第544話 効力を持つ枷
領主館での会合とドイトリ達に出した製作依頼を終えると日も落ちてきたため、俺たちは宿泊所に戻ることになった。
そして食事を済まし、ようやく自由にできる時間となるのだが。その前に
「―――ということで明日の夜、ドワーフにお前たちの身柄を明け渡すことになった」
「やっとか~~~」
薄暗い地下室でフィアナとクロネに解放の予定が着いたことを説明すると、フィアナはわざわざ用意されたベッドに横に成りながら伸びをする。
「まぁ、その前にやってもらうことが有るがな」
「…………変な事じゃないよね?」
フィアナがノリなのか、本当に疑心を持っているのかわからないが、話を進める。
「これに署名してもらうぞ」
「ん?なにこれ?」
「簡単な契約書だ」
フィアナとクロネの前に差し出したのは、何の変哲もない契約書。ただ、それは
「えっと…………つまりバアル様が何をしていたか漏らさなければいいって言う事?」
「その通りだ」
フィアナ達に渡した契約書には、俺と会った場所やその行動についての情報の漏洩を禁止する旨が記されていた。ちなみに漏洩とは口頭でも文面でも伝える意思がある手段全部を指している。
「それと、破った際に代償は命って書いてあるけど?」
「そうだな?」
「……重すぎない?」
フィアナのその言葉に笑顔だけを向ける。
「おっと、しまった、そういえばクラリスに呼び出されていたんだった、長く間を空ければここに来てしまうかもな」
俺はフィアナ達に、クラリスに存在が知られればクラリスの味方をすると言ってある。それは言い換えればクラリスがノストニアで裁くと判断したのなら、解放は無しになり、また死刑だと判断すれば殺すことにためらいなどなくなる。
「…………はぁ、はいはい、わかりました。受け入れますよ」
「えげつないな」
フィアナは沈黙の後、ため息を吐いて署名をはじめる。そしてクロネは一言そう言って筆を取り始めた。
「けど、こんな紙で本当に命を落とすなんてことは――」
「あるぞ」
フィアナがパパッと署名を終えると、そんなことを言い始める。
「え?」
「俺がただ書類上の誓約を求めると思うか?」
「……え?」
フィアナがもはやノリとしか思えない反応しかしない。
そしてそうこうしている間、書面が終えた文面が浮き上がり、フィアナの体に吸い込まれていく。
「ここまでする必要があったか?」
「もちろん」
フィアナの呆然としている間、クロネも署名を終えて、同じ現象を起こす。そしてその間に疑う視線でそう訊ねられるが、当然の保険と言えるだろう。
「なに、俺についてはなにも言及しなければいいと言うだけという簡単な話だ」
笑顔でそう告げると二人とも深くため息を吐き、両手を上げるのだった。
「どうだ、役に立ったか?」
「それはもう」
フィアナとクロネに『星の誓約』を施した後、俺は自室にて、先ほどの功労者であるダンテと俺の自室で酒を交わしていた。
(効力を持つ契約書、その使い勝手は飛空艇以上かもな)
利便性で言うならば、おそらくは飛空艇とほぼ同等と言ってもいい。それこそ、相手がその条件を飲めばどのような枷だって嵌めることが出来る。唯一の欠点として、それがダンテのみが出来る技法という点だった。
「それにしても私はこの宿泊所から出ていないが、
「……まぁな」
正直すべてが想定通りではないが、概ね順調に進んでいっていると言っていいだろう。
(懸念点として、今のユリアの居場所と進路と、飛空艇の量産だな)
ユリアの進路はそのままの意味、ネンラールの軍にぶつかる可能性があるのか、そして捕まっているのかがわからないための懸念。そしてもうひとつだ、これは飛空艇の機密に関してのことだった。
「…………」
「あ~~???」
少しばかり飛空艇について考えていると、イオシスがこちらを見上げて声を発してくる。それを聞いて、いつものように頭を撫でれば、それを押し返すと言う遊びが始まる。
「ん!!ん~~」
「……ずるい」
イオシスが気持ちよさそうな声を上げると、後ろからリンの声が聞こえてきた。
「ははは、バアルは良い父親になりそうだね」
「さて……どうだろうな」
ダンテの言葉に返事をしながら、必死に押し返そうとしてくるイオシスを見る。
(一応アルカナ持ちということで面倒見るつもりだが、異物過ぎる存在は受け入れられない場合が多いからな)
イオシスはドワーフとミノタウロスのハーフ、現に頭部の一部に生えかけの角らしき出っ張りが存在しており、これが年を取ればはっきりとした角になっていくだろう。
「それで話は変わるが、何か悩んでいるのか?」
「……何がだ?」
「なに、先ほど進捗を聞いた時、すこし間があったから」
ダンテはそういうと月明かりに照らされているグラスを傾けて確かめる視線をこちらに向ける。
「話すと思うか?」
「問題がないなら別に構わないさ。それと、もし相談したくても、機密についてだから話せないのなら、『星の誓約』を使ってもいいけど?」
その言葉を聞くとこちらも口をグラスに着け、そして同時に脳裏で考える。
(コンテナ自体の運送と装甲についての話は付いたが、問題は、
飛空艇で問題なのは主に飛翔石、この軽くする能力を使用して俺は飛空艇を飛ばしている。それ以外に関しては俺でなくともやろうと思えば用意できてしまうため、問題はこの飛翔石という一点だった。
(飛空艇を量産すると言うことはその分、飛翔石の秘密が漏れる可能性を増やすことに繋がる。もちろん
量産する時点である程度知られるのも承知の上ではいるのだが、それでも知られないに越したことは無いため、考える。
「……無理に話せとは言わない。私に何か用があれば言ってくれ。もちろん『星の誓約』が必要な時もな」
「それは助かる」
ダンテの言葉にグラスを差し出すと、あちらもグラスをぶつけて、グラスが軽く打ち合う音が響く。
(しかし、『星の誓約』は楽だな。それこそダンテがいなくても
ダンテの『星の誓約』について考えていると、頭の中で何かが引っかかる。
「用意しておけば、あとは出すだけ、なるほど……」
「??何が何だか、わからないが、どうやら悩みは晴れたようだね」
ダンテのその言葉は聞いてはいたが、頭に入ってこないほど、ある考えを煮詰めることに集中していた。
「バアル様?」
「なんだリン、今いいとこ――」
「ふぁあ~~」
声を呆気てきたリンに反論しようとすると、膝上から安らかなあくびの声が聞こえてくる。
「……さて、バアルも何かを思いついたようだし、その子も眠そうだ。ここらで私はお邪魔させてもらおう」
「そうだな、それと『星の誓約』について礼を言う」
「役に立てたのなら、それに優る喜びなし。では私はこれで」
最後にダンテは何やら役者めいた言い回しをして。退室していった。
「では、私はイオシスを寝かしつけますね」
「ああ、頼む」
次にリンが膝上にいるイオシスを連れていくと、ベッドに寝かせ始める。
そして二人がベッドに向かっている間、俺はテーブルに紙とペンを出して、先ほど浮かんだ、案を忘れない様に書き留めるのだった。
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