第546話 手紙の行方
昼食が終わり、引き続き仕事を続けることになる。そして邪魔をするだろうイオシスは、部屋の中でヴァンが火を使った芸を見せることでそちらに注目するので、俺はスムーズに仕事をこなせるようになった。ただそれで思う様に、とはいかなかった。なにせ部屋の中には興行を見るかのようにクラリスや獣人達が存在していたからだ。
それでも、邪魔はなかったため、注意しながらでも仕事は進んだ。
そして夕暮れにまでなると、ヴァンも芸が尽きたのか、自然と解散となる。それに伴って、俺も仕事を終えて、休息入ることとなる。
「で、ようやく解放?」
休息を取り夕食を済ますと、俺はオーギュストとダンテを連れて、地下室に向かう。そこでは、まるで自室の様に寛いでいる。
「ああ、すでにお前たちを受け取る奴が来ている。後はお前たちを受け渡すだけで終わりだ」
「う~~~ん、久しぶりに骨休めで来たからね、今回はむしろ感謝できるね」
俺の言葉でオーギュストの手枷が外れると、フィアナは大きく伸びをする。
「……で、先に来たのには何か話があるの?」
「いくつかな……アジニア皇国の皇帝をお前たちはどのように感じてる?」
こちらの問いにフィアナとクロネは顔を見合わせる。
「さぁね、私たちは一応探ってはいたけど、本格的に知り合ったのはこの依頼だけだからさ」
「人なりはいいほうだと思うぞ」
フィアナとクロネはそうとしか答えられないらしい。
「あの皇帝がユニークスキルと持っていることは?」
「知っているよ」
「ならその頼みだ。お前の依頼が終わるまでに分かった、あの皇帝のユニークスキルの能力を後で
そういうと、二人とも、少々険しい顔つきになる。
「報酬は?」
「いくらほしい?」
「そうだね、飛空艇一隻なんて……嘘です、すみません」
バチッ
フィアナのジョークに思わず笑顔で帯電するとフィアナが謝罪してくる。
「なら、俺たちに敵対しない限りはそれなりの便宜を図ってやる、でどうだ?それと取れた情報の重さに加えて金貨も出そう」
そういうとフィアナは何かしら考える仕草をする。
「それ、今すぐ?」
「いや、今すぐでなくてもいい。お前たちが受ける気が無ければ、俺の前に現れなければいい話だ」
フィアナ達が受け入れる気が無ければ、こちらに来なければいい話だ。そしてこちらもできれば情報が欲しいと言うだけの話で、無理に受け入れる必要がない程度の依頼でもある。
「はいはい、了解」
「では、連れていけ」
「「「は」」」
フィアナが適当に返事をすると、俺は騎士に声を掛けて、宿泊所の前にいるドイトリの元に連れて行かせる。
「では、これを被れ」
「うわぁ、もう少し綺麗なのなかったの?」
騎士の一人が地下室を出ようとしているフィアナとクロネにボロを与える。さすがにそのまま宿泊所を出歩いた時、クラリスと鉢合わせしても問題ないようにだ。
「バアル様、その話は前向きに考えさせてもらうよ」
その言葉だけを残してフィアナとクロネは地下室から出ていくことになった。
その後、フィアナとクロネが無事にドイトリに渡されたのを窓から確かめ終えると、そのまま自室に戻ると。
「あ~」
「なんだ、まだ寝てないのか」
自室に戻ると、そこにはベッドの上でリンに抱き着いているイオシスの姿があった。
「はい、寝つけようとしても、意味が無くて……おそらくですが、バアル様を待っていたのかと――」
ブルル
リンの言葉と同時に通信機が反応する。
「リン、音を遮断してくれ」
話を遮り、指示を出すと、通信機を取り出す。
「誰ですか?」
『バアル殿か?グラスだ』
通信機の先からグラスの声が聞こえてきた。
「何かありましたか?」
『今日の昼、ユリアの
その言葉を聞いて、少しばかり眉を顰める。
「ユリア本人は?」
『どうやら、現在は無事にネンラール軍を通過して、グロウス王国へ向かっているらしい』
