第545話 後天的な能力
「あ~~う~~!!!」
翌日、朝起きてから朝食を済ませ、自室で昨日思い浮かんだ案にそって、飛空艇の設計図を作成しているのだが、それを邪魔する様にズボンを引っ張っているイオシスの姿があった。
「……リン」
「ふふ、はい」
イオシスの様子に作業が邪魔されるのでリンに引き取る様に指示を出す。
「い~!」
だがイオシスは俺の足を盾にするようにリンの腕から逃げ出す。
「…………どうしたらいいですか?」
「いや、俺に聞くな」
リンはその様子を見て無理強いできないようで、こちらに聞いてくる。
「仕方ない」
「!?あ~」
俺は足元にいるイオシスを捕まえると、そのままリンに渡す。
「ちょっと、暴れ、ないで」
リンに抱かせるが、イオシスはじたばたと藻掻く。
「……仕方ない、ノエル、ヴァンとマシラを呼んできてくれ」
「わかりました」
喚き、暴れるイオシスをなだめるために、仕方なく、二人を呼びに行かせる。
(もう少し聞き訳がいいなら、楽だったんだがな)
「ん~~」
仕方なく、リンからイオシスを受け取りながらそう思うのだった。
「何とも面白い事態じゃないか」
「マシラ、これじゃあ、俺の方で仕事が進まない」
部屋に二人を呼ぶと、マシラがこちらの表情を見て笑いそうになっている。
「子供が構ってほしがるのは仕方ないさ。それにバアルの傍でウロチョロしているだけ、まだあたしの子供たちよりはましさ」
それからマシラは愚痴り、アシラとそのほかの二人の娘たちについて話し始める。
「勝手に家やその周りを壊し荒らしまわったり、少し目を離しただけで泥だらけになる、果ては夜泣きがすごいのなんのってな。それに比べればバアルの周りでしか行動せず、夜泣きもせずにぐっすりと眠るイオシスは子供の見本だよ」
マシラはそう言うのだが。
「その理由が、地底世界で生活していたことに起因していないなら素直に喜べたがな」
先ほどマシラが言った、俺の周囲にしかいないと言うのは、傍に居れば安全だと身に染みているため、そして夜泣きしないのは、声で相手に居場所を知られないためだろう。
「……悪かった」
マシラは少々バツの悪い顔をして謝ってくる。だがこちらは気にしていないので肩を竦めて気にするなと告げる。
「それで、イオシスをあやせばいいのか?」
「頼めるか」
「任せろ」
それに対してヴァンはイオシスをあやすのに乗り気だった。
「俺はチビ共で慣れているからな、よっと」
ヴァンは袖を捲ると、捲った腕の上に炎を生み出す。
「一応言っておくが、火傷には注意しろよ」
「大丈夫だって」
そういうと、ヴァンは腕の上にいくつかの炎を灯し始めて、その炎が次第に姿を変え始める。
「お~……」
急に火が起こったことに少しだけ怯えたイオシスが、危険が無いと知ると、徐々に炎を食い入るように見つめ始めた。
「バアル様、今のうちに」
イオシスが気を取られているうちにイオシスをリンに預けると、イオシスは抵抗もなくリンの腕の中に納まり、次々に姿を変えていく炎を見詰める。
(はぁ、これだと、仕事する時にはヴァンが必須になりそうだな)
そう思いながら、テーブルの上で火の芸を見せているヴァンの傍を離れて、少しだけ離れた場所で作業を再開し始める。
それから、昼食前まで作業は滞りなく進む。もちろん飛空艇に関してのことなので、見えないように作業する必要はあったが、それでも常に引っ付かれるよりは作業が進んだ。
「へぇ~、そんなことをしてたんだ~」
「行ってくれれば、私があやしてあげたけど?」
昼食になると、ノエルが昼食を運んできて、自室で取ることになるのだが、その際になぜかレオネとクラリスの姿があった。それと暇なのかそのほかも集まってきていた。
「リンでも無理だった、お前らにできるとは思えない」
「やってみなければわからないじゃん」
二人はイオシスにむしろ構いたい姿勢を取っているが、あの時、二人がいてもどうにもできる気がしない。
「はぐはぐ」
「ああ、もう」
そしてそのイオシスだが、リンの膝で同じようにパンを食べている。ちなみに食べる時に落とす食べかすと、口元についているソースに、その都度リンのお世話になっている。
「そういえば、どうやって炎を出しているのであるか?」
背後で護衛しているオーギュストが視線をイオシスではなく、さきほどまで火でイオシスをあやしていたヴァンに向く。
「そういえば、俺も知らないな」
ヴァンの能力については炎を操ると言う事しか理解していない。
「……そういえば話してなかったか?」
ヴァンは記憶を探って言ったか言ってないかを探し出す。
「ユニークスキルではないのであるな?」
「……ああ、そうだ」
ヴァンは話したくなさそうに重く頷く。
「訳アリの様であるか、聞いても?」
「面白い話じゃないがな」
ヴァンはその言葉の後、パンを一気に口に詰め込んで飲み込む。
「俺が、違法奴隷だと言うことは?」
「それも初耳であるな」
「じゃあ、最初からだな」
オーギュストが何も知らないことを理解するとヴァンは口を開け始める。
