第549話 楽観視の理由
宣戦布告を聞き終えてから数時間後、宿泊所に戻った俺は再びドワーフに呼び出されていた。
「……見えてきたな」
「「「「「「おぉ~~~~~」」」」」」
空を見上げるとかなり高い位置に、下から見るとクジラの様なシルエットの何かが飛んでいるのが見えていた。
「それにしても、わざわざ
呼び出されたこの場所は宿泊所のすぐ隣に作られた何もないスペースだった。本来はそれなりに大きい家が存在していたのだが、人族が所有していたということで何の遠慮もなく瓦礫の山となっていた。ただそれだと飛空艇を停めることはできないため、瓦礫を撤去して、わざわざ上塗りする様にコンクリートの様な物が張られていた。
「なに、瓦礫だけを撤去して、その下に穴でも掘られているならまずいじゃろ?それに今後のことも考えて、下をコンクリートで固めてしまうのが最善じゃったからな」
俺の言葉にこの場にいるドイトリが返答する。
「しかし……本当に空飛ぶ船があるとはのぅ」
「ああ、私もこの目で見るまでは、半分疑っていた」
ドイトリが空を見上げながら言うと、その隣にいるジアルドも感慨深そうに告げるのだった。
「あるからこそ、この反乱を起こしただろう?」
「ああ、存在はわかっていた。だが、やはり聞いただけでは、ありえないとも考えてしまうだろう?」
ジアルドは存在は確定していると分かっていても、やはり初めて見るまでは疑っていたみたいだ。
『気を付けろ!!!!奴らの砲撃が始まった!!!!』
防壁の上から警報が発せられる。
「バアル様」
「最初は様子見だ」
飛空艇は上空がある、それは高ければ高いほど、下からの矢などの投擲物の威力が弱まることを意味している。
ドン
ドドン
ドゴン
リンに出番がまだなことを説明すると、照準が合っていないのか、丸太の様なバリスタの矢が防壁の向こう、またドミニアのどこかに飛んできて重い破壊音を響かせる。
「ふむ、頑丈であるな」
ドミニアの中に飛んできた砲撃を見ていると、オーギュストがそう漏らす。それもそのはず、バリスタの弾はイグルーような建物直撃するのだが、建物はほとんどの無傷のまま、バリスタの矢を受け流し、道や建物の間に押し出していた。
「安心せい、元々儂らの建物は、巨大な噴石に耐えられるように設計してある。下手な威力の矢など、まず通さんよ」
その言葉を証明する様に落ちてきたバリスタの弾は何度が跳ねて、そのまま地面に横たわるだけだった。
「さて、わざわざ照準を修正する隙を与える必要もないか、ヴァン、やってくれ」
「おう、わかった」
相手が試射をしているうちに飛空艇を下ろしてしまおうと考えて、ヴァンに指示を与える。
「ふ!!!」
ヴァンは空白の中心に立つとそのまま自身を起点に、大きく円を描くように火を灯し始めた。
「さて、これで理解すればいいが」
そしてこちらの意図が理解できたのか、ヴァンが火を出し始めてから数十秒もしないうちに飛空艇は急速に高度を下げ始めるたのだった。
ケートスはドミニアの丁度真上に位置すると、少しばかり斜め下に向かう様に降下を始める。ただ、さすがに全速力での降下はできないため、その速度は通常の移動よりも遅くなる。
そうなれば―――
「狙いが定まってきたな」
先ほどまでかなりバラバラだったバリスタの着弾地が、丁度宿泊所を起点に扇状に広がる様になってきていた。それはつまり照準を降りてきている飛空艇に合ってきたことを意味している。
「あ―――」
そして上を見上げていたリンは思わず声を発する。その理由は同じ方向を見ていたため理解できた。バリスタの弾の一つが、飛空艇にまっすぐ向かっていたのだ。
(無事に
ある機能のことを思い浮かべていると、バリスタの弾が飛空艇まで残り数メートルという位置にまで到達する。飛来する速度からつぎの瞬間には激突すると誰もが思ったその時。
キィン!!