「……どういうことですか?」
ユリア本人はいまだネンラール国内にいるのに騎士の一人が既にグロウス王国国内にいるという。
『その騎士の話によると、ユリアは道中にバアル殿からの手紙を複製して、50人のうち10人に同じ手紙を持たせて、様々なルートで先行させたらしい』
「へぇ」
ユリアのその行動に感心する。
(ようやく、周りが見えるようになってきたようだな)
今回の行動はユリア自身がネンラール軍により、拘束される可能性を考えてのものだろう。
「それで、手紙は?」
『現在、地方貴族の協力で早馬を乗りつぶして、ゼウラストに向かっている。それも影の騎士団が協力しているため早ければ明日の夕暮れにはついているだろう』
どうやら、手配は済んでいるらしく、迅速にその手紙を運んでいるという。
「一応確認ですが、中身は?」
もし白紙の手紙だった場合、ユリアに通信機の存在が知られると考えて、そう問いかけるが。
『問題ない。中身はきちんと記されていた。それがバアルの手紙と一言一句同じかは判断できないが、それさえ届けばとりあえずは動けるだろう。それと本物はあとから持参するというユリアの手紙も含まれている』
ということで複製された手紙でも一応の効力が出るようにされている。それにユリアの名前を出した時点でそれはグラキエス家の責任にもなるため、詐欺の心配もない。
「そうですか」
グラスの言葉を聞きながら、次の動きを考える。
「それで王家の方はどうなっていますか?」
『……現在陛下が強権で不満を押し留めている。わかっていると思うが、陛下に期待に応えることだ』
「ええ、それはもう存分に。ほかに報告がありますか?」
『一つある。アズバン家のレナードが公にバアルに賛同すると声を上げた』
何てこともないように告げられた内容が意外過ぎて、少しの間動きを止める。
「狙いは?」
『さぁな、外務で協力するにあたっての、根回しではないのか?』
アズバン家は外務大臣として存在している公爵家。最近はアルバングルの交易と大使の任を俺に取られていたが、ここでその分を補填しようとする考えなのかもしれない。
『これは私の勘だが、ここでバアルに協力しておいて恩を売るだけだと思っている』
「なるほど」
だが、今回のことで手を貸したのだからどこかで返せと言うことだと、グラスは推測しているという。
「どちらにせよ、国内の不満が爆発する恐れが減り、着実に事態が進んでいるわけですか」
『ああ、すると今度はゼブルス家の進捗の問題だけだ』
「そちらは大丈夫でしょう。すでに父上には連絡しておりますので」
連絡はすでにしており、ケートスの一つをすでに抑えているため、問題ないと判断している。
『それならいい、ただ、失敗するなよ』
「ええ、わかっていますよ」
こうしてグラスとの連絡が終わる。
(ユリアの問題が片付いた、となれば手紙が父上の元に届き、あとは父上と王家、そしてジアルドに動き出してもらうだけだな)
脳内でこれからの行動について整理するのだが―――
グッグッ
「う~~」
「だめですよ」
いつ間にかベッドを降りたイオシスがズボンにしがみつき引っ張ってきていた。
「お話は終わりましたか?」
「ああ、少々、想定外の存在もいたが、概ねな」
レナードが関わってきた部分に関しては予想外だったが、お互いにとって悪いことではないため、問題ない。
(問題はどんな形で恩を返せと言われるかだ、さすがにアルバングルの利権は渡すつもりはないが)
アズバン家のことを考えながら、イオシスを抱き上げる。
「なんにせよ、なんとかなるだろう」
「ん~~」
こちらの呟きが聞こえたのか、イオシスが声を上げる。
その後、自室では穏やかな寝息が三つ聞こえるのだった。
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