開きそこから三人の影が降りてくる。
「ほっ!!!」
「よっ」
「っと」
三つの影が降り立つと、一つが重く、二つが軽い足音を鳴らされる。
「お久しぶりですな!バアル様!」
「
降りてきた大柄な影はイゴール・セラ・ニュレア、ゼブルス家の騎士の中でも最古参であり、父上の懐刀と言われている騎士。老年ながらその大柄な体が衰えていることもなく、現役で活躍している。
「隊長、早速行いますが?」
「ああ、やれ」
イゴールの後ろから声を掛けてきた騎士はアルフレッド・アラスト。ダークブラウンの髪を短く揃え、優しそうな相貌を持つ青年。ゼブルス家の支給する鎧を着こんでいる。装備は左手に盾と左腰に片手剣が携えられている。また、背には自前の灰色のマントを着ており、これが彼の象徴とも言える魔具だと言う。
「では、『仄暗き灰套』」
アルフレッドが呟くと、背中に付けているマントが灰となり、周囲に薄く広がっていく。
「どうだ?」
「……罠や地面に細工はしていないです」
傍に居る騎士がシャムシールの様な剣を肩に掛けて、アルフレッドに問いかける。
「ということで、安心してください」
そう言ったのはカミーロ・セラ・エステバン。エステバン子爵家の長男にして、本来であれば家を継ぐ立場にあったのだが、何を思ったのか家督を弟に譲り、ゼブルス家の騎士になっていた。様相は飄々とした見た目をしており、やや長めに伸びた茶髪を頭の後ろで結んでいた。またカミーロはアルフレッド同様、ゼブルス家の鎧を着こんでいるのだが、身軽さを気にしているのか、いくらかの装備は取り外されており、何やら軽そうで色合いのある装備を身に着けていた。
「おい、カミーロ、もう少し慎重に確認せい」
「ですがイゴールさん、こういったことでアルフレッドが間違えたことが有りましたか?」
「ない。だが、お主が言うと信憑性が薄れる」
「ひど!」
イゴールの言うことも理解できる。なにせカミーロの言動は信用できるものではないため、しっかりとした報告でも手抜きしているように聞こえてしまう。
「アルフレッドだな、飛空艇を下ろして大丈夫そうか?」
「はい、ただ、ドワーフの人たちが信用できるのならと着きますが」
アルフレッドの優しそうだが厳しい視線がドワーフたちに向く。
「問題ない。ここで飛空艇を調べるために奪取しても、それはこの一隻だけとなるため、結局は積むだろう」
「わかりました」
そういうとアルフレッドは何やら飛空艇に向かって手を振る。それを見て安全だと判断でしたのか、飛空艇は降下を始め、ようやく着陸するのだった。
飛空艇が着陸してからは、やや慌ただしくなる。飛空艇が着陸すると、数十秒もしないうちにゼブルス家の騎士が出てきて飛空艇の周りを警護し始める。一応は友好的とはいえ、奪取される可能性が少しでもあれば最大限の警戒をするためだ。そして飛空艇の周囲で安全が確保できればようやく、目的の人物が降りてくる。
「最近はよく顔を会わせるね」
「全くだ」
ゼブルス家とは違う騎士を連れている人物に近づくと、握手を交わす。
「それで
「
その言葉に苦笑する、なにせ話に加えてくれれば全面的に協力しようと言っているようなものだ。
「なら、込み入った話は中でしよう」
俺の言葉でレナードとジアルド、それぞれの護衛数名を引き連れて、宿泊所内に戻るのだった。
宿泊所に戻ると、俺たちは会議室とも呼べる大部屋に集まる。
「さて、まず今回の物資でバアル君を除く来賓を全て解放する、この話に間違いはないですね?」
それぞれが席に着くと、軽く自己紹介をして早速話に入る。
「いや、それはできない」
「……本気でおっしゃっていますか?」
ジアルドの拒否を聞くと、レナードは笑顔のまま威圧のある視線でジアルドに向き合う。
「知っての通り私達は飛空艇による輸送が生命線とも言える。その生命線の要はバアル殿、そしてそのバアル殿を縛るために必要なのがあの来賓たちとも言える」
その言葉を聞いて、思わず笑ってしまう。
「バアル君、どうした?」
「いや、なんでもない」
笑い声が聞こえてしまったのかレナードがこちらに視線を向ける。
「さて、お互いにまどろっこしい話は無しにしないか」
「バアル君、それでは私の出る意味がないじゃないか」
「そうは言っても、こちらとしてはたいしてやる意味のないやり取りは省きたい」
そういうと、双方とも黙り込む。
「まずそれぞれの要求だが、俺たちは今までネンラールにより手に入れることが出来なかった合金やその技術が欲しい。もちろん製法を明かせと言う話ではないから心配はするな」
ジアルドが口を挟みそうだったため、先んじてそう告げておく。
「次にドワーフ側からは当然の様に餓死しないための食糧が欲しい異存は?」
「ない」
「この通り、双方の利害が一致しているのにも関わらず事態が面倒になっている理由だが」
「ネンラールとイグニア殿下と率いている東部の貴族だね」
「その通りだ」
ネンラールは指をくわえてドワーフたちの独立を見ているわけではない、確実に妨害を行ってくる。もちろん東部たちもネンラールと繋がることで利益を得ていた連中はこちらの邪魔をしてくるだろう。またネンラールの基盤を持っているイグニアも同じこと。
「そしてそれらの妨害を黙らせるために君と来賓たちが必要になると?」
「違うか?」
「その通りだろうね」
レナードはこちらの言葉に同じく同意する。
「だが、こちらも何も見返りもなく、食料だけを渡すことはあり得ない」
「もちろん私たちも無償で食料を得ようとはしていない」
レナードの言葉にジアルドが同意する。
「さて、バアルの筋書きでは この後どうするつもりかな?」
「簡単だ。最初は来賓を連れて帰るのではなく、ドワーフの
そこまで言うとレナードは、その先が理解できたのか納得の表情を浮かべる。
「使節団というと
レナードの言葉に頷くのだった。
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