ヒューーー
なにやら硬質な音が聞こえると、続けて、落下する音が聞こえてくる。
飛空艇に止められたバリスタの弾は受け止められたことで速度が無くなり、そのまま落下してくる。だが、垂直で落ちてくるとなると、当然着弾点は此処になるため――
「ジアルド様、お逃げを!!」
「盾を構えろ!!!御身に傷をつけさせるな!!!」
ジアルドの周囲にいるドワーフが、すぐさま大盾をジアルドの上部と四方に向けて構える。
「オーギュスト」
「お任せを」
それを横目にオーギュストに一言告げると落ちてくる大質量のバリスタの矢に向かって触手を伸ばし始める。最初は太い触手を何度も弾き飛ばしながら落下するものの、結局は落ちる前にオーギュストによって受け止められることとなった。
「ふむ、これはどうするであるか?」
触手でバリスタの矢を目の前に類寄せる。
「遠くで見えていた時から思っていたが……大きいな」
バリスタの矢は全長3~4メートル、太さにして大体50センチという、まさに丸太と言い表せる大きさだった。
「それ以外に、何かが存在している…………ことも無いな」
何か特殊な細工がしていないか、調べるが、一見しただけでは、何の変哲もないバリスタの矢だった。
「のぅ、バアル、なぜ飛空艇は無傷なんじゃ?」
無事にバリスタの矢が回収されると、ドイトリが上空を見上げながら問いかけてくる。
「弾は飛空艇に当たる前に止まったように見えた。それにバリスタが止まったときに硬質な音も聞こえたが?」
ドイトリはそのことについて聞くまで動かんという風な表情をしている。
「簡単だ、飛空艇には飛来してくる者に対して
「
魔障壁の魔法はごく簡単、ある
そのため、魔力さえあれば子供ですら簡単に扱えるほど。ただ、問題はその消費する魔力量にある。
「あれだけの質量の威力を止めたんじゃ、膨大な魔力を消費たんじゃろう」
「そうだろうな」
魔障壁の硬度だが、これは魔力の密度とも言える部分が必要だったからだ。もし1センチ四方の魔障壁を作り出すとき、同じ大きさで1の魔力しか放出できない放出部分があるとしよう。だが当然、その1の魔力の硬度しか得られなく、それでは止められる物は限られてくる。なら、より硬くするにはどうするか、それは放出する量を増やすか、放出範囲を広げて、それらから一点に魔力を集めるかという選択しかない。
前者に対してはごく簡単、1方向への魔力の圧力とも言えるもので飛来する物を押し返すだけ。だがこれは、正直なところ常識的とは言えない。なにせ人の魔力全てを一点から放出でもしない限り、まず効果は得られないからだ。そして人が飛ばせる魔力の圧はタンクの中の水圧と同じく、その人が持つ残存魔力量に依存する。そのため、消費すれば消費するほど効果が落ちてしまう。
後者はより広範囲な放出部分から一定の場所に向かって魔力を放出すること。例えるなら、紙を折り畳むことに近い。例えばある形の百倍の面積を持つ紙を用意したとしよう、それは上手く折り畳めれば通常の100倍厚いある形を作り出せることを意味している。魔障壁も同様で放出魔力が1でも、その分放出範囲を広げて集めれば、その分魔障壁は堅くすることが出来る。ただ、その場合は極めて緻密な魔力操作が求められてしまう。
前者と後者を比べるとすると、イメージとしては前者は威力のある消火器で、後者は盾に近い。
またおそらくは魔力が100MPあっても、それでようやく矢を止められる硬度の障壁を数秒発動できるというぐらいだ。正直なところ、もし矢を止めると言う事だけの一瞬に、魔力を使うぐらいなら、まだ全身武装して、その100の魔力で身体強化をして、飛んでくる矢を防いだり、打ち落としたりする方がはるかに効果的で難易度が低かった。
そのため、簡単なれど、ほとんど実用的とは思われてはいないのが
「あれ?それって」
リンが障壁という言葉を聞くと、俺の腕にはまっている魔道具に視線が向く。
「ああ、純粋にこれの大型版だ」
「確かに……発動していれば魔力が続く限りはいくらでも防げますね」
リンが示した魔道具は俺の清めの際にエルドに渡した、そしてフシュンたちが銃を持ち込んだ後クラリスたちに渡した、あの『守護の腕輪』だった。そして原理が同じ大型版の魔道具を飛空艇にも積み込んでいるため魔力さえあればいくらでも防げるはずだった。
(まぁ、膨大な魔力がある前提なら、魔障壁ほど防御に適した魔法もないだろうからな)
完全に防御しかできないが、その分有用性が増す。何より原理が単純なため魔道具にとても組み込みやすかった。
「それでも、魔力が無尽蔵というわけではないからな。限界まで打ち続けられれば魔力が切れて防御どころか、飛行が危うくなるかもな」
「!?大丈夫なのか」
俺の何気ない一言にドイトリは慌てる。
「大丈夫だろう」
俺は上空にを見上げる。
(なにせ、
今はある機能で、姿を見せていないが、それが存在している限り、まず飛空艇に当たるバリスタの数より防げる回数が多くなるはずだった。
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