「俺はグロウス王国の何の変哲もない子供だった。だが、ある時村が賊に襲われてな、その時にめぼしい奴らは攫われて奴隷に落とされたんだ」
「ふむ、それで違法奴隷であるか」
オーギュストも奴隷制度については多少知っているらしい。
「それで俺はクメニギスの豚に買われてな……いやなことをいろいろとやらされたよ」
ヴァンは怒気を発しながらそう告げる。
「ただ、豚の趣味は幼い子供だったらしく、ほどほどに成長した俺は別のところに渡されたんだよ」
「渡されたのであるか?売られたのではなく?」
オーギュストはその言い回しに少しだけ違和感を覚えたらしい。
「オーギュスト、違法奴隷を手に入れた時点で、気軽に売ることはできない。売った先で解放でもされれば後が面倒だろう?」
「なるほど」
俺の説明でオーギュストはそのことについて理解するとヴァンに続きを促す。
「そこで渡されたのが、異常な学者でな、
「ほぅ」
「へぇ~」
ヴァンの言葉にオーギュストだけではなくロザミアが反応した。
「どんな、内容か聞いても?」
「なに、簡単な話だ。奴は俺の体に魔具を埋め込んで、その結果を調べた。それが、これだな」
ヴァンは服を脱ぎ、背中を見せると、そこには痛々しく埋まられた魔具が存在していた。
「「「「っっ」」」」
無理やり埋められた背中を見て、リンやノエル、クラリスや獣人達は表情をゆがめている。
「ふむ、これらについて聞いていいであるか?」
「ああ、俺に埋め込まれたのは―――」
ヴァンからの説明で埋め込まれた魔具は4つ。
一つは、ペンダント型の魔具で効果は体から炎を生み出す魔具。赤い宝石とそれを包むように金色の羽の様な装飾が存在している。だがそれ以上に興味を引くのは鎖ごと埋め込まれていたことだ。ただ、これは耐性の付与はなく、炎を出してしまえば、その分火傷をしてしまう代物らしい。
二つ目は、一対の耳飾り型の魔具。これは周囲の体温を奪う代わりに、急速に回復する魔具らしい。ただ周囲の温度とは自身の体温を含むため、下手をすれば低体温症、最悪は死にかねないほどの魔具だという。
三つ目は、手首から指の付け根までしかない金属製の籠手の魔具。ただこれは手袋の様な物ではなくそれぞれの指の付け根にリングを通して、そこから手の甲に沿う様にして、手首で固定するタイプの物だった。これは触れている炎を操るための魔具だと言う。ただ、これも火の耐性を付与する物ではないため、これだけを使用してしまえば火傷をしかねないと言う物らしい。
四つ目は、何やら心臓に棘のついた鎖が巻き付いてる気味悪いブローチ。これの役割だが――
「生命力を強くする代わりに、自身の
「……だから無事なのか」
ヴァンの魔具は全て耐性を付与するものではない。となれば自然と耐性を得るはずなのだが、これのおかげで耐性を無視できるという。
(おそらくだが、拒絶反応もこれで無効化しているようだな)
通常体に金属を埋め続けるとアレルギー反応が出てもおかしくない。だが、これのおかげでその反応を抑えつけているようにも思える。
「しかし、うまくかみ合っているのであるな」
「ああ、だが、これは別に埋め込む必要はないんじゃないか?」
俺とオーギュストは魔具なのだから装備すればとも思ってしまう。
「聞いた話だと、どれも発動が限定的なんだってさ」
炎を生み出す魔具だが、これはペンダントの周辺にある部分から発するだけとなるため、主に胸元辺りでしか発火しないと言う。そして耳飾りも耳に掛けることから真っ先に頭部が冷えてしまう事態になるため、使いにくいという。籠手に関しては手に装備しても、効果がその掌にしか発動しないとのこと。
「だけど、それぞれを体に埋め込むことで、効果の範囲を体全体にしたらしい。最後のは、俺が死にそうになって、生命力を高めるために埋め込まれた」
つまり丁度いい実験だったらしい。
(確かに、魔具の周囲の体のみだった時、体の中に埋め込んだ時どうなるのかは気になるな)
本来なら、同情すべきなのだろうが、真っ先に興味を引いたのが、その効果だった。
「その後、魔具を埋め込まれてからしばらく実験に付き合わされて、うまく操られるようになってから脱出したわけだ」
「追ってはなかったのか?」
「もちろんあったさ、だけど逃げ出してからしばらくして、髪が変色してくれてさ。うまく逃げ切れた」
ヴァンは何てこともないように言うが、だいぶ重い話だった。
「ふむ、取り出そうと思わないのであるか?」
オーギュストの言葉にヴァンは視線を逸らしながら頭を掻きながら答える。
「もちろん、最初はそれも考えた。だけど今は、取る必要はないと思ってる。経緯は最悪だが、この力でチビ共も守れるし、何より役に立てる」
「……そうであるか。何かあれば言ってほしいのである。できる限りは力に成ろう」
「おう、ありがとな」
そしてヴァンの軽い声が重い空気を払い、昼食が終わるのだった。
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